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第4回「空飛ぶクルマのバーティポートをどこに作るか」

 空飛ぶクルマの実用化がカウントダウン段階です。計画通りに進めば、2025年の大阪万博で、日本初の空飛ぶクルマが実用化され、会場のある夢洲(ゆめしま)と大阪市内との間を10分たらずで結ぶことが期待されています。
 空飛ぶクルマは、軽量で耐衝撃性がある素材、高効率なモーターとエネルギー密度が高く充電時間が短いバッテリー、自動衝突防止システム、高度な飛行制御などの先端技術が惜しみなく投下された、まさに夢の乗り物です。そんな技術の結晶をしっかりと商用利用していくために重要なポイントの一つが、採算性であろうと思います。
 自動車で30分で移動できる場所を10分たらずで結ぶ、あるいは、鉄道で90分かかる移動が、30分で済む、という時間の節約効果は、果たしていくらの価値があると認識されるのか。折角の技術の結晶ですから、文字通り空を羽ばたくために、その空飛ぶクルマの発着地点(バーティポート、といいます)をどこに設定すれば、正しく需要を捉えることができるのか、また財布の紐が緩むのかは、商用化を成功させる上での最重要ポイントの一つです。このバーティポートの設置候補地選定に人流データが使われるようになってきました。
交通工学の世界では、将来の交通需要を推計する際には、1950年代に米国で開発された「4段階推計法」、すなわち以下の4つを順に推定していく手法が基盤となっています。

  1. ゾーン別の発生集中交通量 (交通量がどこで発生し、集中するか)

  2. ゾーン間の分布交通量(どこへ行くのか)

  3. 交通手段別の分担交通量(どの交通機関で行くか)

  4. 経路別の配分交通量(どの路線を使うか)

 従来こうした交通量を推計する際には、過去に行われた調査データを参照したり、実際の交通量調査を行っていましたが、時には調査時点が古かったり、またある一日の交通量をベースに全体を推計するため、必要十分なデータをもとに計画を立てることが難しい側面がありました。しかし、従来と同じ方法を繰り返す場合には、以前調査した時との差、経年変化を比較しやすい、という利点もあります。

 さて、この「4段階推計法」で利用される指標は、いずれも丁寧に集計処理をすれば、GPSデータでも分析することができますし、むしろGPSデータを使う利点も数多くあります。いくつか挙げていくと

  1. 一日のデータではなく週、月、年単位での一日平均を取ることができる。
    (従来の交通量調査では、調査日数や調査ポイント数が多くなるとほぼ比例的にコストが増えますが、GPSデータによる解析ではそのようなことはありません)

  2. 「4段階推計法」で必要になる、全ての指標が推計可能である。特に鉄道路線は一部の例外(※)を除き、利用している路線を推計できます。

  3. 過去に遡った推計値と把握できる。例えばコロナ感染症流行前と後を比較する、あるいは5類感染症分類前と分類後を比較する、といったことが可能です。

 GPSデータを使うメリットは数多くあるため、何十年も続いてきた国の統計や都道府県、市区町村などが行う交通量調査も、GPSデータに切り替わる動きがでてきています。この流れは今後大きくなることはあっても、縮小することはないでしょう。特にこれから利活用が始まる「空飛ぶクルマのバーティポートの設置候補地選定」においては、「従来長い間行われていた確立した方法」がないため、最初からGPSデータによる分析がメインストリームとなりそうです。

※並行して走行する路線がある場合には、その路線を切り分けるのは難しいです。

「LocationMind xPop」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。