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学会遠征編ショート版 第37話 バンコクのホテルビュッフェ

昼食


 12時を回り、昼食の時間となり、参加者は2Fに招待された。どうやら、こういう1ホテル貸し切りタイプの学会は昼食までついてくるらしいのだ。軽食用に持ってきたパンはこれにて役立たずとなる。もっと先に知りたかったという後悔とは裏腹に、お高いホテルのランチがタダで食べられるというハッピーイベントに胸を躍らせていた。CRAZYは昼食があることを知っていたらしい。さすが、ドクターなだけあって国際学会については十分慣れているようだが、それならそれで教えてくれてもよかったじゃないかとも不貞腐れた。
 2Fは部屋全体が貸し切りのレストランになっており、ビュッフェ形式で好きなものを取って食べていい感じだった。特筆すべきは生ハムの種類だろうか。プロシュートしか知らない自分には数えきれないほどの種類が用意されていた。1枚ずつ取っていくことにした。しかし全部乗せたころにはもうお皿にスペースがなかった。おとなしく座って食べろということだろうか。生ハム共の上にサラダを山盛り載せて健康感を演出し、席に着いた。CRAZYは意外と緊張しているようだった。いつものヘラヘラしたやんちゃ坊主の面影が見当たらないくらい肩が上がっている。それでもおしゃべり好きなのは変わらないようで、例の子連れの女性と仲良くしゃべっていた。僕は緊張など忘れて美味しさに夢中になっていた。ただ、これだけ生ハムを持ってくると、味の違いがどうというより塩気が強すぎて水が欲しいという感想の方が先に来てしまった。ほどほどにすべきだと反省しておこう。
 ビュッフェなので次のお皿もとることにした。CRAZYはもうお腹がいっぱいでギブアップしたが、僕は食べられるものを食べられるだけ食べたい。ピザより大きく、分厚い巨大なパンが置いてあった。切って食べろということだろうが、切るものがないので断念した。一方巨大チーズの方はちゃんとナイフも添えられていた。面白そうなので少し切って取っていった。他には頭からゴロゴロと切っておいてあるサバも発見した。大のサバファンである僕が見逃すはずもない。一切れ貰った。あとはカレーコーナーにも出向いた。いろいろあったが、いちばん色の主張が激しいグリーンカレーももらった。僕は以前にインド料理屋でほうれん草入りグリーンカレーを食べたことがあったので、見た目には全然怯えなかった。ピリ辛はありつつココナッツミルクのおかげでマイルドになった、なんとも愉快な味わいである。
 最後にダメ押しでデザートもとりに行った。どうせなら現地のフルーツも食べておきたいからだ。マンゴーやパイナップルはお馴染みなのでよくわかるが、見た目のいかついドラゴンフルーツまでも存在していた。昔小学生だったころに食べたことがある。その時の記憶と同じだ。外側はパインやドリアンに負けず劣らずゴツゴツしており、攻撃力の高い投擲アイテムのような見た目をしている。その外見のいかつさは上っ面だけではない。切った中身は、黒ゴマというか虫のような種がびっしり詰まっている。おそらく集合体恐怖症の人には恐ろしい光景だろう。外側からも内側からも人間ごときに食べられたくないという意思がひしひしと伝わってくる。そんな見た目だが、口に入れると美味しいフルーツである。これくらいの甘さがちょうどいい。特にこのブリンブリンした食感が癖になる。また食べたいと思ったところだが、時間が押してきたので発表会場に戻ることになった。次は自分の番か。そう思い出したところで一気に現実という大波が押し寄せてきたかのような気分になった。


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