オレンジ/やさしいくま/②緑のバラを胸に抱えて
オレンジ
やさしいくま
②緑のバラを胸に抱えて
すずらんの模様のブラウスを
サテンのハンガーにひっかけて
四月の窓辺になびかせている
知らない間に手の甲に傷ができている
巨大怪獣は湾岸地帯からオフィス街まで迫ってきている
まっぷたつに切られても
すぐもとにもどる
白い光輪が 何度も彼/彼女を攻める
絶え間ない手紙のよう クローバをくわえた小鳥の群れのよう
涙も流さず 血も流さない 彼/彼女は大丈夫
ヒトの傷だって時がたてば癒える
流れる時間の尺度がちがうのだろう
だから彼/彼女は 誰も踏み潰さない
オフィスビルの一階の花屋さんで
お姉さんは笑って花束をさしだした
「ほら クズ花だよ」 それはとてもきれい
エントランスからのぞく 怪獣の大きな爪
たちのぼる砂埃
ワタシを傷つけた尖端はなんだったのかしら
親指と人差指を逆に延長させて交わったあたり
本の頁をめくる度 目にふれた
でももう治る 彼/彼女と同じように
ぼんやりと すべすべの膝を抱えて テレビを見ている
ブラウスにカーキのショートパンツ コルクのサンダルをはこう
四月が終わる 夏か来るよ
水色のずずらん
おそろしくきれいなクズ花の花束
怪獣の足跡からはデイジーが首をもたげる
そしてワタシは それを見てる
緑のバラを胸に抱えて
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