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ひと言だけ

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2019年2月の記事一覧

雨の日の屋上で

雨の日の屋上で

春が来ると、風は生暖かく湿気を帯びる。草花の芽が土の中から、やっと外に出てくる。

雨の日が多くなって、咲いたばかりの桜が散る、散る、と日本人は、朝の天気予報がはじまると、トーストを食べることを忘れて、テレビに見入る。

お父さんはサラリーマンだから、もちろん4月には会社のお花見があり、桜そっちのけで同僚と酒を飲み、二次会はカラオケだか、居酒屋だかに移動して、深夜に酔っぱらって帰宅する。

私はお

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屋上の富士山

屋上の富士山

かれこれ3ヶ月、わたしは昼休みになると1人で屋上にあがり、お弁当を食べている。

入社当時は、同僚と子育てや上司の文句をいいあいながら、ごはんを食べるとお腹が痛くなってしまった。なるほどわたしはこの女子会みたいな昼休みは向いてない、としずかにドロップアウトしてから、屋上の青空ごはんを始めた。

ここからはたまに、富士山が見える。

あと屋上にはたまに、大谷くんとゆう一番若手の営業の子もくる。

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桜が舞う前に、大人に

桜が舞う前に、大人に

お兄ちゃんは去年の5月、受験のために、かなえちゃんと別れた。それが功を奏したのか、希望していた京都の大学にストレートで合格した。

高校の終業式を終えてしまった今は、京都へ送る引っ越しの荷物をのんびりと詰めながら、時々手を止めて目を細め、空を眺めている。縁側には、薄く光る日差しと冷たい風がごちゃごちゃに入り混じる、春一番が押しかけて、雑誌をバタバタとめくりシャツを庭に吹き飛ばし、うっとおしいったら

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