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学会遠征編ショート版 第47話 ただいま

飛行機

 3連続シートのいちばん窓側のシートなので、移動するにも一苦労である。トイレも我慢しようかと思ったが、これから寝ていきたいというのにおねしょの心配をしながら5時間耐えるというのはさすがに困難だ。トイレには適宜行くことにした。ついでに広い場所に出れば大きく伸びもできるので、筋肉的にもありがたい。ゆっくり寝ようとした。
 当然ながら寝られなかった。体中から緊張をほどいて、副交感神経を優位にさせようと思えば思うほど逆に睡眠からは遠ざかっていった。目がぱっちりするわけではない。ただただ寝られないのだ。隣に誰もいなかったら少し大きく座席を使っていたことだろう。後ろに人がいなければ座席を倒していたことだろう。前に人がいなければ足を投げ出してリラックスしていたことだろう。窮屈な自分には何もできなかった。休みたい。こうして熟睡とはいかずとも休憩という形で数時間飛行機に乗っていた。
 日本時間で午前4時を過ぎたころ、飛行機は既に台湾の上空を超えていた。順調に飛んでいるようである。ここで機内食の時間となった。こうなったらもう寝ているわけにはいかない。配膳されたメニューは、今度はお米主体の和食だった。
「みそ汁はお付けしますか?」
もちろんだ。みそ汁こそ日本の代表的な料理である。これをいただかないことには日本に入国できない。みそ汁の温かみが飛行機のサービスの温かさとも感じられた。ドリンクは、せっかくなのでアルコールにしようと思っていた。かつて旅好きの友人が国際線はアルコールの提供もあると教えてくれたので、本当に飲めるのか気になったのだ。もちろんOKだった。メニュー表を見せてもらい、赤ワインのミニボトルをいただいた。ぶどう感の強い香りでおいしくいただけた。ちなみに隣に座っていたおじさんはasahiビールを飲んでいた。なるほど、ビールで日本を思い出すのも手だったかもしれない。
 こんなところで悪酔いしても虚しいだけなので1本に留めた。機内食を美味しくいただいてもう少し時間がたったころ、飛行機は着陸の態勢に入った。時刻は5時半少し前。3月中旬なのでちょうど夜明けの時間帯だ。これまで真っ暗だったはずの空は紺色になり、そこから橙色の光が地平線の向こうからしみ込んできた。羽田空港回りの地上もはっきりと見えてきた。港の形がくっきり見える。暗いのは海、灯がともされているのは陸地だ。こんな時間でも電気をつけているのは、きっと勤勉に稼働する工場かこんな時間まで起きてしまっている不届き者かのどちらかだろう。社会不適合者も集まれば美しい景色になるということだ。地上が近づくにつれ、橙色は次第に勢力を増していった。飛行機が滑走路を減速する時間が、ちょうど東京の日の出の時刻だったのだ。こんなに日の出というのは美しいものなのか。まるで地球ぐるみで我々を日本に歓迎しているかのようではないか。何度も写真に収めておいた(もちろん機内モードだよ)。飛行機を降りてからしばらく歩く道では、もう空が完全に白く明るくなっていた。一仕事終えた飛行機と太陽のツーショットはベストコンビだった。

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