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オリジナル小説を書いていきます。 遅筆ですが、読んで頂けると嬉しいです。
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#珈琲

207ページ目の珈琲の染み 03

207ページ目の珈琲の染み 03

 レンズこいつは大学生で、一人暮らしをしている。
部屋は適度に掃除されていて、適度に散らかっている。
自分でこしらえたとみえるカウンターの上には、コーヒーミルとドリップポットが隣同士でなかよく並び、部屋にはコーヒーの匂いが充満している。

ベランダに近いところに置いてあるテーブルの上が、俺の居場所になった。
とりあえず。

こいつにあだ名をつけてやろう。
学生証からわかったが、本名は”✕✕✕✕✕”

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207ページ目の珈琲の染み 02

207ページ目の珈琲の染み 02

 空気感起きたぜ。さすがに。
この持ち歩かれている感じ、久しぶりすぎて酔いそうだ。
ちょっぴり乾燥した手が、俺を握りしめている。

俺は、買われる、、、?
今更よろこぶわけでもないが、環境が変わる。それはいいことだ。

店の主人は淡々と、会計をすすめる。
人間のくせに、感情を持ち合わせていないかのようだ。
たしか、玉ねぎ臭かったあのおばさんを前にしても、こんなだった。

「カバーは付けますか。」

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207ページ目の珈琲の染み 01

 俺のいる本屋1年間に出版される本の出版冊数はおよそ7万5千冊。
1ヶ月にすると約6千冊、1日にすると約2百冊。

そんで、俺はそのうちの1冊。

20年くらい前に出版された、全共闘についての本だ。
今でこそウィキペディアに書かれていそうなことが、
だらだらと綴られている。

こんな本、誰も読みやしない。

そんなこと、店主だって分かってるだろう。
だが、この店の主人は、ずっと俺を本棚の隅に置いて

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