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学会遠征編ショート版 第39話 トゥクトゥク

エメラルド寺院を求めて

 無事全員の発表が終わったので、これにてこの会はお開きだ。夕食を共に過ごすパーティーなどは無いので、現地で解散である。荷物を揃えて帰ろうとしたとき、僕に1人話しかけてくる人がいた。その人は日本の学生で、我々の教授のことを知っている人だった。学会ではこういう出会いがある。違う大学の研究室だろうと、研究テーマが似通っているので学会の場ではよく会う人となるかもしれないのだ。残念ながらその人はこの3月で卒業なのでこれで最後だが、徳島で会った人たちはこれから先もしかしたらまた会うかもしれない。ちなみにその人は、徳島の学会を拒んだらこちらに出せとそこの教授に言われたらしい。さすがに2連続では出していないようだった。
 ここから先はCRAZYと観光の時間である。空港でおじさんから教えてもらった"Wat Phra Kaew"(エメラルド寺院)を目指すことにした。ここから6km程あるので移動にはできれば何かしらの交通機関を使いたい。そこでそれを待っていたかのようにトゥクトゥクに乗ったおじさんが話しかけてきた。
「Hey! 乗らないかい?」
こんな感じで声をかけてきた。頻繁にいろんな場所で声をかけられてきたのでスルースキルは発達してきたが、今回ばかりは救いの一手となる。2人で乗れば割り勘できるので、実質半額だからだ。オープンカーのような解放感と渋滞を細かく潜り抜ける爽快感に、ある種の乗り心地を見出した。どちらかというと遊園地のアトラクションのような感じである。タクシーの運転手から見れば、我々2人のコンビは少し特殊である。それもそのはず、片や東アジア系の20代、片やアフリカ系の30代というよくわからない組み合わせだからだ。我々はいったい何者なのかという話題からいろいろ盛り上がり、目的地とは違う謎のお店でいったん降ろされた。まだお題を払っていないので少し困惑したが、話を聞くと、ここはタクシーの運転手が提携を結んでいる紳士服店で、少し安くしてくれるから入ってくれということだった。お店に入るや否や店員さんに案内され、様々なスーツを着時から見せてくれた。しかし、正直なところスーツは今はいらない。2人とも暑いからジャケットを羽織っていないだけで、何も貧しくてカッターシャツのみだということではない。これは2人して同じ意見だったため、適当な言い訳を考えてお店を出る準備をした。しかし彼らは営業熱心である。これが似合うよと言わんばかりにカタログまで持ってきたのだ。そこには青のジャケットや銀ピカのジャケット…まるで漫才師ではないか。おしゃれだとは思うが、今回は買わないという言いを見せ、店を脱出した。もちろん出入り口には先ほどのタクシードライバーが待っている。もう一度乗りなおし、再び寺院へと向かった。
 直接行くのもいいが、船に乗って川を渡りながら見るのはどうかと提案された。500バーツで1周できるらしい。それならばということでポートまで向かった。タクシー代は2人合わせて50バーツ。確かに2人以上ならコスパはいい。ここで運転手とは別れ、船着き場の窓口まで行くと、なんとお代は1人当たり最低でも1,500バーツからと言われた。なんだ、けっこうかかるじゃないか。タクシーの運転手がいい加減だったのか、それともこちらが観光客だとわかってぼったくろうとしているのかわからないが、高すぎて乗れないと断ってあげた。仕方がないのでここからは歩いて向かうこととなる。時刻は午後4時半頃、目的地まで5kmくらいだ。

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