小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第2話

【前回のあらすじ:結婚相談所を通じて10歳年上の夫と結婚した七海。夫はとんでもない絶倫だった。毎日3回も行為を要求され、疲弊する七海は離婚を考える。そんな中、妊娠が発覚するが・・・?】

「おめでとうございます。妊娠されてますね」
 生理が来ず、妊娠検査薬をして陽性が出た七海は、慌てて駆け込んだ産婦人科で、妊娠を告げられ呆然とした。
 そんな、でも、避妊してなかったし・・・しょうがないのか。避妊しないのは夫だけの責任じゃないし、子供が欲しいから避妊してなかった訳で・・・。
 でもあんな性欲モンスターの子供なんか嫌!ああでも、子供は欲しいし・・・。
 悶々とする七海を見て、鈴木医師は何かあったのを察した。
「どうされましたか?えっと、ご結婚は、されてますよね」
「はい、・・・」
「お子さんは望んでいない?」
「いえ、子供は欲しいんですけど・・・ちょっと夫と上手くいっていなくて」
「そうでしたか。こういう事は言うべきかどうかわかりませんが、もし中絶をお考えでしたら、妊娠12週までの間にされた方がいいです。その後の中絶は中期中絶になりますから、母体への負担は大きくなりますし。妊娠22週を過ぎると中絶自体ができなくなります。一度、落ち着いて考えた方が良いかと」
 30代後半の鈴木医師は、父親が院長をしている鈴木産婦人科で働いている。妊娠を告げて嬉しくない反応をするのは、結婚していない若い娘が多い印象があったが、結婚していても妊娠が嫌な人はやはり一定数居るのだな、と心の中で思った。
「中絶自体が悪い訳ではありません。自分の体をどうするかは、女性の権利ですから」
「そうですよね。・・・あの、子供は好きなんです。子供は欲しいし、可愛いと思いますし、だけど夫の子供だと思うと・・・」
 がっくりとうなだれる七海。医師は諭すように言った。
「何があったかはわかりませんが、一度ご主人とよく話し合ってください」
「わかりました。あの、一つお聞きしてもいいですか?」
「はい」
「・・・妊娠しても、性行為をしてもいいでしょうか」
 鈴木医師は難しい顔をして言った。
「今は妊娠初期ですから、控えた方が良いでしょう。流産のリスクが高い時期ですし、産む産まないにせよ、母体の安全の事を考えて」
「そうですよね。わかりました」
 複雑な心境になりつつ、七海は家に帰った。

 家に帰って、その日はもう仕事が手に着かなかった。翻訳の仕事が全然進まない。
 仕事を放り出して、お茶を飲みながらよく考えたが、やはり子供は欲しい。子供は産みたい。真剣に話せば、夫もわかってくれるのではないか?だって自分の子供な訳だし。今は性行為ができないって、理解してくれるかも。
 その夜、帰ってきた大和に、七海は妊娠の事を話した。
「あの、実は私、赤ちゃんができたの」
 夫はそれを聞いて目を丸くした。
「本当か?良かった。これで親父に孫を見せれるな」
 嬉しい理由がそれなのにがっかりしつつも、七海は医師に言われた事も告げる。
「それで、お医者さんが、今は性行為をしない方が良いって、妊娠初期だから、流産のリスクもあるし・・・」
 そこまで言ったところで、大和がとんでもない発言をした。
「それって、俺に我慢しろって言いたいの?」
「え?だからお医者さんが、今はしない方が良いって」
「でもするなって言った訳じゃないんだよな?七海が一方的にしたくないから医者の言葉をねじまげて解釈して、わがまま言ってるだけなんじゃないの?流産のリスクがって言うけど、セックスして子供ができたのに、セックスで流産って意味不明でしょ。俺は毎晩したいし毎晩3回か4回はしたいって事、結婚前には伝えてあるよね?それに今までも何度も言ってきたし七海もそれは理解してるはずでしょ。俺はそうせずにはいられない体なんだから、妻である七海は俺の体の事を理解して応じるべきだよね。俺に我慢しろって言いたいの?それか、俺に、外で発散させてきてほしいの?七海がそれでもいいって言うならいいけど、七海は浮気とか風俗嫌なんだよね?だったら七海が俺のために応じるのが筋ってもんでしょ?俺の体の事は一切考えないで、自分の事ばっかりなんて、ワガママ過ぎるよ」
 ネチネチと理詰めで追い詰めてくる大和に、七海は何も言えなかった。
「とにかく、俺は我慢の仕方がわからないし、セックスは夫婦の義務だから」
 七海が生理の時は、具合が悪くて手や口でするのを拒否すると、大和は怒りながら、自分で処理していたようだが、妊娠は病気じゃないという理由で、毎日強要してくるようになった。
 妊娠初期で子供の事が心配なのに、毎日妊娠前と同じように求めてくる大和に、七海は限界を感じていた。確かに絶倫だとわかって結婚したのだし、しょうがなく相手をしていたが、日に日に離婚したいという気持ちが募っていた。とはいえ仕事をしながら弁護士を探すのは難しいし・・・。
 大和は性行為に関しては強要してくるが、それ以外の態度や言動は何も問題が無い。そもそも、弁護士に相談って言っても、大和に性行為を求められる事が離婚したい理由なんだから、弁護士に相談するのならその話をしないといけなくなる。
「夫が絶倫で離婚したいって・・・何て説明すればいいんだろう・・・」
 若い女性にはヘビー過ぎる内容である。
「そんなの、弁護士さんに説明するの死ぬほど恥ずかしいじゃん・・・」
 七海は頭を抱えた。
 それに自分が正しい、七海の方が間違っている、という大和の態度にもだんだん疲れてきて、考える気力も失われていってしまう。
 毎晩夫に付き合ううちに、七海はより疲弊していった。そして、遂に恐れていた事が起きたのだ。
 七海は出血し、慌てて産婦人科へ。鈴木医師は顔をくもらせて、こう告げた。
「切迫流産だね。絶対安静にしてください」
 そんな・・・・。  
                             次回に続く

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