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mocca/デカンショ林業・辻 徳人さん「包括的な里山活用」

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写真左が辻さん
  • すべての根源は山にある

  • 次世代型林業事業がうまれる場

  • 土地を超えたコミュニティをつくる

● すべての根源は山にある
京北から車で1時間ちょっとの兵庫県丹波篠山市。そこで「+WOOD 暮らしに木を加える」と掲げ包括的な里山活用を進められているのが、林業家の辻さんだ。以前はブライダル業界にいたが、2010年、結婚を機に地元の篠山へUターン。その後は実家の農業を継ぐつもりだったところ、大変だからと両親に止められたという。「会社を辞めるのに次が決まってない状況になりました」と笑う。
次第に、地元で事業をしたいと思うようになり、まずは地域課題を探るために市役所に入った。市役所の職員だった1年間は、地元の人たちと話すことが多く、それが彼の大きな契機となる。
「例えば農家と話していると、一般的に言われている後継者不足よりも、山などの維持管理に困っているとわかります。台風による倒木で獣害対策の柵が倒れていて、鹿や猪に畑を荒らされることがあると」。兵庫県内の獣害柵を全部繋げるとパリまで届くと言われているそうだが、そんな量の柵を地元の人たちが全て手入れしていると知った。
そうした声を聞く中で、地域課題の解決には山から手をつける必要があると思うようになった。そこで市役所を離れ、NPOで森林整備に関わるように。倒木を撤去したり、傾斜地の法面崩壊を防ぐ緊急防災林をつくったりしながら、森がきれいになるよう取り組んだ。ただある時から、「これは林業と言えるんだろうか?」と思うようになる。森の見た目はきれいになっても、切った木が有効に使われていなかったからだ。
そこで彼は個人事業主として独立し、「山から木を出す」ことを考えはじめた。たとえば丸太を市場に出しても、そもそも古いサプライチェーンのままでは、その丸太がどこに行っているのか、どう使われているのかを知ることができない。ならば、自分で製材して流通させてはどうか。そうして、moccaをはじめとする様々な取り組みがはじまる。

● 次世代型林業事業がうまれる場
辻さんは2020年に株式会社デカンショ林業を法人化し、滞在型ものづくり拠点「mocca」をオープンした。今はそれ以外に、収益事業として高所の特殊伐採なども請け負っている。
moccaができるまでのスピード感は、凄まじいものがあった。築160年・空き家歴30年、元お米庄屋さんの古民家ととある縁で出会い、敷地込みで1000坪もあるが、わずか1年で改修した。住むだけではオーバースペックで、宿泊、工房、コワーキング、製造施設の機能を併せもつ。以前moccaに訪問したフェイランさんは、「moccaにはカフェ目的の人も、ファブラボ目的の人もいて、それぞれ全く違う目的で人が集まってるのが印象的だった。ここではなにか起きていると期待でき、人々の滞留が見える」と評する。
moccaで過ごしていると、木材が製品になる一連の流れを見ることができたり、薪で調理された料理をいただくことができる。さらにmoccaのコミュニティメンバーは、地域でのワークショップに参加し、森づくり、家づくり、土づくりなどを学ぶこともできる。ビスではなく「ほぞ組」でタイニーハウスをつくるなど、実際にメンバー同士で山に入って手を動かし、山の現状を知っていく。最近の辻さんは、地元の小学校で木工を教えたり、技術的指導を受けづらい一人親方の木こりにロープワークの講習会をしたり、彼が地域で必要とされる場は幅広い。
「ここは木材活用を促進する拠点ですが、林業家である自分が木材をたくさん売るためにつくった場所ではありません」と話す辻さん。彼の会社や彼自身のための場所ではなく、篠山の里山文化のために機能している場所だとわかる。
moccaのコンセプトは、「+WOOD 暮らしに木を加える(=木加)」。「ca/カ」の部分には、家/香/火など、さまざまな意味が差し込まれるそうだ。多様な人が出入りする共創型コミュニティ施設として、ここから次世代型の林業事業が生まれている。

● 土地を超えたコミュニティをつくる
さらに、京北をはじめとした他地域との連携も進む。たとえば企業とのコラボレーション。moccaにはダイハツ工業がサテライトオフィスを構えており、その賃料はスポンサー料としてmoccaに入るそうだ。また、クボタなど日本企業のトップの方々を連れてきてくれて、農業や林業などそれぞれの視点で里山活用を考える機会が生まれる。そうすると、「容易に山に入れる小自動車のプロトタイプを作ろう」など、小さな事業に展開していくことも。
今は、moccaや丹波篠山地域にハマった人がたびたび訪問してくれることも増えた。東京のビジネスパーソンでも、月2回も来てくれることがあるという。土地を超えたコミュニティを確かにつくることができ、山や地域づくりを外の人たちと一緒に考えていける時代。その時代にmoccaは取り組みを広げながら深め、関わる「コモンズメンバー」と、少しずつコミュニティを育てている。

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書き手:中井希衣子

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