見出し画像

おわりに

 以上で『論理的思考の極意』の伝授は終わりです。いかがでしたでしょうか。
 今回、身に着けた論理的思考の極意を日常生活で物事を考えることから、読書、プレゼンテーション、コミュニケーション、専門分野の勉強、ビジネスなど、多岐に渡るジャンルに活かして欲しいと思います。そして、『論理的思考の極意』の伝授の締めとして3つの主題についてお話しさせてください。それは論理的思考の誤解と論理的思考の真の意義と論理的思考の習得方法についてです。

 まず、1点目の論理的思考の誤解について。
 皆さんの中で、論理的思考は完全無欠の合理的な結論を導き出す最強の思考法と思われている方、または、それと似たような考え方をされている方はいないでしょうか?ちなみに、私は論理的思考を極めれば最強な人間になれるとすら思っていたことがあります笑。しかし、それは論理的思考に関する偏見から来るものです。第一章でも確認した通り、論理的思考の意義とは、「自分とは異なる意見を持った他者を想定したときに、自分や他人の意見を飛躍なく説明、理解するために考えること」です。すなわち、”相互理解のコミュニケーション”が目的なのです。確かに、自分とは異なる意見を持った他者に自分の意見を飛躍なく説明する時に、自分の意見の整合性のなさに気付いて、自分の意見が最適化されることはあります。しかし、それはあくまで自分の意見を他者に飛躍なく説明しようとした時に、結果的に自分の意見が最適化されるだけであって、論理的思考の主眼はあくまで言語を使用した相互理解のコミュニケーションの為にあります。むしろ、自分の意見を最適化する為にブラッシュアップする考え方は批判的思考、すなわち、クリティカルシンキングと呼ばれるものになります。したがって、本書では一般的に論理的思考に期待されるあらゆる要素を”あえて”凝縮して書き留めましたが、本来的に論理的思考の意義とはあくまで”相互理解のコミュニケーション”が目的です。そのため、論理的思考を極めたからといって、全知全能の神ではない人間が不完全な情報を元に不確実な思考をしてしまうのは仕方のないことです。それよりも、論理的思考を用いて、自分や他者の意見を誤解なく伝達や理解することを心掛ける方がより現実的といえます。要するに、論理的思考は神に近づく技術ではなく、人に寄り添う技術ということです。

 次に、2点目は、論理的思考の真の意義について。
 論理的思考の真の意義とは何か。何か宗教臭い様なことをいいますが、それは究極的に言えば、愛です。なぜなら、論理的思考の意義とは「自分とは異なる意見を持った他者を想定したときに、自分や他人の意見を飛躍なく説明、理解するために考えること」だからです。これは言い換えると、自分とは異なる他者に対して、自分の意見を伝えるために努力するということ、または、他者の意見を理解できるように努力することです。要するに、徹底的な他者との相互理解の営み、すなわち、愛なのです。それゆえに、本書を読まれた方は、『論理的思考の極意』を無暗に他者の意見を論破するために悪用することや自分の意見を他者に押し付けるために悪用せずに、他者に寄り添い合うために利用してもらえると幸いです。ちなみに、論理トレーニングを世に広めるきっかけとなった哲学者の野矢茂樹さんも『国語ゼミ』という著書の対談の中で同じ趣旨の意見を述べています。

 最後に、3点目は、論理的思考の習得方法について。
 本書は『論理的思考の極意』について①分ける②つなげる③比べるという3ステップで解説しました。しかし、これらの3ステップはただ知るだけでは決して身につかず、思考習慣として身に着ける必要があります。なぜなら、論理的思考は学ぶだけではなく、実際に試すことで徐々に習得される技術だからです。このことを野球の習熟に喩えましょう。野球に置いてバッターがボールの上手い打ち方を如何に知っていても、プロ野球選手のイチローになれる訳ではないでしょう。それと同じように、『論理的思考の極意』を知っているからといって、正確無比なロボットのように論理的な思考できるようになる訳ではありません。そのため、論理的思考を習得する為に、本書で紹介した『論理的思考の極意』を読書、ビジネスの場面、または、今後の筆者が紹介する論理トレーニングの問題の中で活用して、是非とも身に着けて下さい。

 では、以上を持ちまして、『論理的思考の極意』の伝授は終わりです。筆者と同じように過去に何か自分の意見を上手く伝えることが出来ずにコンプレックスを抱いた読者の方々、または、様々な論理的思考の本を読んだ結果、匙を投げてしまった方々が、愛を根拠に、世界を言葉で分けて、つなげて、比べて、他者に寄り添い合うような暮らしへと進む一助になることが出来たならば、私の長きに渡る論理的思考の研鑽も報われます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?