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著者が語る:『反オカルト論』<カルロス事件>!

『反オカルト論』は、「非論理・反科学・無責任」な妄信を「欺瞞=オカルト」とみなす一方で、その対極に位置する「論理的・科学的・倫理的」な人類の築き上げてきた成果を「学問=反オカルト」とみなすという「広義」のスタンスに拠っている。

21世紀の現代においてさえ、「オカルト」は生き続けている。社会には「血液型占い」や「六曜」や「十干十二支」のような迷信が溢れ、「占星術」や「祈祷治療」や「霊感商法」のような妄信が跋扈している。さらに、「生まれ変わり」を煽る<医師>、「研究不正」を行う<科学者>、「江戸しぐさ」を広める<教育者>が存在する。その背景には、金儲けや権威主義が絡んでいるケースも多い。

本書では、「騙されない・妄信しない・不正を行わない・自己欺瞞に陥らない・嘘をつかない・因習に拘らない・運に任せない・迷信に縛られない」ために、自分自身の力で考え、状況を客観的に分析し、物事を道徳的に判断する方法を、わかりやすく対話形式で提示したつもりである。

その「第6章:なぜ因習に拘るのか」の「課題」には、次のような問題が登場する(p. 232)。

ランディは一九八八年、オーストラリアのテレビ局に協力して、いかにメディアと大衆がオカルトに騙されやすいかを検証するため、霊と交信するチャネラー「ホセ・カルロス」という人物を創作した。演じたのは彼の友人の芸術家で、腋にボールを挟んで瞬間的に脈を止める奇術を使って「死から蘇
る」演技を行った。彼らはシドニーのオペラハウスを「信者」で満杯にした後、すべてが「ヤラセ」だったことを暴露した。この「カルロス事件」から、メディアと大衆の騙されやすさを検証しなさい。[ヒント──ランディ「カルロス事件」のサイトなどを参照。]

カルロス事件の概要

1988年、オーストラリアで当時最も人気のあったテレビ番組『シックスティ・ミニッツ』プロデューサーのギャレス・ハーベイは、いかにメディアと大衆が騙されやすいかを、莫大な予算を使って検証することにした。そのために彼は、マジシャンのジェームズ・ランディに協力を依頼した。

ランディは、19歳の芸術家ホセ・アルバレズに大きな白いガウンを着せて、胸に大きな黄金のメダルを付けさせた。さらに、別人格のように話す方法や、突然感情を露わにする俳優のテクニックを覚え込ませた。ランディが創作したストーリーは、次のようなものである。

ホセ・アルバレズは、1986年にバイク事故で脳震盪を起こしたが、そこから回復して以来、人が変わったようになった。彼は、多重人格を専門とする精神科医から「カルロスという名前のまったく別の存在にチャンネリングしている」と診断される。その「カルロス」とは「2000歳を超える生き霊」であり、アルバレズの肉体に乗り移って、人類を救済するためのメッセージを告げるという、荒唐無稽な話である。

ランディがメディア向けに作成したプレスリリースには、次のような物語が描かれている。「一度それを見た者は、決して忘れはしないだろう。それまで周囲の人々と普通に話していた若き芸術家が、突然気を失い、その脈はほとんど止まりかける。彼の側に付き添う医師が、慌てて処置しようとする瞬間、何かが弾けたような衝撃と共に、再び力強い脈が打ち始める。今やアルバレズの肉体は、カルロスによって乗っ取られた。芸術家は死を通り抜けて、別の存在になったのである」

この場面を演出するために、ランディは、腋の下にゴムボールを挟み、瞬間的に締め上げることによって脈を止めるトリックをアルバレズに教えた。何度か練習するうちに、彼は「死から蘇る」演技をうまく行えるようになった。

カルロスが、ブロードウエイの劇場を埋め尽くした観客から熱狂的な喝采を浴びている実況ビデオもある。実は、観客は全員がエキストラで、撮影には莫大な経費が掛かったが、オーストラリアのメディアに、カルロスがアメリカで有名人だと信じさせるためには効果抜群だった。

ある日、カルロスは「地球の未来に大きな影響を及ぼす星がオーストラリアに昇る」というメッセージを告げる。そして、カルロス一行は、カンタス航空のファーストクラスでシドニーに到着。空港からは、白い大型リムジンで最も格式の高いホテルに移動し、大統領専用特別室を借りきって宿泊した。

すでにプレスリリースに洗脳されていたオーストラリアのテレビ各局は、カルロスの特集番組を組んだ。カルロスは、スタジオの観客の様子を透視し、司会者がランダムに選んだ観客の悩みに正確に答えて、視聴者を驚愕させた。実は、カルロスの耳の中に仕込んだ小型通信機に、ランディが細かい指示を与えていたのである。

別のテレビ番組では「チャンネリングはインチキではないですか」と問いかけたインタビュアーに、カルロスが激怒し、マネージャーがコップの水を掛けるというパフォーマンスを行った。この光景は何度もニュースに映し出され、これが逆にカルロス現象の宣伝になった。

カルロスを「神」と呼ぶ信者が増え始め、ついにオペラハウス劇場が「信者」で埋め尽くされるほどになった。そこでテレビ番組『シックスティ・ミニッツ』に登場したカルロスは、すべてが「ヤラセ」だったと暴露したのである。

『シックスティ・ミニッツ』とランディの解説

テレビ番組『シックスティ・ミニッツ』の映像と、カルロス事件に対するランディの解説が YouTube にアップされているので、紹介しよう。

読者は、この「カルロス事件」をどのようにお考えだろうか? なぜ「メディア」は、これほど簡単に騙されてしまうのだろうか? なぜ「大衆」は、これほど簡単に騙されてしまうのだろうか?

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