第1回「人流の動向から感染症への警戒度を探る話」
COVID-19感染症対策に定期モニタリングされた人流データ
2020年から世界を恐怖に陥れてきた新型コロナウィルス感染症もようやく落ち着き、2023年5月8日から「5類感染症」となって約1年が経過しました。この間、さまざまな変化がありましたが、リモートワークが日常化したり、巣ごもり消費が伸びる中、よく耳にするようになった言葉の一つに「人流」データがあります。
言葉としては聞くけれど、しかし「人流」といっても様々な種類のデータ(🤞)があり、どのような場合にどう使い分けをすればよいのか、使用上の注意も含めて「効果的に活用するスキル」を身に着けられた会社や組織はまだまだごく一握りのように感じます。
LocationMindはそうした人流データを提供している会社の一つですが、いつもお客様にご案内している説明をまとめた文書に落としてみよう、ということになりました。それがこの「LocationMind Tech Blog(GPS編)」を始める動機です。
では早速、GPS(🤞)とは何か、と行きたいところですが、これはなかなか退屈な説明になりそうです。小学校で習う三角形の合同条件から、大学の理工学部で勉強する特殊相対性理論で予言された「時間の遅れ」といった現象までを活用する、実は大変おもしろい話ですから、いずれどこかでご説明したいと思いますが、最初はいくつか具体的なケースをご紹介し、活用イメージを持っていただくことを優先したいと思います。そして初回は、まさに「新型コロナウィルス感染症対策に人流データがどのように活用されてきたか」をまとめてみようと思います。
感染症ですから、もちろん「人が密にいる場所は感染を起こしやすい」ということになります。しかし、重要なパラメータはこれだけではありません。「人が感染症にかからないためにどのくらい注意を払っているか」も重要なものの一つです。人流データですから、もちろん、人が稠密にいる場所はわかります。では「人の警戒意識の高さ」は人流データからどのように推測できるものでしょうか?
LocationMindでは、感染症対策を検討していた東京都医学総合研究所のチームとの間で議論を重ね、試行錯誤を繰り返した後に、以下の結論を導きました。それは、
都市のいわゆる盛り場、といわれているナイトエンターテイメントの盛んな場所に
そのエリアへの来訪者が、
夜の8:00以降にどのくらい繰り出しているか
この人流変化を指数として観察すると、その数週間後の感染者数の増減と高い相関があることがわかりました(※)。そうです、もし警戒レベルが高くなれば、わざわざ行く必然性がない危なそうな場所、時間帯に長く留まるような行動は減るはずです。もちろん、そういう場所にお仕事で行くとか、近所に住んでいるので、そうした地域の道路を通行するということはあるでしょう。ですから「そこにいる必然性が低い人たち」(推定居住地(🤞)でも推定勤務地(🤞)でもない人=来訪者)に絞って人流を観察することに着目しました。
ここにあげた数値は、その後、東京都のモニタリング会議や厚生労働省のアドバイザリー会議に、毎週参考資料として提出され、テレビのニュースでも何度かご紹介をいただきました。今でもこちらから過去のレポートのストックにアクセス可能です。シカゴで行われた研究で、85%の感染は10%の滞留場所(目的地)で説明できる(Chang S et al., Nature, 2021)ということが明らかになり、こうした「繁華街における夜間滞留人口」をコントロールすることは非常に重要な政策目標になっていった経緯があります。
(※) このインサイトは論文執筆され、公開されています
(🤞)マークがあるものは、いずれ掘り下げたBlogをポストする予定です
「LocationMind xPop」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。