小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第7話

【前回のあらすじ:切迫流産の妊娠初期妊婦・七海は、兄夫婦宅に避難中。夫の姉・優子が尋ねてきて、何があったか説明。すると、絶倫夫の父も絶倫で、そのせいで夫の母と義姉の母が亡くなったという衝撃的な事実を知る事に。】

「な、そんなの、ほぼ殺人じゃないですか?!」
 衝撃的な話を聞いて激怒する兄嫁。七海もショックを隠せない。
「そんなの、お義父さんのせいで、お義姉さんのお母さんも夫のお母さんも死んだって事?!性欲のせいで?!あり得ない!最低過ぎる!」
 性欲のせいで妻を間接的に殺すなんて聞いた事が無い。
「ってか、もしかして私も同じ目に遭わされるって事?!」
 このままじゃ自分も産後セックスのせいであの世行きじゃないか!と気づいて危機感を覚える七海。
 優子はすすり泣いている。
「父は妻の事なんて大切にしてないのよ。女なんていくらでも替えがきくし、妊娠中だろうが産後だろうが女は男の性欲の相手をするべきっていう考えなの。まあ時代のせいもあるけど、女性の体に対する知識が無いし、知ろうともしない。祖母は大和に、父のようになるなって教えたはずだけど、性欲は遺伝だったのかな・・・」
 3人は沈黙する。そこへ猫のダージリンがやってきて、場の空気を和ませてくれた。
「にゃあお」
 と鳴いた後、七海にすりすりして、次に兄嫁の膝に飛び乗った。
「可愛い猫ですね」
 と優子が少し笑顔になってほめる。
「我が家の子供みたいなものなんです。うちはあえて子供を作ってないの」
 兄嫁も微笑みながら猫を撫でる。猫はごろごろとのどを鳴らした。
「いいわね。私も猫を飼おうかしら」
「優子さん、ご結婚は?」
「いいえ。父を見て育ったから、男性や結婚が怖くて・・・でも猫は良いわね、本当に」
 溜息をつく義姉。
「七海さん、今回の事は全面的にうちの弟が悪いわ。離婚するつもりなら私が協力する。伝手で弁護士に頼めると思う。こんな、性欲のせいで、自分の子供を危険にさらしても平気なんて、思わなかった」
「ありがとうございます。大和は子供に愛情が無いんでしょうか・・・」
「そうかもね。たぶん、自分の好きにできる道具ぐらいにしか思っていないんじゃない?もし死んでもまた次の子を作ればいいじゃんぐらいにしか。人間のクズね」
 七海に協力する事を約束し、優子は帰っていった。
 何よりも性欲を優先し、パートナーの体や子供の危険は一切考えない。自分の性欲さえ満たせれば妻が死んでもどうでもいい。そんな化け物みたいな男がこの世に存在するとは・・・。そしてその血を引いているのが自分の夫。
 もしお腹の子供が男の子なら、この子もそうなるかも?と七海は怯えた。

 

義姉は本当に弁護士を紹介してくれて、七海は相談する事ができた。弁護士事務所まで兄嫁とタクシーで行き、絶倫夫の事を説明する。絶倫のせいで切迫流産になった顛末を説明すると、弁護士はかなり驚いていた。
「これまで色々な夫婦を見てきましたが、自分の子供の安全よりも性欲を優先する旦那さんは初めてです」
 と言いつつも、
「切迫流産の診断書があれば、旦那さん側の過失としていい証拠になります。性行為の強要で母子共に危険にさらされた訳ですから」
 と言ってくれた。
 そこで産婦人科に行き、改めて切迫流産の診断書をもらい、加えて、夫が自分の過失を頑なに信じなかった場合に備え、特別に許可をもらって、医師が切迫流産について説明し、それは夫が性行為を迫ったせいだと明言する様子を、スマホを使い動画に撮らせてもらった。
 鈴木医師はどちらも快諾してくれた。
「普段このような事はしませんが、患者さんのためですから」
 と、元気づけるように微笑んでくれた。
 準備万端の状態にし、決戦の日を迎えた。

 話し合い当日。兄夫婦宅には、七海の両親と、大和、大和の父、姉の優子、優子の伝手で頼んだ男性弁護士が集まった。もちろん兄夫婦と七海もだ。テーブルを挟んで座り、七海と兄夫婦の右横には、両親。左横には弁護士。反対側には対決するかのように大和とその父が座った。優子は弁護士の隣に座っている。
 久しぶりに会う大和は、静かに七海を睨んでいる。「七海が行為に応じてくれればこんな必要は無かったのに、大げさだな。兄や親に甘えて楽しいか」と思っているのだろう。
 隣の元祖絶倫親父は、むすっとしてふてくされている。こちらも、「息子の嫁がわーわー訳判らん事に巻き込みやがって」と思っているに違いない。
 60歳の七海の両親は怒り心頭だった。娘婿の性欲のせいで孫が殺されそうになっているのだから、そうなる。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。早速ですが、本題に入ります」
 口を開いた圭太が、全員に簡潔に、事の次第を説明。
「・・・という事で、妹の七海は大和さんとの離婚を希望しています。このままでは妹も赤ちゃんも命の危険にさらされ続けるだけです。大和さんはもっと同じぐらいお盛んな女性と再婚したらいいでしょう。可愛い妹をご自身の性欲処理のためにこき使うのはやめて頂きたい」
 この言葉に、大和の顔が怒りと恥のためか、さっと赤くなった。
「大和さんがされた事は、奥様に対するDVと同じです。実際に、お腹のお子様の命が危険にさらされた訳ですから」
 冷静に諭す弁護士。義兄と弁護士両方からの攻撃に耐えられなくなったのか、大和が反論した。
「で、でも、セックスレスは離婚の原因になりますよね?夫婦なら性行為をするのは当たり前だ!」
「確かにおっしゃる通り離婚理由にはなりますが、冷静に考えて、妊娠中の妻に対してセックスレスだと迫るのはかなり非常識ですし、この場合は離婚理由にはなりませんよ」
 大和の反論を、弁護士は鼻で笑った。
                             次回に続く

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