音 楽 と い う 名 の 沼 。
高校生の頃、初めてウッドベースの演奏を間近で見た。
目を閉じて聴覚を優先させると、楽曲への理解度が倍増するということに気付いていたオレにとって、そのパフォーマンスは本当に衝撃的だった。
まるでハートが踊り出すくらいに...。
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たしか、友人がJazz Bar のような場所へ連れて行ってくれた時のはずだが、詳細はまったく記憶してない。おそらくライブハウスなどよりもスペースが限られていて、ほんの数メートル先で行われるウッドベースの演奏は、楽器の大きさも含めて迫力が尋常ではなかったのだろう。
その頃、後輩の女子からJazzやらBourbonやらを一緒に嗜もうという趣旨の誘いが幾度かあったのだが、何故だかオレは断り続けてしまっていた。
どことなく伊藤潤二の描くあの富江を、少しだけ朗らかにしたような容姿の後輩だった。アルコールの話題でレイだとか何だとか言っていたようだから、いま思えば WILD TURKEY RYE のことだったかも知れない。
直接関係ないだろうが、ちゃんと飲める年齢になり一番好きになったアルコールは WILD TURKEY 12 だったりする。
しばらくして、オレの友人と付き合い始めたのでひと安心した記憶がある。正直なところタジタジだった。そんな後輩に誘われたら、怯まずに関係を深めることが果たしてチェリーに可能だろうか? オレはオレで少々偏屈な同級生に恋をしていたので、止むを得ない状況でもあったのだが...。
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話を音楽に戻そう。
先日、R某さんの記事で紹介されていたJazzの楽曲を聴いてみると、まさに弩・ストライクゾーンだった。長いこと生きて来て、自分がJazz音楽を欲しているということは充分過ぎるくらい承知している。しかし、何故だか入り口から先には少しも進めず、その世界にどっぷりと浸かることができないでいる。
20歳に差し掛かる頃からのおよそ10年間、俺はソウル・ミュージックを聴きまくっていた。きっかけはCD屋で流れていた Johnny Kemp のアルバム Secrets of Flying だったと思う。何の予備知識もなくデビュー当時の Teddy Riley がプロデュースした作品に反応したのだから、俺の音楽を聴くセンスも捨てたものではなかったのだろう...。
New Jack Swing はソウル・ミュージックというより R&B、多少の誤りもあるだろうが、その辺りの線引きについては容赦して欲しい。当時はブラック・ミュージックとして括ってしまえば良かったのだが、さすがにこのご時世では使用が適切なのか判断に戸惑ってしまう。
そもそもJazz音楽はアフリカ系アメリカ人の音楽をベースにしているため、ソウルやR&B、ヒップホップとの親和性が非常に高い。つまり俺にとって本来は敷居が低かったはず。それなのに何故だろう、今回のように気に入ったJazzに出会ったとしても浸かるどころかCDの購入さえしようとしないのだ。
もちろんオレのCDライブラリーに、Jazzカテゴリーがまったく存在しないわけではない。Bossa Nova 系のCDなら数枚はあるので、それに関連して Stan Getz くらいなら所有しているし、何故か Chet Baker だって数枚所有している。おそらく万人受けするような楽曲だろうとは思う。
それでいて、実際に聴いてみると意外なほど前衛的な作品が好きだったりするようなのだ。Trevor Horn の Art of Noise や Propaganda に飛び付いていた方なので妥当かもしれないが。
Jazzに包まれるのは本当心地よい、気分を高揚させてくれるのも間違いない。雰囲気を優先させるなら他の選択肢は霞んでしまう。空間を尊重したアンプラグドな響きのさなか、演奏される音色の1つひとつと向き合ってみたり、足枷のない自由な思考を繰り広げることだって楽しめる。
間違いなくオレはJazzが好きだ、それなのに...
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どっぷりと浸かることができないのは何故なんだろう?
考えられることが1つある。
メジャーリーグで活躍していた頃のイチロー選手がかつて、女性ヴォーカルしか聴かなくなったと何処かのインタビューに答えていた。一青窈さんを例に挙げていただろうか...。理由があったのかどうかまでは失念してしまったが、その感覚がオレにも当てはまるような気がする。便宜上、アニメソングを聴いていることにしてはいるのだが、実際は声質の良い女性ヴォーカルを選択しているだけのこと。
音楽で「 癒されたい 」のだろうと思う。
男性なら、女性のキレイな声であればその効果は高くなるに違いない。
同時に「 応援してほしい 」とも思うのだろう。
その感情はもはや「 恋心 」に近い。
そう考えると合点が行く。ソウル・ミュージックの美しいバラードを聴くと間違いなく心が癒される、浄化されると表現した方が良いくらいだ。不思議とヴォーカルの性別はどちらでも構わない。そういえばソウルを聴かなくなったのと同じ頃からアニメソングへの傾倒が顕著になっていった気がする。
間違いなくオレはJazzが好きだ。
それでも、応援や癒しの効果まで期待するのは無理があるのだろう。
ましてや恋だなんんて...。
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3年ほど前のこと。
相方の家にあったアップライトの鍵盤を、人差し指を使って一度だけ叩いた。室内に響き渡るその瞬間、自分が楽器の中にいるかのような錯覚に陥り、音楽は受動的ではなく能動的であるべきだと気づいた。もしかすると聴く側ではなく、聴かせる側の人間だったのかもしれない。
たった一音だけでも、言葉を失うほどのエモーションを感じた。
まるでハートが踊り出すくらいに...。
思えば、至近距離で見たウッドベースの演奏も自分を包み込む直接の音を聴いていたからこそ、衝撃を受けたのではないだろうか。その感覚をなんらかの形で追求していたらこの人生は別の世界線になっていただろう。
美術系クリエイティヴは間違いなくオレの天職、後悔などは一片たりとも存在しない。ただ、もし生まれ変わるのなら間違いなく音楽家を目指す。
子供の頃から美術世界に浸かってきたのと同じように、今度は音楽世界に浸かることになるだろう。
e n d
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追記...。
今回の記事はとても個人的な内容になっています。
色々な思いを、様々な想いを、どれ1つ忘れたくなくてこの場所に書き記してみました。ボクは思い出補正はそれほど行いません、風化していく分だけ本来の輝きを失っているはずです。例えば富江さんの容姿と表現した娘さんは、この数年後ミス何某だかに選ばれていました。
どっぷりと浸かる、というのは「 沼にハマる 」の意味。
そして、美術世界に浸かってきた、というのは自らの生命や人生を削って行ってきた事なのですから、沼などと表現する様な内容では決してありません。もちろん苦労と感じることはなく楽しんでいました。
たしかに幼少の頃から才能は認められてはいましたが、英才教育を受けられる様な環境ではありませんでした。その分、自分のやるべき事には一切の手抜きなどありませんでした、抜道や近道などを探してもまったく意味がないのです。
その部分は「 沼 」と少しも変わらないのでしょう。
それ、楽しいですよね?
なんらかの趣味的な「 沼 」にはまっている方々は、普段の社会生活において効率化を義務付けられているのではないでしょうか。遂行する事で失ってしまった大事な自分を取り戻すため、代償として行っているリベンジの様な趣味活動だと思うのです。
念のため代償行為という言葉を検索してみましたが、何故かネガティヴな雰囲気が漂っていました。執着心を伴っていたり、精神的に依存してしまうのが問題なのでしょうか。だけど、何かに熱中できなかった人生なんて、なんだか薄っぺらいんじゃないかとボクは思うのです。
おそらく恋愛もこれと一緒なのでしょう。
身を焦がすほどの恋をしてこなかった人物に、果たして人間としての厚みや度量は備わっているのでしょうか。本来なら個々を比べて優劣をつける様な事ではありませんけどね、どんな事でも適材適所が優先されるのが理想ですから。
だとしても...。
発信する人、表現する人、まぁクリエイターという事ですね、もしクリエイターを目指すのであれば「 恋愛 」や「 沼 」、「 執着 」などはある意味で必須アイテムなのかもしれません。発信する人、表現する人、は自分を切り売っているのだと把握するべきだと思うのです。薄っぺらかったり空っぽのクリエイターでは、実際すぐに燃料が尽きてしまうんですよね。
天才女子が、1つの才能だけ開花させ消えて行くのを何人も見てきました。
満足なら一向に構いません。
だけど実際はやっぱり長続きさせたいですよね。
ドラマやマンガとは違い、天才と天才との勝負は何回だって続きます。たとえ超天才に2、3回ほど負けてしまったとしても、勝てるシーンだって必ずやってくるのです。超天才はネームヴァリューの勝利だったりもするから、作品の内容は五分五分だったりもするのです。井戸の中でカワズだった天才も、2、3回負けただけで諦めてはいけない。そして、努力しなければ天才も維持できはしない。
人生は思っていたよりも長く続くのだから...。
だけどこれ、薄っぺらかったり空っぽのクリエイターではちょっと難しいんですよね。そうすると「 恋愛 」や「 沼 」や「 執着 」を知っている人物こそ可能性が広がるのです。人生経験が豊富なら強くて魅力的なのも当たり前でしょ?
人生、楽しんだもん勝ち。
短絡的で投げやりなこの言葉は正直言って好きになれないけど、別のニュアンスで考えてみれば真実なのかもしれません。
勝ち負けに関係なく、自分の人生をもっと楽しみましょう!!
でわ。
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