小説家の連載 妊娠中の妻が家出しました 第12話

〈前回のあらすじ:探偵社の関連会社である弁護士事務所に相談した浩介。担当弁護士の青桐と話し合い、探偵社とのチームワークで、妻・華にコンタクトを取ってもらい、離婚するかどうかの話し合いの場に連れてきてもらう事が決定した。浩介は妻を取り戻すための覚悟を決める。〉

 華の家出から2か月近く経ち、いい加減両家の親からはどうなってるんだとしびれを切らしてあれこれ質問されたが、果たして妻が元カレと一緒に居るという事を正確に伝えていいものか、浩介は悩んだ。
 華との離婚を考えているなら、元カレと一緒に居る事を暴露して妻が両家の親にどう思われても構わないが、浩介は華とやり直したいと思っている。それに彼女は妊娠中だ。海路と一緒に居る事を両家の親が知ったら、特に浩介の親が知ったら、お腹に居る子供も息子の子じゃないんじゃないか、と疑いの目で見てしまうかもしれない。
 そのため、浩介は探偵社の結果について、華は友人の家に居るという事を伝え、探偵社にも両家の両親からもし問い合わせがあってもそのように答えるよう頼んでいた。
 家出してから時間が経ってしまった事で、華は妊娠9か月の臨月になってしまっていた。家出先で妊婦検診に行っているかどうか判らないし、このままだと華も赤ちゃんも危ない。そこでまずは華の奪還が先決だった。
 探偵と弁護士が総力を挙げた結果、妻はようやく、話し合いに応じるために横浜からB市に戻ってくる事になった。
 但し、元カレの海路と一緒に・・・。

 話し合い当日。セルフィッシュ弁護士事務所の広い応接室には、弁護士の青桐、探偵の三日月、浩介、華、そして華の隣には藤原海路。
 久しぶりに会う華は、化粧をして健康そうに見えた。ローズピンクの口紅と同じ色のチークで綺麗に見せている。紺色のマタニティワンピースの上からも、以前よりかなりお腹が大きくなっているのが判る。うつむいている華の肩に手をまわし、こちらを睨みつけているのが海路。相変わらずちょっと広めのおでこ。面長の顔は全然かっこよくもない。彼が妻にキスしていた写真を思い出すと腸が煮えくり返りそうだ。一体こいつの何が良くて付き合って、結婚まで意識したんだ?妻よ。
 華と海路、この二人と向かい合いように浩介が座った。浩介の隣には、励ますかのように三日月が座り、浩介を安心させるかのように強く頷く。弁護士の青桐は、両者の間に割って入るように座っていた。
「それでは、話し合いを開始させて頂きます。念のため録音を」
 と青桐が口を開いた途端、いきなり海路が口火を切って話し始めた。
「華ちゃんを解放してください。華ちゃんはしょうもない男に束縛されていい女じゃない。華ちゃんを開放するべきです。華ちゃんはメンタル的に弱い部分があるのに、それを考慮できない夫は、どうかと思う」
 突然荒々しい口調で話し始めた海路に、浩介は心底腹が立ち、顔面を殴ってやりたい衝動にかられたが、三日月が浩介をかばうように言い返してくれたので、そうせずに済んだ。
「あの、この話し合いは華さんと浩介さんの話し合いの筈です。あなたがどうしてもと言うから、妊娠されている華さんの付き添いという事で同席を許可したんです。もし不貞行為があるならあなたの同席も必須になりますが、そのような事実は無かったですし、あなたはこの場で完全に部外者です。浩介さんに突っかかる真似をされるなら退席して頂きますが」
「不貞行為が無いのは当然だ。華ちゃんは夫と別れて俺と再婚するんだから、それまで待つつもりなんだよ」
 海路がどや顔で言い放つ。青桐が涼しい表情のまま、海路に問いただした。
「なるほど。藤原さんはそうお考えなのですね」
「そうですが、何か問題でも?」
「えぇ、まず浩介様と華様が正式に離婚した後でないと、再婚は不可能です。それに華様のお腹のお子様についてはどうお考えなのですか?離婚後に再婚したとして、藤原さんが父親になるおつもりなのですか?」
 この質問に、藤原はびっくりした表情になった。まさか、子供の事は一ミリも考えていなかったのか?
「え、あ、でも、そ、そうなるんじゃないんですか。俺と華ちゃんが再婚すれば何の問題も・・・」
「いえ、華様が浩介様との婚姻中に懐胎されたお子様ですから、法律上浩介様の子供になります。離婚後親権について話す必要がありますが、もし両者が引き取るつもりならば、裁判をして決着をつける必要がありますね。もし華様が親権を獲得されても、藤原さんとお子様の間に血縁関係は無いわけですから、養子縁組をする必要があります。父親になれるのは、その後ですよ」
「え、養子縁組・・・」
 ハトが豆鉄砲を食らったような様子の海路。こいつ、先の事を全然考えていなかったのだろうか?いい年して、あんまり頭良くないな。腹が立つというよりは、浩介は呆れた。
「それに未成年と養子縁組をする場合は家庭裁判所の許可も必要ですし」
「さ、裁判所?!」
「そもそも、血のつながらない子供を育てるのは簡単な事ではありませんよ。藤原さんはその辺も考えているのですか?」
「な、お、俺は華ちゃんと一緒に居られたら・・・・」
 やっぱこいつ馬鹿だ。浩介は確信した。口調は自信ありそうというか、確かに華の妹が言っていたみたいに華を言いくるめて自分の望む方に誘導しようとするのは上手いかもしれないが。
「華。華はどう思ってるんだ?俺は華の事を心の底から愛している。華の事を愛しているからこそ結婚したし、華が俺の子供を妊娠していると知った時、心の底から嬉しかった。華は俺と結婚して不幸だった?華が俺と別れたいならその通りにする。でも俺は華と離れたくない。華と子供の3人と幸せになりたい」
 浩介の言葉に、華が初めて顔を上げて浩介をまっすぐ見た。
                             次回に続く

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