野呂雪花

ものがたりつくってます

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最近の記事

オレンジ/やさしいくま/⑤ゆるすすくう

オレンジやさしいくま ゆるす/すくう  シカちゃんはサクの自家製の友人である。サーモンピンクのソフトボールと水色の木馬が遊びに来たときのお気に入りだが、五歳を過ぎてからはサクにとって最も跳ね返りのいい話し相手でもある。  今日サクは自分の部屋で、小さい頃から大切にしている童話をシカちゃんに読んであげた。かつて追われた村に復讐に現れた魔物が一人の少女のやさしさに触れ、結果的に村の救世主となる物語である。  ゆるす/すくう… 「しりとりみたいだね」シカちゃんが云う。 「何が

    • オレンジ/やさしいくま/④プリンか何か

      オレンジやさしいくま ④プリンか何か バームクーヘン コーヒーゼリー コンビニのサンドイッチ棚とレジを結ぶ動線の上 佇む私の右肘にたてかけたオリーブの日傘を 二足歩行の耳折れウサギが少しよろめいてそっとつかむ 「ボクにプリンか何か食べさせてください」 折り畳み式のテーブルを広げて座布団を勧めると ゆっくりと正座して膝の上に両手をそろえた 白地に黒と赤の菱型模様のティポット 「うさぎとお茶会だ。ワンダーランドだね」 「あれはそんなに心躍る場面じゃないから」 耳折れウサギ

      • オレンジ/やさしいくま/③百個のビー玉

        オレンジやさしいくま ③百個のビー玉  それは私の最初の記憶なのですが、何かの呪文で封印されていたようです。  というのは従来の私の最初の記憶は弟が生まれたことだったのですが、おこったのはまちがいなくそれより前のことなのです。つまりは弟が生まれる直前、一人でお布団に寝ていた四歳の私におこった出来事です。  目が覚めると五月の初めだというのに紺色のピーコートを着たお姉さんが座っていて、私にあみあみの袋を差し出しました。中には百個のビー玉が入っていました。  といってもそ

        • オレンジ/やさしいくま/②緑のバラを胸に抱えて

          オレンジやさしいくま ②緑のバラを胸に抱えて すずらんの模様のブラウスを サテンのハンガーにひっかけて 四月の窓辺になびかせている 知らない間に手の甲に傷ができている 巨大怪獣は湾岸地帯からオフィス街まで迫ってきている まっぷたつに切られても すぐもとにもどる 白い光輪が 何度も彼/彼女を攻める 絶え間ない手紙のよう クローバをくわえた小鳥の群れのよう 涙も流さず 血も流さない 彼/彼女は大丈夫 ヒトの傷だって時がたてば癒える 流れる時間の尺度がちがうのだろう だ

        オレンジ/やさしいくま/⑤ゆるすすくう

          オレンジ/やさしいくま/①やさしいくま

          オレンジやさしいくま ①やさしいくま 機能性よりもデザインで買ってしまった一人掛のソファに やさしいくまがすわっている 背凭れにはバラの刺繍 肘掛にはイラクサのつる  今よりちょっとケーザイに余裕があって 今よりちょっとココロに余裕がなかったんだろうな だけど それを真近く思い出すことはできなくて ただ ソファのかたさが そんなだったんだよって 忘れさせない すわり心地のいいデスクチェアときれいなベッド 傍らにぼんやりとたっていた ガナシュ色のくまに  私はソファをすす

          オレンジ/やさしいくま/①やさしいくま

          白線流しが描きたくて

          1996年1月 残業で遅くなった私を母が駅まで自転車で迎えに来ていた。 当時私は名古屋に務めるOLで帰りが23時を超えることもしばしばだった。 自転車に二人乗りして帰る道、母がキャッキャと話していた。 「松本を舞台にしたドラマをしてたの。主人公の男の子がかっこいいの。中居くんよりかっこいい!」 母は長野県出身で、私は当時中居くんウォッチャーだったのだ。 (テレビでの言動を垣間見て、何かすごい子がいる…ってなってた) 翌週からそういえば…と見始めた私はドはまりし、 今でも「白

          白線流しが描きたくて

          オレンジ/オレンジ/②ミフユ

          オレンジオレンジ ②ミフユ  ミフユの高校の創立記念日に合わせて母親も有給休暇をとり、二人で百貨店が並び立つ街中へとくりだした。この辺りは若い頃に母親が勤めていて、曰く「フランチャイズ」で、それでも当時隆盛を極めていた銀行や証券会社がコンビニエンスストアやファストフード店に姿を変えているのに今日もまた気づき、そうしてまた「あそこ。何があったんだっけ」とつぶやいている。ほぼほぼノープランの外出だがミフユの家族は総じてインドア系なので、ちょっとした外出でも十分観光気分を味わう

          オレンジ/オレンジ/②ミフユ

          オレンジ/オレンジ/①トモコ

          オレンジオレンジ ①トモコ  みかげ公園の常夜灯の足元に扉があることはこの界隈の猫なら知っている。  なにせ鼻先でツンとふれただけで開いてしまうのだからしかたがない。だけど戻ってこられないわけではないし、行って戻ってきたところで今のところ何の支障もないので、深夜に行われる集会でも警告が発せられるわけでもない。それでも無言のコミュニケーションの話題は扉をめぐるあれこれが主たるものになっていて、お前はもうくぐったのかという問いかけやかまかけ、やっとくぐったことを伝えたくてたま

          オレンジ/オレンジ/①トモコ

          オレンジ(目次)

          オレンジ  オレンジ   ①トモコ   ②ミフユ  やさしいくま   ①やさしいくま   ②緑のバラを胸に抱えて   ③百個のビー玉   ④プリンか何か   ⑤ゆるすすくう   ⑥三月なのに  おやすみばく   ①おやすみばく   ②三十一   ③ぎんなんと目白   ④ひなげし   ⑤みかん  ネムリヒメ   ①夢の会社   ②teenageeve   ③アマガエル ああ…もうすぐ年をとってしまう… と目次だけつくりました。 大タイトル/中タイトル/小タイトル の見

          オレンジ(目次)

          野呂雪花と申します

          ものがたりをつくっています。 昔かいたものがたりを少しずつ載せて ときどき最近つくったものがたりも載せています。 絵をかくのも好きです。 今まで五月雨で投稿していたものは 自分の中でシリーズ物の欠片たちなので これから整理していこうと思って 今更乍らの自己紹介をつくっています。 ものがたりも見せ方とかわかんなくて タイトルに 大タイトル 中タイトル 小タイトル で 本文はひたすらベタうち。 絵もアナログで スキャンしたものを貼り付けです。 ただ ものがたりとお絵描きが好

          野呂雪花と申します

          キミが笑えば セットリスト

          引用一覧です。 楽曲 ♪ → がっつり引用 ♫ → ふんわり引用 文献 ☆ → がっつり引用 ★ → ふんわり引用 ちゃんちゃこがCD化されている… 私の持っている「放心」はラジオ番組から録音したもの。 ライブ音源でした。もちろんカセットテープ。 一、雨の月曜ジョッキー ☆【虞美人草/夏目漱石】 ★【トカトントン/太宰治】 ♪【雨降り/ふきのとう】 (作詞)山木康世/(作曲)山木康世/(所収)『ふきのとう』1974 ♫【ひなげし/とんぼちゃん】 (作詞)中山恵子(作曲

          キミが笑えば セットリスト

          キミが笑えば 三,ミューズの加護

          ①     ♯ 庭先 朽ちた木のベランダの上。手足を投げ出して眠る猫。 〈タイトル・ミューズの加護〉 ♯ 北橋中学・階段踊り場(掃除の時間) 〈字幕・一九七六年二月〉 モップを持ってふざける男子生徒三人。うち一人は石川。 階段の下から箒を持った女子生徒が見上げている。 女子生徒  「(見上げて)こら、男子。ちゃんと拭く」 石川、その言葉に反応して首を向ける。 そのとたん、がくんと体勢を崩す。 おかしな体勢で力を加えたモップが踊り場の床をぶち抜いている。     

          キミが笑えば 三,ミューズの加護

          キミが笑えば 二,トーベくん、走る。

          ① ♯ 向北中学・全景 一面の雪景色。まだ一つの足音もついていない。  〈タイトル・トーベくん、走る。〉 ♯ 藤部の家・屋外 夜明け前。家の屋根を伝って雪が滑り落ちている。 ドサッドサッという音。 ♯ 藤部の部屋 朝。だが明るくならない。 藤部、ふとんに包まって眠っている。 雪の落ちる音。 藤部    「(モノローグ)ああ…雪だ」 ♯ イメージ  鉄道の高架からの様な目線の街の風景。 一面雪で真白。 一辺が長い三角定規の様な形の屋根の家が並んでいる。屋根の

          キミが笑えば 二,トーベくん、走る。

          キミが笑えば 一,雨の月曜ジョッキー

          ① ♯ 北橋中学 雨。 学校裏手の土手とフェンス。 運動部の部室棟。 木造校舎全景。 〈タイトル・雨の月曜ジョッキー〉 ♯ 北橋中学・二年三組   木造校舎一階の教室。 黒板の前に教師と転校生。 転校生に視線を集中させる生徒達。詰襟とセーラー服。 教師が黒板に転校生の名前を書く。 生徒達の間からくすくす笑い。 黒板の文字。『三上雨』。 教師が三上を紹介し、三上も挨拶するが、その声はほとんど雨に消されている。 北海道から…の件がかろうじて聞き取れる 三上、教師に指示さ

          キミが笑えば 一,雨の月曜ジョッキー

          キミが笑えば(目次)

          キミが笑えば 一、雨の月曜ジョッキー 二、トーベくん、走る。 三、ミューズの加護 ※ 登場人物         三上雨(みかみあめ)    北橋中学二年         藤部礼(とうべれい)    向北中学二年         石川賢人(いしかわけんと) 北橋中学二年         古崎和歌(ふるさきわか)  北橋中学二年        町田周子(まちだしゅうこ) 北橋中学二年         横手朝子(よこてあさこ)  北橋中学二年         古崎和

          キミが笑えば(目次)

          プリンスメロン

           店の入口には金属製の看板がぶら下がっていた。  銅レリーフの様でもあり、鍋底を叩いて作った子供の工作の様でもあった。  プリンスメロン 懐かし屋  一つの名前なのか、分離しているのか、後方が説明なのかはわからなかった。  店の中は山小屋の様で薄暗かった。カフェメニューは飲み物しかなく、日替わりでクッキーやマフィン、パウンドケーキのスライスしたもの等が添えられた。  入った左手には二階に続く階段があり、運がよければ幅の狭い一段を覆うように横たわる長毛の猫を見ることができた。

          プリンスメロン