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#1 外食の経営モデルについて考える

富山で活動している、社会起業家・クリエーターの明石博之です。

「Local food table」 は、ビフォアコロナの2019年から構想を温めてきたプロジェクトです。当初は、地方で飲食店を経営するのが難しい、飲食店をやろうという起業家が少ない、という現状を踏まえて、富山市の中心市街地を対象とした、飲食店の開業・経営を支援するソーシャルベンチャーを目指していました。

その支援の肝となるのが、シェフが斬新な調理に挑戦したり、お客さんとの関係づくりを見直したり、飲食店をもっと広い世界で捉えた活動をはじめたり、そういったチャレンジングな取組みを一緒に考え、実現していくラボ的な「場」の計画です。

少し言い方を変えれば、「食のコワーキングプレイス」とか「地方の食文化を楽しむハブ機能」とか、どちらかと言うと、人々が沢山集い、わいわいと賑やかな雰囲気のイメージが似合う場所です。

1.強制的な大社会実験がはじまる。

しかし、このコロナ禍の社会で、私たちの志向が行き場を失ってしまい、安定した社会を前提としたこの構想に対して、関係者一同の気持ちにブレーキがかかってしまいました。

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富山県では珍しい、広いキッチンスペースを完備した食のコワーキング
コーワキングプレイス  COMSYOKU(富山県高岡市戸出町)

それから私たちは、アフターコロナ時代の飲食店ビジネスを中心とした外食文化のなかで、残るエレメントと残らないエレメント、変わる価値と変わらない価値は何なのか、を考えねばならないと思いました。

人類は、不可逆的な文明の積み重ねによって、ここまで発展してきたのだと思います。世界を揺るがす大事件があれば、必ず発明があり、革命があり、新しいリーダーが生まれています。コロナの影響によって、100%完全なかたちで元に戻らない世界において、外食はどうなっているのでしょうか。

誰も正解がわからない。しかし、仮説を持つべきだ、と思います。その検証が今からはじまるわけですね。

2.飲食店のビジネスを分解してみる。

「Local food table」 構想のはじめのころ。飲食店を経営することの難しさについて考えてみました。地方と都会では、そもそも飲食店ビジネスに対する構え方が違うようにも思いますが、業態の特徴という意味合いで読んで頂ければ幸いです。

もちろん、飲食店を実際に経営している方や、長年、シェフをやっている方にとっては当たり前のことを言っているようにも感じると思います。しかし、それでも何か、1つでも新しい発見や気づきがあれば嬉しいです。

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まず、自らが飲食店を経営してみると、「なかなか利益がでにくい構造だ」と感じます。地域や立地に関係なく、業態の特徴として、そう思います。

利益の出にくい背景には、経営資源である「人」はもちろん、「食材」も生ものであることが深く関係します。その店に足が向かうかどうかは「お客さんの気持ち次第」という点においても、それも生ものと言えます。放置すれば大変なことになるものばかりです。

飲食店の経営構造を、①ストック、②スタンバイ、③フロー、の3つのエレメントにわけてみますと、それぞれが有機的に連動しているのが分かると思います。運営責任者は、大きく3方向に目を配りながら、それぞれの課題と向き合い、マネジメントせねばなりません。

小売業であれば、①ストック、③フロー、の2つがメインとなってリレーするため、②スタンバイを調整して、供給側でコントロールすれば、仮に③フロー、が減ったとしても、マイナスにはなりません。

飲食店が同じように、供給側のコントロールをすれば、①ストック、の賞味期限が切れたりして、ロスが出てしまいます。これが、1年間くらい在庫を抱えても腐らないものであれば問題ありません。

だからこそ、①ストック、の都合も気にしながら、②スタンバイは、それに見合った準備をせねばなりません。この三角形のどこかが止まってしまえば、瞬時に負の連鎖が起こります。どのエレメントも待ったなしで、動かし続けなければなりません。

3.いつもスタンバイしているコスト。

飲食店の経営が難しいのは、ここにあります。お客さんが来ても、来なくても、ピーク対応できる人員を確保し、料理の仕込みをして待っていないといけないのです。待っているのが時間給のスタッフで、準備しているものが鮮度命の食材であれば、運営責任者としては、冷静な気持ちにはなれません。

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スマホで見えない場合は、ぜひ、PCを開いてじっくりと眺めてください。お客さんを待つという行為は、通りを行きかう人が少ない地方のほうが不利です。スタンバイによって、次のような負のスパイラルが起こる可能性があります。

<STAND-BY 負のスパイラル>
・効率のよいスタッフ配置ができず、人件費を削減するのが難しい。
・売上が少ない日は、極端に人件費が重くなり、生産性が低くなる。
・人材教育にかけるコストが「投資」とならない。
・仕事に慣れないアルバイト、店のブランドづくりができない。

季節や天気、去年のデータなどと比較して、アルバイトのシフト表をつくる作業は、ある程度の経験とセンスが必要だと思います。

慢性的な人手不足のなか、せっかく応募してくれたアルバイトさんを繋ぎとめておくためにも、定期的にシフトに入ってもらわないといけません。

4.生産性が高い時間は決まっている。

これは、フロア接客をメインとした飲食店の場合です。いつでもネットから注文が入ってくるオンラインビジネスのフローとは異なり、ランチやディナーをめがけて準備をして、生産性の高い時間帯にフローさせるのが、店舗を持つ飲食店のビジネスです。

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完全予約制の店ではない限り、フローに対して、スタンバイはいつも多めに見積もっておかなければなりません。そうでなければ、予想外の来店者があっても、限られた時間内に生産性を上げることができません。

<FLOW 負のスパイラル>
・稼働していないリソースの分が、利益を食いつぶしてしまう。
・減価償却費や維持管理費までをまかなう売上がつくれない。
・店舗での売上で足りない部分を補う他のサービスが必要となる。
・マスマーケティングに頼らざる得ない。

食事をする時間は、人々の生活リズムと社会の常識的なルールによって、だいたい決まっているものですから、店側のルールで商売することは大変難しいことです。

ちなみに、カフェは単価が低い一方で、朝から晩まで長い時間、ゆるくフローしています。仮に、カフェがランチタイムの特別メニューを設けないのであれば、長時間にわたって、ゆるくスタンバイしておけば良いということになります。

5.期限付きの在庫を管理する難しさ。

飲食店の方々は、食材の在庫管理を当然のようにこなしています。シェフの頭の中には、在庫管理リストがあって、刻々と変わっていく状況を把握しているのだと思います。

また、原価計算に基づく仕入れ作業も、飲食店が抱える大変な仕事の1つです。生産性のピーク、つまり「フロー」のタイミングのために、こういった仕事をこなし、さらにメニューの値段のなかに、その分のコストを賄えるかどうかと考えると、本当に薄利な商売だと思います。

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例えば、すべての食材がチェーン店の本部からやってくる冷凍パックのものであれば話は別です。数か月のスパンで、足りなくなったものを順に補給していけば良いのですから。とくに、個店の飲食店のストックには、次のよういな負のスパイラルが起きる可能性があります。

<STOCK 負のスパイラル>
・仕入れの価格変動を小さな個店で吸収、コントロールできない。
・価格交渉できる規模の取引ができず、市場の動向に振り回される。
・品質よりも、安定した仕入れの優先順位が高くなってしまう。
・安定を求めることで、他店との差別化ができなくなる。

6.「入」が変わっても、「出」は変わらない。

高級な寿司屋さんや鉄板焼きの店に行くと、「本日の○○、¥時価」とメニューに書いてあるのを見かけます。私はこれを見るたびに、うちの店もこうできたら楽だなぁ、といつも思います。

つまり、仕入れが高いから、お客さんにも高い値段で出す、という当然とも思えることですが、お店側は、その値付けが許されるブランドづくりを同時にしているはずです。

「ブランド=約束」というマーケティングの考え方があります。約束とは、お店がお客さんに約束することです。約束の1つが「価格帯」です。あの店に行ったら、だいたい1,000円以内で飯が食える、3,000円もあれば飲める、など。

お店側は、その約束を守るために、仕入れが高くなっても価格のほうを維持しようと努力します。仕入れが高くなったから、量を減らそうとか、質を落とそうとかしようものなら、お客さんはすぐに気づき、約束を破ったと思うかもしれません。

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飲食店の人は、基本的にサービス精神旺盛な方が多いので、ついついお客さんが喜ぶことをして、結果的に利益が出ない方向に行ってしまいがちなのです。

<現実的な価格の妥協ゾーン>
上記の図中の補足説明。料理の値付けの幅は、非常に狭い。需要があるからと言って、値段を上げることは困難です。このゾーンで商売を続けることで、いつも余裕がなくギリギリの経営。社会や流通の変動リスクもすべて店側がかぶるのが普通になっている。

これが飲食店の頭が痛いところではないでしょうか。原材料、手間など比較的見えやすいコストだけではなく、固定費の他、あらゆる変動リスクを吸収するだけの利益を乗せていないと、本来は商売として成り立ちません。

お客さんの多くが、家で料理をつくるし、食材の原価は想像できます。「もしこれを家で作ったら、、、」と頭の中で、ソロバンをはじく人も少なくないはず。レベルは違えど、私にも作れるという商品ならではの弱みです。

以上は、一般論としての頭の整理だと思ってください。人気のある店、地元で愛される店は、この問題を乗り越えて、いや問題とも思わずに商売を続けています。

では、そういったお店と、なかなか商売が上手くいかない店との違いは何なんでしょうか?もっと言うと、今の飲食店という業態のあり方を超えて、お店もお客さんも、地域の関係業界もが、より豊かになれる可能性はないでしょうか?

引き続き、考えていきたいと思います。このページを最後までお読み頂き、ありがとうございます。



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