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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三十九

※其の三十八より続きです。気軽にお付き合いください。



 「……別に。防具買いに来ただけの素人さ」

四日市よつかいちがはぐらかす。

「嘘。教える気はないかしら?」

左京さきょうが再度問い詰めるも、四日市は牽制するだけで話を適当に流す。

「ほらぁ~、左京に右京うきょう、それに蓮夏れんか古都梨ことり~。続きをやらんかい~!」

店長が稽古に戻るよう促す。

「まぁ、いいわ」
「次は八神やがみ、私とやりましょう」
日野ひのは私と」
「「よろしくね」」

左京と右京が中央に戻り、八神と日野も息を整えて今度は相手を代えて向き合う。

「はじめぇい!!!」

店長の大きな声で再び地稽古が開始された。八神は右京と、日野は左京と対峙する。しかし、冷静さを欠いている八神は右京の癖を突くことができない。ひたすら攻め一辺倒の攻撃を繰り返し、右京もそれに対して動じず、冷静に見切って小手や胴を確実に打ち込む。

「今日の八神さん、らしくないね。動きがメチャクチャ。冷静さも欠いてて、あれじゃ相手の思うつぼだよ」

ひかりも八神の特徴は把握しており、らしからぬ動きに思わず声が出る。一方の日野も右京以上に弱点のない左京の攻撃に防戦一方。

「う~ん。兄さん。左京右京と蓮夏に古都梨。随分と差がついてしまってるね」

いつの間にか近くに来ていた龍二郎さんが龍一さんと話し出す。

暁大第三あかつきだいだいさんは都内でも有名な高校だ。練習量も半端じゃない。蓮夏と古都梨も練習はみっちりやっているようだが、現状では左京右京の成長が凄まじい」

中学生までは似たようなレベルだったと、私たちに付け加えて教えてくれた。

(左京と右京か……)

正直、ここまで強くなっているとは思わなかった。八神で勝てないんじゃ、今の私じゃ到底無理だろう。そんなことを考えていたら。

「お前さんは~。雪代ゆきしろさんじゃろぅ。石館いしだて中の」

店長が私に話しかけてきた。「はい」と一言だけ返事を返す。

「ワシはよく石館中にも販売訪問しにいっとたんじゃが、あそこの指導者はまるで駄目だ」

思い出したくもない中学時代の記憶が蘇る。

「部員みんなが窮屈そうにしておったのが、遠目からでも見てわかる。そこで、ひと際気を吐いて稽古しとる女の子が目についてのぉ」

私は少し目を伏せる。

「何かに取り憑かれたように、竹刀を振るっておった。まるで人殺しでもしかねんような気を吐いてなぁ」

これ以上の言葉は聞きたくなかった。光がそれを察して、何か言いかけたが。

「じゃが、さっきの蓮夏や古都梨と稽古してた時はぁ、良い剣道しておったぁ。高校で良い指導者に出会ったようじゃのぉ」

ニィッと笑って私の方を向いた。

「あまり気取るでない。今は左京や右京が上でも、あんたには良い仲間がたくさんいそうじゃ。蓮夏や古都梨も良いチームメイトを持ったわぃ」

「ナーハハッ」と笑って話は終わる。

「父さん。女子高生の心情を深く読んだらダメだよ。またセクハラ親父って言われるよ」

龍二郎さんがため息交じりに言う。

「……本当だ。このスケベじじいが」

聞こえないよう、後ろで四日市が小さな声でつぶやく。そうこう話しているうちに、八神たちの地稽古は終わっていた。

「さて」
「そろそろ」
「私たちと」
「稽古しましょうか」
「雪代」
響子きょうこ

左京と右京が再び戻ってきた。ダンッと壁を強く叩く八神。グッタリと両膝に手を当て下を向く日野。

「完敗だぜ。あいつら。見てなかったかもしれないが……」

相馬そうまもつぶやく。桜宮さくらみや姉妹に臆しているのか、どうしても今は乗り気になれない。自然と左足が一歩下がる。

「……なぁ、双子の姉妹さんよ。強い奴と試合したいんだろ?」

四日市が私の前へと出る。試合なんてまっぴらごめんだ。私はただ付き添いで今日は防具を持ってきただけだと言うのに。

「よ、四日市……」

私が断ろうとしたら。

「いるぜ! ここに。お前たち双子の姉妹より強いやつが!」

親指でクイッと指すが、その方向は私ではない。

「へっ!?」

素っ頓狂な声を出した方向に、光がいる。

「頭に血が上りすぎてる八神は話しにならない。日野も昔のトラウマからか、こちらも問題外。防具持ってない私や後ろの奴は論外、まして……」

四日市が八神と日野を指さし、親指では相馬を指す。そして。

「ひ弱っている雪代なんか論外中の論外だ。総武学園そうがく1年で、こいつは一番弱いからな」

何を言い出すかと思えば。みんなが呆気に取られていてもなお、四日市は話し続ける。

こいつは強いぜ。お前たちみたいな派手さはないが、堅実で真っすぐな剣道だ。試合でもなんでもしてみな。おそらく、お前たちは負けるぜ」

私たち高校生はもちろん、店長や龍一さんと龍二郎さんも少しの間、声は出なかった。


                 続く


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