14 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
No.37 陸軍長官の鋭い一瞥(兄のさねゆき)
ノックをする。
「入りなさい。」
私は間宮実行(さねゆき)。軍に勤めている。
今日は、思ってもみない上官から呼び出されたのだ。緊張して、額に汗がにじむ。この建物は暑くないか?
「失礼します。間宮実行です。お呼びだと伺いました。参りました。」
私は部屋に入るとキリッと一礼し、できる限り明瞭に聞こえるように言った。
「そこに座りなさい。」
机の向こうに座っていた銀髪の眼鏡をかけた男は、鋭い刃のような一瞥を私にくれて、そう言った。
「は!」
「失礼いたします。」
私は言われた通り、指で示されたソファに座る。向かいの席に銀髪の男も座った。この男の役職は陸軍長官。土居田長官である。普段の私ならば、決して会話すら許されないような立場の上司にあたる。
「君の妹さんがお妃候補になったと聞いた。警護要請が奥奉行から来ている。」
「はい。」
「相当な危険が迫っているらしいが、何か妹さんから聞いていないか?」
「いえ、私は聞いておりません。」
土居田長官は私の様子を鋭い目つきで見る。
なんだろう。私のことを疑っているのか?
途端に、私の背中にも汗が噴き出る。何かあるのか。
「君の実家の方にも厚めの警護がつくことになった。何かあったら君も協力してほしい。」
「もちろんです。」
「君の妹さんと、帝はいつ出会ったのだ?」
「昨日と聞きました。」
私は正直に、今朝沙織に聞いた通りに答えた。
「なんと。」
土居田長官は私のその言葉を聞くと眉をひそめた。
「私ども家族も、沙織にとっても晴天の霹靂の出来事でありまして、戸惑っているというのが正直なところです。」
私は事実を伝えた。
土居田長官は一瞬、横目で何か記憶を探っているような表情をした。長官の目の動きは右に動いた。長官は先ほどから聞き手は右手に見える。右に動いたのだから、長官が見知った体験を呼び覚まそうとしている。過去の記憶から何かを探る動きだ。
私は不穏な空気を感じた。
この婚姻、絶対に何かある。
土居田長官は私に念押しした。
「何かあれば、すぐに報告をくれ。」
「はい!」
私は陸軍長官の部屋を出た。
やはり、どうやら、沙織の婚姻には陰謀が仕組まれているな。
No.38 恋の相談(五右衛門)
「御用とはなんでしょう?」
私、五右衛門は帝が奉行所の前で待ち伏せしていたことに驚いた。
帝は市中に溶け込めるよう、お忍び姿でやってきていた。奉行所を出たところで、後ろからやってきた若者に話しかけられたと思ったら、帝だったので心底驚いた。
博士は、私が参加することで、帝と沙織の恋の邪魔は決してするなと言っていた。私は当然そのつもりだが、帝が私を尋ねてくることは元のシナリオにはない変化だ。
「この前の喫茶で話がしたいのだが、五右衛門さんはお時間ありますか?」
帝は丁寧な口調で聞いてきた。
「いいですよ。」
帝は慣れた足取りで街の中を歩き、この前沙織と一緒に襲われた直後に案内してくれた喫茶に立ち寄った。
この前接客してくれた店員のまさみは今日はいなかった。
奥の席に案内されると、帝は低い小声で話し始めた。
「あの、女性のことが気になって気になって仕方がないのです。私にとっては初めての経験で、こんなことを相談できる人は今まで私の周りにいなかったのです。聞いてもらえますか?」
帝は前もって考えていたような様子で、こう話し出した。
「沙織さんのことですか?」
私は聞いた。
「な、な、な、なぜあなたには分かるのですか?」
帝は明らかにうろたえた様子で聞いてきた。
「あなたは、私の頭の中が分かるのですか?」
帝は目を細めて私を見つめた。
「いえ、まったく。」
私は即座に否定した。
『他の方の頭の中や心はわかりますが、あなたのことだけわかりません』とは正直にいうわけにはいかない。
「若にとって、私との共通の知り合いは沙織さんだけのはずです。だからです。」
私はそう答えた。
「あ、そうですね。確かに。」
帝は納得した様子で黙り込んだ。
分かった。帝の『爺』が、敵の陰謀に加担して帝と沙織を近づける。そして恋のキューピッドの仕上げの役割は、今回の場合は『私』こと五右衛門が担うのだ。
私は心を決めた。
「沙織さんは今まで恋をしたことがなかったはずです。でも、私がみるかぎり、今は若にかなり惹かれ始めています。若もそうですよね?」
「そ、そうなのか?」
帝は嬉しそうな驚きの表情で私を見つめる。
「そうです。若のその感情は『恋』です。」
「恋なのか、これが。」
帝は胸の辺りを少し抑えた。
「苦しいですか?」
私は聞いた。私自身は恋などしたことはない。だが、恋は苦しいものだと博士が私に言っていた。
『歴史の分岐点で恋は重要な役割を果たす』とも言われた。
六歳の私は当時はまったく理解できなかったが、今なら博士の言葉が少し理解できる。
「嬉しいような、ふわふわした気持ちなのだが、それでも時々苦しい。」
帝はそう言った。
「そう、それが恋なのです。」
私は大きく帝にうなずいた。私が恋のキューピッドをするなんてと思うが、私の二十二年かけた|任務のためだ。
「沙織も私に惹かれ始めていると?それは誠か?」
帝はおそるおそると言った様子で聞いてきた。
「大丈夫です。若に沙織も惹かれ始めています。」
私は力強くうなずいて、帝を励ました。
「そ、そ、そうなのか。」
帝は頬を赤らめて、自分の両手のひらで顔を隠した。
嬉しいような恥ずかしいような仕草なのであろう。
どうやら、私は命を狙われ続けた孤高の存在である若君の『初めての恋』の現場に立ち会う運命のようだ。
No.39 罠(まさみ)
「なぜ、こんな事態になったの?」
襲われた橘五右衛門宅に密かに向かいながら、私、まさみは自分の記憶を探る。
橘五右衛門を狙う計画はなかったはずだ。
私は、忌まわしいあの日の記憶をもう一度振り返った。
◇◆◇
「なぜ、あのゲームで人間が生き延びてここまでやってくるのか?」
「とにかく、間宮と若君を殺して・・・・」
◇◆◇
指令を思い出しただけでも思わず身震いしてしまう。
でも、今まで私が入手した情報をどれを思い出しても、違う。
「橘五右衛門は標的ではなかったはずよ。」
私は思わずひとりごとを言う。
標的は、間宮沙織と帝。そこは全員が一致していたはずだ。
しかし今晩襲われたのは橘五右衛門だった。
黒装束の忍び服で、橘五右衛門宅に侵入する。立派な邸宅だ。
良いところのボンという調査結果通り、奉行所勤めの橘五右衛門宅は、植木が綺麗に刈り込まれて手入れが行き届いた庭園を持つ立派な武家屋敷だ。
星あかりの中を素早く移動する。
襲われたという一報を聞いて、真っ先に駆けつけたのが私らしい。
しかし、現場に一番乗りしたにしては静かすぎる。
私が屋敷に侵入して屋根裏を移動しようとしたその時、何者かに首筋に鋭利な刃物を突きつけられた。痛い。
「動くな。」
少し、血が出たはずだ。私は血の匂いを感じとる。口の中がカラカラになる。屋根裏のざらりとした床板に触れたまま、私は動きを止めた。
近づく音がまったくしなかった。となると、待ち構えていたか。
これは、何の匂いか?私は鼻腔にかすかな香を感じて、何の香か思い出そうとする。
そこで頭を思いっきり殴られた。頭が割れそうなほど痛くて吐き気がする。
目の前が真っ暗になった。
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