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trattorìa al ragoût:全然人がおらんところが面白い。イタリアの田舎まちで見た小さなコミュニティで生きるバールとしての店づくり。

※この記事は、丹波篠山市福住という宿場町に集う事業者を紹介した冊子の中に掲載されているインタビュー記事です。(まとめはこちらから


福住の旧街道の入り口、参勤交代の折に大名が宿泊したまちの中、築150年近い古民家を改修したガラス張りで格子が馴染む外観の建物に、イタリアの国旗が下がっている。イタリアの田舎まちにあるバールをイメージして開業された兼井さんご家族が暮らし、営むイタリア家庭料理のレストランだ。2012年の開業当時、福住には今のように移住者のお店が立ち並んでいたわけではなかった。

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「当時は誰も歩いてなかったよね。全然人がおらんところが面白いなと思って。イタリアに行って、田舎のまちを見て。マンマのところに泊まって、小さな小さなコミュニティで生活しているのを見てきたから、これはええなと。全くこのままやん、って。」

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兼井さんは神戸で会社に勤めていたころからカフェ(当時は喫茶店)をやりたいと漠然と考えていた。そんな考えのもと、イタリア旅行に行った際に田舎まちのバールを見て「これはバールスタイルのカフェだ」と思ったそう。当時、日本ではカプチーノ・カフェラテと言ってもほとんど誰も知らなかったが、自分自身の専門性を特化させようとエスプレッソ専門店を神戸で開業した。

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神戸の岡本でエスプレッソ専門店を10年営んだ後、福住で現在お店がある古民家に移住し開業したレストラン。移住と移店の際に、ここに決めた決め手については「素晴らしい建物があって、朽ちていくのはしのびないと思った」と話す。「景観についても、イタリアの田舎まちのイメージと相違なかった。中部のトスカーナ地方は、オリーブやワインの畑があって、頭の中でリンクするところがけっこうあって」世の中のセオリーではなく、どこまでも自身の感性や良いと感じるものを大事にしている人だなと思う。

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「このゆったりした景観や静けさの中で食べるというのは、非日常的な価値がある」兼井さんはそう言った。実際に兼井さんのお店に来るために約1時間、車を走らせて都市部から定期的に訪れてくれるリピーターさんもついてきたのだとか。「むしろ都会よりこちらの方が、リピーターは濃い印象がある。都会だと一見さんがほとんどだったから」そう言って人と人の繋がりができることを喜んでいた。

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ノウカナガイさんと連携し、日本では売っていないイタリアの野菜を作ってもらうこともされていて、イタリア本場の味をそのまま再現することにこだわる。「イタリアのマンマ、シェフに教えてもらったレシピに、引き算も足し算もしてない。向こうの本場の味、日本人が食べた事ないような味もあるし、日本人好みで無いものもあると思う、けどうちはそれを出す」「パスタに生クリームを加えたり、お客さんがこうしてくれというものに合わせるより、イタリアの人が普通に食べるものを提供する。そのままの個性と味が、出てくる」その人が出せるもの、その人がやってるものじゃないと意味がないでしょうと語る兼井さんの姿を見て、ああ、この人は職人なんだなと思った。

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「変える、曲げることをしたくない。それだったら規模を縮小してでもやらない。美味しい美味しくないは個人の感想であって、それは二の次」ときっぱり。工業製品や一般市場に流通する野菜よりも、地元で採れた新鮮な野菜を利用することで、自分の色を出すことができていると言う。兼井さんはイタリアの本場の味、そして自分の味についてくれるファンにしっかりと向かい合う。

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新しい野菜にも積極的にチャレンジする長井さんが近くにいたり、偶然にも同じイタリアのベネチアングラスに惹かれて職人となった関野さんがいて、できることのバリエーションは広がってるいと兼井さんはお話してくれた。兼井さんも含めて、みなさんある意味クラシックで基本に忠実な創作活動をしている。そして、その中で自分にしかない個性を磨き上げている。これはすごいと、純粋に感じた。

トラットリア・アル・ラグーさんの向かいには、洋風な外観のおしゃれな建物が見える。同時期に移住してきたご夫婦が営む「Littleaf」には、関野さんの作品も並んでいるとの事で、さっそく行ってみることにした。

Next→Littleaf・Holistic Mugwort:自然に根ざして生きていたい。自身の辛い経験からたどり着いた自然療法のサロンと、人の心の調和に繋がるお店づくり。

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Art direction・design:中西 一矢(SANROKU)
photo:大崎 俊典(photo scape CORNER.)
interview・writing:安達 鷹矢(㍿Local PR Plan)

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