13 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<2章:レエリナサウラと秘密結社>
No.34 二度目のデートも、ゲームで(沙織)
「父上、母上、兄上、姉上、昨日帝にお会いいたしました。」
私は朝食の席で家族にそう告げた。朝食の空気が一瞬で凍りついた。
「いつ?」
「昨日です。」
「どうやって?」
「奉行所の上司のところに、帝から連絡をいただきました。同僚の五右衛門さんと帝に会いに行きました。」
父が、ちょうどお箸で持っていた薄黄色のふわふの卵焼きを驚きのあまりに落とした。
「いや、失礼。あまりに驚いたもので。」
「あなたったら。」
「で、帝はどんなお方だったの?」
「姉上、意外と良いかたでございました。」
「どういうふうに?」
それは言えない。襲われて殺されそうになって、運よく逃げ延びたところで帝が助けに空から舞い降りてきて、二人でゲームに参加して、昔の地球で初デートしたなどとは決して言えない。
「たいへんお優しく良いお方にお見受けいたしました。とても優しくしていただきました。」
私はなんとか誤魔化した。
姉の琴乃の視線が痛い。
「何かいいことあった?」
「いいえ、そんなことは。まだ。」
「まだ?」
私は「初めてのデートみたいなものだ」と言われたことを思い出して、頬が緩むのを抑えられなかった。
雪の中世ヨーロッパで城の上空を、プテラノドンとシノマクロプス・ボンディのコンビで仲良く飛んで初デートしたのです。私が心の中で姉上に言いたかったのはこの言葉だ。
五右衛門さんのような読唇術を私の家族は使えない。心の中で言うのは問題ないはずだ。
「なーに、ニヤニヤしちゃって。沙織、頬が赤いですよ。」
姉の琴乃は疑い深そうな目を私に向けて、言った。
気づくと、父も母も兄も権太も、私の顔を不思議そうな表情で眺めていた。
まずい。対面した初日が初デートになるのはまるでお見合いではないか。かっとんだ初デートだった。親に言える内容のデートではない。いろんな意味で。キスもしていないし抱きあってすらない。でもある意味それよりすごいことをしてしまった気がする。
私は咳払いして、素早く朝食をとりおえた。そして、セグウェイでいつものように奉行所に向かった。
仕事を終えた私は、帝の城にやってきていた。
帝との約束通り、またやって来たのだ。五右衛門さんもやってきた。私たち二人とも、大きな城門をくぐる時にはもう、緊張などしていなかった。昨日とは大違いである。
涼しい風がほんのり吹き、辺りになんとも言えぬ芳しい花の香が漂っていた。
私たちは、立派な日本庭園の木立木立に囲まれた、少し影になった芝にたたずむ帝のプテラノドンのコスプレをチェック帝のプテラノドンのコスプレをチェックしていた。
帝にお会いして半刻が過ぎる頃には、麗しい庭の一画は、熱い熱血指導がくりひろげられる教場となっていた。コスプレマニアは、コスプレ指導のためには、非常に厳しく熱くなれる心を持っているのだ。
「五右衛門さんの姿を見てご覧なさい!若!」
私は、帝の隣で完璧なプテラノドンにコスプレした五右衛門さんを指さして言う。
「五右衛門さんのプテラの足の色を見てご覧んなさい!違う!若!もっと濃く!」私は厳しい指導を帝に繰り返して差し上げた。
帝のことは、「若」とお呼びすることになった。帝がご自身もゲームに本格的に参加したいというので、完璧なプテラノドンに変身できるように私たちは帝を指導することを頼まれた。
「沙織さん!今度はおぬしがお手本やってみて!若、ちがーう!」
五右衛門さんも、なかなかスパルタで鬼のように帝を指導した。
なにせ、ゲームに参加するからには、完璧なプテラノドンになりきって空を飛べなければならないのだから。
帝のゲームになんとか参加したいという心意気も相当なものだ。秀麗な顔立ちを凛々しく歪歪めながらも、私たちの厳しい指導に根を上げずについてきた。私は、密かに、なんだかそのお姿がとても可愛らしく思えた。
「二度目のデートも、ゲームで。」
城を辞して帰る時に、小さな声でそう言われた。
そう言われて天にも昇る心地だった。私は驚きのあまり、腰を抜かしそうになり、その場に倒れ込みかけた。帝に腕をとられて支えてもらった。
「大丈夫か。」
なんでしょう、この胸の奥がこうきゅんと、ふわっと何か暖かいものに包まれたような気持ちになるのは。
私は今までこの感情を知らなかった。
No.35 この気持ちはなんなのか(帝)
どういうわけか、沙織のことが頭からずっと離れない。
彼女の笑った顔、彼女の言葉、彼女の仕草が頭から離れない。
沙織はコスプレマニアだ。今まで恋を知らないように見える。
素朴な若い忍びだと最初は思っただけだった。危ないことをしでかしてしまったコスプレマニアの若い忍び。ただそれだけの存在だったはずなのに、私のお妃候補として出会ってしまったら、私の目にはとてつもなく可愛らしく見えた。
早速、敵に命を狙われてしまいって助けたので情がうつったのだろうか。
いや、それだけではないような気がする。沙織のことを思うだけで、心が暖かく、ふわふわと浮遊するような気持ちになる。
とにかく気になって気になって仕方がない。
私は十歳で帝になってから何度も命を狙われた。だから同じように命を狙われた沙織が気になるのか。
もし、ただそれだけなら、何が沙織は好きで、どんな食べ物が好きなのかとかそんなことをいちいち気にしたりはしないような気がする。どうなのだろう。
とにかく沙織のことをもっと知りたいし、もっと一緒にいたいと思う。
何よりゲームに参加している時の沙織は最高だった。
この世でたった二人だけの忍びになるということが、私の心を惹きつけているのか、沙織と二人だけになれる世界に心惹かれれているのか、私にもわからない。
二度目のデートをしようと思った。そこはやはり他の忍びのいない、ゲームの中が良いだろうと思った。ゲームの中には、我々と同じ世代の忍びはいない。一度狙われた命だ。どうせ、何をしても狙われるのだ。気になる人と一緒に気楽に過ごしたい。ただ私はその気持ちの方が勝ってしまっていた。
こんな気持ちになるのは初めてで、自分でもどうしたら良いのかわからない。
沙織の同僚の五右衛門に相談してみるか?
五右衛門は沙織のことを大切には思ってくれてはいるようだが、五右衛門が沙織に恋をしているようには見えなかった。私の気持ちを打ち明けても良さそうに思う。あの不思議な印象の五右衛門に相談をする?どうだろう。
とにかく沙織のことが頭から離れないのはなぜなのか、誰か教えて欲しい。
No.36 殺してしまうには惜しいよね(牡丹&まさみ)
「で、そっちはどうなのよ?」
「知らないわ。」
私はそっけなく言葉を紡ぐ。
「知らないって、どういうことよ」
「なんか、幸せそうで腹がたったわ。相当な能天気っぷりよ。あれは、あれで大した者かもよ。」
私は豪奢な毛皮に覆われた小さなエリナサウラが引く車に乗っている。私の名前はまさみ。
牡丹は、今日は常盤色の袴に白地にたいそう艶やかな蜜柑色や金赤色の着物をきていて、足元はブーツで決めている。
いつも通り、牡丹の衣装は、私のシンプルさでモダンを追求する衣装とは大違いだ。
牡丹は私の言葉を聞いて、美しいお顔を少しふっと緩めて、鼻で笑った。
「ね、今、鼻で笑ったでしょう。」
「そうね。失敬。思わず笑っちゃったわ。」
「それさー、私が、腹が立ったことに笑ったわけ?それとも能天気っぷりの間抜けさ加減に笑ったわけ?」
「どっちでもいいじゃない。」
「よくないわ。気になってイライラするじゃない。」
「あなたも嫉妬するのねと思って。」
「やっぱそっち。」
「そうよ。」
私はため息をついて、自分の手のヒラを見つめた。
「なんかさ、若君って凛々しくて良いお人じゃない?殺してしまうには惜しいよね。」
「しっ!」
「迂闊にものを言わない。」
「だってここにはあなたと私しかいないじゃない。」
「それでも、だめ。」
「分かった。」
「じゃあ、予定通りに。」
「御意」
私は、一通りのない寂しい場所で、莫大な富の証である貴和豪一門の恐車からおりた。振り返ると、牡丹が手を軽く振ってうなずいてくれた。
豪奢な毛皮に覆われた小さなエリナサウラが引く恐車は、静かに素早く通りを曲がって姿を消した。
私は、誰も見ていないことを素早く確かめると、目の前の建物に入って行った。