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#3 盛田シェフと考える、これからの飲食店のあり方と拠点づくり

富山で活動している、社会起業家・クリエーターの明石博之です。

私たちが構想している「Local Food Table(LFT)」にぜひ、ガッツリとコミットして頂きたいシェフがいます。その方は、東京の三軒茶屋にあるビストロ「RIZO」のオーナーシェフ、盛田智宏さんです。

盛田さんのプロフィールは、記事の一番下に掲載してあります。

昨年、ある方を介して、食材の商談で富山県に来られた盛田智宏さんと、同じくシェフの片岡竜也さん(Francaise La Porte/川崎市 オーナーシェフ)に初めてお会いしました。

そのとき、一泊して、わざわざ射水市新湊までお越しいただけることになったので、地元の漁師さんと交流してもらったり、地元のお寿司屋にご招待して飲んで語ったりと、初対面にもかかわらず、大変親しくさせてもらいました。

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写真:2019年8月、お二人のシェフと一緒に、漁師さんの船で新湊内川と富山湾を巡るミニツアーに出かけたときの様子。

それ以降、SNSでの交流が続き、オンライン上で「Local Food Table」の構想をお話するような機会も増えてきました。今年に入ってから、「近いうちに、夫婦でRIZOに遊びに行きますからー!」と言って間もなく、コロナの影響で東京に遊びにいくことが困難となりました。

かと言って、コロナが落ち着くのをただ待つわけにもいかず、盛田さんが何をやっているかが気になることもあり、ZOOMでお話しましょうと提案しました。その内容が今回の記事です。

1.富山と東京のオンラインで、盛田さんに再会。

明石:盛田さん、お久しぶりです。もちろん、お店は大変だと思うんですが、今どんな感じで営業しているのですか?

盛田:普通の営業はやってないです。予約ベースでテイクアウトだけやってます。ただ普段よりは時間があるので色々考えることができてます。これから通販に力入れるんですけど、自分の店はオープンキッチン。加工の許可が取れないので、知り合いの店舗とコラボしてはじめようと思ってます。

明石:通販は今までやってなかったのですか?

盛田:実は、店をつくるときの事業計画に、バッチリと「通販事業」と書いてあるのに、日々の営業を回しているとなかなか時間が作れず、形にできないまま7年も経っちゃいました(笑)。変な言い方ですけど、今回のことは良い機会だと思って取り組んでます。

明石:やっぱり個店は、どんな美味しい料理をつくるかにフォーカスしているので、通販もそうですが、効率的な経営とか、システムを入れるとか、人材シェアするとか、そういったところまで時間を割くことは難しいですよね。チェーン店みたいなシステムを個店がネットワークを組んでやるのって、どうなんでしょうね?

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東急田園都市線 三軒茶屋駅より徒歩2分のところにあるビストロ「RIZO」の外観。オープンキッチンで雰囲気のある店構えです。

盛田:チェーン店の強みを個店の経営に取り入れるのは良いことですね。料理はそもそも良いものを作ろうとすればするほど非効率になっていくというジレンマを抱えてます。そして同時にその「非効率さ」こそが絶対に削れない料理の肝だったりします。チェーン店のような仕組みによって単純化出来る部分はどんどん単純化、システム化を進めて、それによって空いたリソースを、削ることが出来ない、こだわるべき「非効率さ」に投入する、というメリハリが大事だと思います。他には、人的リソースのもたつきを少なくするため、個店同士がフレキシブルに人材をシェアできるような流れが生まれてくると嬉しいですね。

明石:スタッフを1つの店でのリソースと捉えるから、逆に人手不足になっているのかもしれないですね。店で働く人も、認定スキルみたいな制度によって、どの店に行っても保証された時給で働けたら、安心ですよね。

盛田:個店もチェーン店のノウハウとかを学ぶ必要がありますね。個店のやり方であれば、自分が運営のすべてをわかっているけど、チェーン店のシステムを回したことがある人が、「Local Food Table」のメンバーにいたら最高です。「食のことだからシェフ」と考えずに、「店舗運営のプロ」とか、「流通のプロ」みたいな人がいるといいですね。

2.プロジェクトの仲間集めをどうするか?

明石:アフターコロナのことを考えると、店舗運営だけじゃなくて、色々なポジションを経験した人とつながりたいですね。

盛田:デリというか、中食のプロの人、通販などをよく知る人がいれば、もっと広い世界で食のことを考えることができそう。どうやってメンバーを集めるかが一番の難関ですが、明石さんのほうでアイデアありますか?

明石:私たちの問題意識とか、私たちが何をやりたいかとか、完全にオープンにして、それに関わりたいという人を募集したいです。本当の業界のプロは東京からリクルートする必要があるかもしれません。あとは、飲食業界は働き方が難しいですから、若い人にどうやってきてもらうか問題ですね。

盛田:自分は仕事と遊びの区別がないし、経営者ってこともあり残業を残業だと思ったことがない。でも、この感覚を強要は出来ないし、すべきでもないです。さらに教えられることでもないと思います。料理人は技術者だから、たとえ雇われでも個人事業主みたいな感覚が必要なんですけど、なかなかそのあたりがピンとこないまま、自身の思いと周囲の環境とのギャップに苦しむ若い人が多い印象です。「会社に就社」する感覚ではなかなか続けられる仕事ではありません。料理人という「職業に就職」する必要があります。

明石:世代間で考え方の違いがあるのですかね?

盛田:若い人の中にも我々に近い感覚の人ももちろんいるので、うまく彼らにアクセスできれば良いけど、そもそもこの業界に入ってくる絶対数が少ないなかでは、そう簡単なことではないですよね。

明石:今回は料理という狭い世界ではなく、食に関わる幅広い人たちのチャレンジを応援するプラットホームをつくりたいので、ぜひ若い人にも来てほしいですね。

3.盛田さんへのラブコール?

明石:ところで、盛田さんは、富山にどれくらい関われそうですか。

盛田:「Local Food Table」は、めちゃめちゃ面白そうですが、富山に頻繁に通うには、少なくとも経験10年以上の料理人を、うちの店で雇わないと離れることは出来ないでしょうし、何をやるにもしてもまずは自分の店がちゃんとしてるのが大前提なので、なかなか難しいところです。何か良い方法を考えたいですね。

盛田:例えば、今準備している通販事業なんかは、べつに対コロナ的な意味合いで取り組んでるわけではなくて、そもそも僕が実店舗だけにしばられないような働き方/動き方をすることを目指して、オープン前から構想してた事業です。まあ結局7年も形にできないままでしたけど(笑)

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ビストロ「RIZO」は、常時10種以上の自家製無添加シャルキュトリ(フランス語でハム、パテ、ソーセージなど加工肉類の総称)と、注文毎に炊くオリジナルの炊き込みご飯をスペシャリテに、産直魚介/野菜を活かした季節のお料理や、定番から希少部位まで丁寧な火入れのメイン料理までしっかりと楽しめる小さな食堂です。シニアソムリエ厳選グラスワインは常時10種類以上。ボトルワインも豊富に取り揃えています。

明石:簡単だとは思いませんが、富山での活動で、RIZOがプラスになる相乗効果を作れば良いのですよね(笑)。コロナを経験すると、実店舗の価値を考え直さないといけないと思いますが、どうですか?

盛田:多くの飲食店が廃業して、単純に店舗数が減ること、宅配・通販への移行がより進むこと、オンライン化が様々な面でさらに進むこと、などによって、逆に「実際に店舗に行って食事をする」という行為の価値があがり、ひいては「実店舗」そのものの価値があがるはずで、これ自体は歓迎したい流れです。でも同時に、矛盾するようですが、「実店舗」だけに依存しすぎないビジネスモデルに移行していく必要もあります。

明石:確かに。「実際に店舗に行って食事をする」ときの料理人の役割って何でしょうか?

盛田:昔、自分の師匠が「飲食店は一次産業の表の顔」と言っていました。生産者の代わりになって、最前線で美味しい料理を届けるのが料理人の大きな役割のひとつだと思います。そして、どう届けるか、の部分こそ料理人や飲食店の価値が生まれる部分だと思います。

明石:確かに「どう届けるか」に価値を見出さないといけないですね。単に料理を食べる場ではなくなるとしたら、例えば、お父さんの職場の近くの場所で、お母さんと子どもが料理教室に参加、その場所で家族一緒にランチができる特別な時間とか。

盛田:「美食倶楽部」みたいな発想ですかね。「美食倶楽部」の参加者の方たちの満足度はかなり高く、皆さんはじめての体験にワクワクするらしいです。一方で、都会の一等地で家賃を払っていくビジネスとして、ユーザーからの利用料だけでは大変なんだろうなと想像します。

明石:東京の問題は高い家賃ですね。家賃を賄うには、単純な受益者負担のビジネスだけでは難しいと思います。

盛田:東京で見かける多くのビジネスは、表層的なサービスと実際のコストが折り合うのか疑問。見えない部分での何かの「からくり」がないと継続できない場合が多いのではないでしょうか。長く続く店は、それぞれ独自のからくりを持っているのでしょうね。

明石:富山で考えてる「Local Food Table」のチャレンジキッチン(仮称)も、実店舗の売上に頼るビジネスでは難しいと思っています。店でのスペシャルな体験を支える確実なビジネスを持っていないといけません。それを流通や生産、あらゆる体験にまで広げていく必要性を感じています。

盛田:東京の人材で良ければ、富山で教室やワークショップをやれそうな人をたくさん知ってます。富山の家賃だったら、色々なチャレンジができそうな気がします。

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盛田さんはシェフ仲間と一緒に、産地を巡りながら、地元の美味しい食材との出会いを楽しみ、参加者とつくる一夜限りのレストランイベント(Shoku-sai)を主催。写真はそのときの様子。

明石:その場の価値を高める実験的、投資的な活動をするためには、しっかり家賃が払えるビジネスが必要ですね。スタートアップからすぐに高い家賃を払うのは難しいですが。

盛田:チャレンジキッチン(仮称)には、どんな人が集まってほしいですか?これから飲食店をはじめるような人ですか?

明石:いえ、ちょっとイメージが違います。飲食業界にこれから参入してみたい、お試し的な気持ちの人は想定していないです。例えば、今の店の環境では難しいけど、もっとチャレンジングなことをしたいというシェフとか、この場やプラットホームを使って幅広く多方面の実験的な取組みをしてみたい人です。

盛田:なるほど。確かに飲食店は参入障壁が低すぎます。一日の講習だけで取れる営業許可証を取れば、素人でも誰でも気軽にビジネスできてしまうのが問題です。その結果、いつまでたっても業界の社会的地位が上がらず、所得水準も低いまま、尊敬されにくい、人が集まりにくい業種、という状況から抜け出せません。本来はもっと料理のこと、食材のこと、衛生管理のこと、サービスのこと、その他膨大な勉強が必要な世界。もっとハードルをあげないといけない。

明石:私には耳が痛い話です(笑)。でも、飲食店をやるのであれば、ちゃんと勉強したり、修行したシェフと組まないと成立しないですよね。

盛田:コロナの影響で、早い段階ですぐに閉店の判断をした店が多いのには驚いています。知り合いの不動産屋から聞いた話では、管理しているテナントが3月末の段階で20件以上閉店を決めたらしいです。生き残りの戦略はあると思うんですけど、厳しく言えば、必要とされていない店だったのかもしれません。

明石:同じ場で肩を並べて活動するシェフの皆さんは、お互いに尊敬できる、学び合える関係でないといけないですね。

盛田:ぜひ、やるなら高いハードルをクリアした人たちと一緒に切磋琢磨したいです。真面目に頑張っているシェフであれば、同じことを考えると思います。

明石:沢山ヒントをもらえました。盛田さんとは、東京で出来なかったことを富山で、富山だけで限界なのことは東京で、というように両拠点で面白いことを一緒にしかけていきたいです。今日は、ありがとうございました。

盛田:あ、最後に!今、日本有数の素晴らしい生産者さんと一緒に、世界唯一のシャルキュトリや、豊洲で二年連続日本一評価額の3年物の牡蠣を直送したり、その食材を活かした特別コースの予約券を販売したり、というクラウドファンディングをやっています。こういった取組みによって生産者と飲食店が生き残ることを模索して、実践しています。ぜひ、皆さん、応援よろしくお願いします。

<クラウドファンディング・2020年5月31日まで>


盛田智宏
1977年 東京生まれ・兵庫県育ち
仏/伊料理レストランを中心に研鑽を積み、会員制フレンチレストランのシェフを経て、2013年に自家製シャルキュトリーと米料理をスペシャリテに据えたビストロ『RIZO』を東京・三軒茶屋にオープン。並行して、飲食店メニュー監修/商品開発/料理教室講師/レシピ本出版など多岐に渡り活躍。

【料理メニュー開発/監修/指導 その他実績例】
*サンバルシュリンプ(インドネシア・バリ島) グランシェフとして、開店時メニュー開発・監修・技術指導
*肉のふがね (岩手県岩手町)各種商品開発、技術指導 肉のふがねと共同開発した『岩手・遠野産レッドパドロンのパドロンチョリソ』が、Kirin-City キリンシティのグランドメニューに採用&提供中(2019年10月~)。
*ベターホーム(渋谷、銀座ほか全国主要都市)1963年発足の業界最大手/老舗料理教室にて講師を担当
*著書『フレンチビストロのキャッシュレシピ』2014年 エイ出版 など複数
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三軒茶屋ビストロ RIZO
〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋1-39-13 1F
TEL: 03-5779-9553
営業時間: 12:00-15:00 / 18:00-23:00
定休日: 月曜日、火曜不定休


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