小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第4話

【前回のあらすじ:夫の大和に、医師から切迫流産で安静を言い渡された事を伝えた七海。しかし夫は理解してくれず、このまま自宅に居ては身の危険があると判断した七海は、兄嫁に連絡して兄夫婦の自宅に避難する事に。】

「はい、どうぞ、ゆっくりしていってね」
「お邪魔します」
 久しぶりに訪れた兄夫婦の家は、相変わらずきちんときれいに整理されていて、落ち着く家だった。フィンランドに留学経験があり、北欧雑貨が好きな兄嫁が、北欧の食器やインテリアで落ち着いた雰囲気の家にしたのだ。豪邸ではないけど、静かでリラックスできる一軒家。
 兄嫁は、2階にある客用の寝室に七海を通した。すぐにベッドで眠れるようになっていた。スーツケースやトートバッグを運んでくれた兄嫁は、休む間もなく七海の為に動き、温かい飲み物を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ。温かいルイボスティーだよ」
「ありがとう」
 兄嫁の後ろから、大きな猫もついてきた。メスのメインクーン。兄夫婦の猫だ。兄夫婦にとっては実子と同じ存在。兄夫婦の家には何度も訪れていたので、七海にも慣れていた。
「にゃあ」
 猫のダージリンはベッドの上に乗ってきた。七海が毛布をめくると、中に入ってきて、一緒に寝ようよ、と言っているみたいだ。
「この子も七海ちゃんを心配してくれてるみたい。私は下に居るから、ゆっくり休んでね」
 と言って下に降りて行った。
 ルイボスティーを飲んだ後、七海は猫と一緒にうとうとした。目をつぶって休むつもりだったが、いつの間にか熟睡してしまっていた。

 気が付いたら、夜になっていた。目を開けると、猫がべろんべろんに顔をなめていた。七海は猫を抱っこして、寝室を出る。猫は腕から降りて、着いてきなさい、というようににゃあと鳴いたので、七海は階段を下りて1階に行った。
 1階に居くと、兄が仕事から帰宅していて、リビングで兄嫁と難しい顔をして話し合っていた。兄の圭太は七海に気づくと、心配した顔で声をかけてきた。
「七海!心配したぞ、切迫流産なんて。そもそも妊娠してる事もまだ聞いてなかったから、驚いたよ。何があったんだ?」
 兄の声を聞くと、七海は安心して、涙が出てきて、
「お兄ちゃん、心配かけてごめんね」
 と言った。
 それから、3人は食卓に座って、七海は今まであった事を説明した。最後には泣きながら、
「でも、お兄ちゃん達は子供を持たない主義だから、妊婦の私が相談したら嫌な思いをするんじゃないかと思って、相談していいか迷った。実家に帰るのだって、幸せに結婚生活を送っていると思っているお父さんやお母さんに迷惑をかけると思ったし」
 この言葉に、兄と兄嫁は首を横に振って否定した。
「確かに私と圭太君はあえて子供を作ってないけど、それは私がライフスタイルを変えたくない、子供が居るとインテリアや生活のスタイルに影響されるから、であって、別に子供が嫌いだからじゃない。よその子供だって可愛いと思うけど、自分達は欲しくないだけよ」
「仮に子供が嫌いだったとしても、助けを求めてきた妹を突き放す事なんて絶対にしないよ。俺も父さんも母さんも、七海の事を心配しているし、迷惑だなんて思わない。だから安心してうちに居ていい。それよりも」
 圭太の顔は怒りに燃えていた。
「お前の旦那、本当に許せないな!妻が妊娠しているのに、自分の性欲が第一何て、本当、男の風上にも置けない。クズだな。やっぱり、結婚の時、もっと強く反対しておくべきだった」
 溜息をつく兄に、七海は質問した。
「お兄ちゃん、あの時、本当にいいのかって聞いてきたけど、あの時からわかってたの?」
「いや、あの時ははっきりわかってた訳じゃなくて、なんとなく勘だったから、俺も強くは言えなかったんだ。もし間違ってたら、妹を傷つける事になったし。でももっと言うべきだった」
「とりあえず、ご飯食べながら話そう。お腹空いたでしょ?」
 兄嫁の一声で、3人は兄嫁が作った夕食を食べながら、今後の事について話し始めた。弁護士を雇うかどうかについて話している時、七海はスマホが鳴るのに気が付いた。洋服のポケットに入れっぱなしにしていたのを、兄嫁の美味しそうな料理の写真を撮るためにいったんテーブルの上に置いていたのだ。かけてきたのは大和だ。七海の顔が曇るのに兄夫婦が気が付いた。
「どうした?出ないのか?」
「あぁ、旦那さん?」
「・・・うん、そう。でも、今口聞きたくない」
「貸せ。俺が出るから」
 兄が言うので、スマホを渡した。圭太はスピーカーモードにして、電話に出る。
「もしもし、七海、何で居ないの?」
 大和の責めるような冷たい声が響く。圭太はそれに対して、数倍冷たい声で答えた。
「どうも、兄の圭太ですが」
「えっ?!お、お義兄さん」
 まさか妻の兄が出るとは思っていなかったであろう大和がうろたえる。圭太は冷淡な口調で伝えた。圭太は大和の義兄だが、大和の方が年上なので、敬語で話す。
「妹は俺の家に居ますが、何か問題ありますか?大和さんも家事はできると聞いていますし、何か妹が居なくて困る事があるのですか」
 義兄相手に性欲の事は言えないのか、大和が黙る。
「妹は産婦人科の医師から切迫流産で安静を言い渡されています。自宅ではゆっくり休めないようなので、こちらで預かっているんです。大和さんも、妹が居ない方がお仕事に集中できていいのではないですか」
「・・・それは聞きましたが、でも、大げさでは」
「大げさ?医師の指示で家事も仕事もせず寝ているよう言われているのが大げさだとおっしゃいますか?」
「妊娠は病気じゃないって言うじゃないですか」
「病気じゃないから大変なんですよ。まあ、妻が妊娠初期でも構わず性行為を迫るような人にはわからないでしょうね」
 兄の言葉に夫が黙った。そのへんの話もしているとは思わなかったらしい。
「そりゃ男の性欲があるのはわかりますが、妊娠初期でも迫るほど恥知らずな男が妹の夫だとは思いませんでした。このままでは妹も赤ちゃんも危険なので、しばらく預かりますから」
「・・・いつまでです?」
「それは大和さんが決める事ではありませんよ。あなたの性欲なんて、妊婦と赤ちゃんに比べたら、死ぬほどどうでもいい事なんですからね」
 圭太は言い切って、電話を切った。兄の発言で、七海はだいぶ溜飲が下がったのを感じた。
                             次回に続く

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