憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十九
※其の二十八からの続きです。気軽にお付き合いください。
上段構えを取った相馬が四日市に次々と打ち込む。めちゃくちゃな動きだが、剣道素人の動きではない。
(中学での上段は禁止なはず)
おそらく見よう見まねの、自分で研究していたのかもしれない。中学ぐらいになると上段構えに憧れる人も増えてくる。そして、部員みんなが思っていることだろう。相馬も相当な実力があったことに。
「……くっ!!!」
これは試合ではないので、上段構えをされてから四日市の動きが止まる。どう対応すれば良いのかわからないと言った感じに。
「っらぁぁーーー!!!」
上段からの突き技。相馬の突きは外れて、ズボッと竹刀が四日市の突き垂れと面垂れの間に挟まる。試合なら審判が止めの号令をかけるが、藤咲や光や日野も、この戦いをどう裁けば良いのかわからず、ただ見守るだけだ。
「シャァァァーーー!!!」
無理やり相馬が竹刀を抜く。
「危ない!」
光が叫ぶ。万が一竹刀の竹がささくれていた場合、喉に刺されば大変なことになる。
(こいつ!!!)
私の怒りが再度再熱し始める。
「ゲホッ……ゲホッ……」
四日市が咽る。
「……どうだ。ハァ……ハァ……苦しいか、四日市。宏樹はな……。あいつの苦しみは、こんな程度じゃなかったんだよぉー!!!」
体当たりして四日市を倒す。ゴッと肘から落ちた四日市が悶絶する。
「あぁぁーー!!!」
そのまま馬乗りになり相馬が叫ぶ。
「四日市ーー! お前が憎い!! 私の、私の大事な弟を潰しやがってーーー!!!」
弟。それを聞いて、その場にいる全員が凍り付く。
「宏樹は素直で優しい弟だった! 私の自慢の!! 剣道も強くて将来は有望と言われ続け、中学で私と一緒に全中へ行こうと約束もしてた!!!」
面垂れを掴み四日市に叫び続ける相馬。
「あろうことかお前は宏樹と交際までしてやがった! ふざけんな!! 女子高生が中学生相手に本気で恋するとか正気じゃねぇ!!!」
もはや2人の関係に剣道部は誰も入れない。
「返せ! 宏樹の剣道を!! 返せ! 宏樹の声を!!!」
叫び続ける相馬。ぐったりと戦意喪失した四日市。
(これは……。誰も入れない。この、2人の間合いには)
面越しでもわかる。四日市が泣いている。
「うるせぇ……。私だって……。私だって……。好きだったんだよー!! 宏樹のことがーー!!!」
泣きながら叫ぶ四日市。相馬も触発されたか、だんだんと声が擦れていく。
「も……ぅ……や……め……て……お…ねぇ……ちゃ…ん」
小さな声だったが誰かが後ろから叫んだ。相馬と四日市の戦いに気を取られて誰も道場の入り口を見ていなかったが、知らない男の子が立っている。
「お……ねぇ…ちゃ……ん」
見知らぬ男の子と、そして。
「滝本! 前田!」
宗介が叫ぶ。
同じ1年男子の滝本と前田。彼らは今日の出来事に賛同しないから来なかったと思っていたが。
「……相馬。……四日市」
滝本が2人に声をかける。
「もう、止めよう。……俺たちも、これ以上は見ていられない」
前田も同じように2人に話しかける。
「……どういうことだ。滝本、前田」
宗介が滝本と前田の顔を見やる。滝本がゆっくりと話し出す。
「俺と前田。そして、相馬と四日市は、千葉県立柏東中学出身なんだ」
「えっ!?」全員が声をあげる。
「始めは驚いたよ。……まさか、こいつらが同じ高校にいるなんて。しかも、中学のときと明らかに雰囲気も変わっていたし……」
そういえば滝本と前田は柏東中学出身と言っていた。すっかり忘れていたが、柏東中は千葉県でも剣道部が有名らしい。
「前田は中学から一緒だから、中学での相馬や四日市しか知らないが、俺は小学校から2人と同じ、千葉県でも有名な神龍柏道場出身で一緒に稽古していたんだ」
滝本の言葉に、相馬も四日市もうな垂れる。
「俺は小学5年生の時に入会して、その時からこの2人は道場の看板選手だった。相馬か四日市か! ってさ……」
あまりの滝本の衝撃発言に誰も口を割ることができない。ただ黙って次の言葉を待つ。
「……そして、相馬の弟。相馬宏樹もまた、神龍柏道場の看板選手で、小学6年生の時には全国大会で優勝した」
宏樹と呼ばれた少年も辛そうに顔を下げる。
「相馬と四日市。そして宏樹。俺や前田は宏樹と剣道以外でも中学生になってからは、カードゲームなどしてよく遊んだ。仲良かったんだぜ。意外とみんな。あの出来事が起こるまでは……」
滝本が辛そうに俯く。相馬と四日市はもう、声を上げることができないようだ。
「……あれは中学2年生の冬休み。宏樹が小学校6年生で全国大会を優勝した年だった。久しぶりに4人で神龍柏道場で一緒に稽古することになったんだ」
続く
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