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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十九

※其の十八からの続きです。気軽にお付き合いください。



 「おい! 急げ! 午後の稽古前の掃除時間は限られてるんだぞ!」

それぞれが所用で、1年生全員、稽古前の掃除に取り掛かれていない。

「なんで今日に限って1年全員用事あんだよ!」

藤咲ふじさき八神やがみが小走りでガヤガヤと言い合う。

「喧嘩しないで! 急ごう!」

ひかりが前へ進むように藤咲と八神の背中を押す。

「押すな! 月島つきしま! わかっている!」

そんなやり取りをしていると道場の外側から大きな音がした。

「おらっ! てめェ! 四日市よつかいち!!」
「いいかげんにしろよ!!」
「女の喧嘩なめんじゃねェ!!」

鈍い音が離れた場所から響いてきた。

「お、おい! なんだよ物騒だな」

八神が急に立ち止まり、覗くような雰囲気でもないので一旦全員で端に身を隠す。私とひかりはすぐに状況を理解した。

「なんだ。神聖な道場の前だぞ。誰だ。あいつらは」

藤咲は道場の掃除のことしか頭にないのか、出ていこうとする。

「……ちょっと待った方が、いいかも」

日野ひのが藤咲のスカートを引っ張る。私も気づかれない程度に顔を出す。

「……くっ、くそ。……痛てぇ」

昨日と違い、四日市が一方的にやられているようだ。「喧嘩か」藤咲も状況を飲み込む。

「こうやって、ハンドクリームを手にた~ぷり塗って~! お~らよ!」

1人が四日市の顔を塗りつぶして、ゲホゴホとむせさせる。

「ひっ、酷い。完全ないじめだよ。これは……」

光が悲痛な声を出す。

「なぁ! こいつのスカート脱がしてSNSで上げるか?」
「いっそ、真っ裸にしちゃわね!」
「キャハハッ! それ、おもろ!」

さすがに辱められるのを恐れたか抵抗を試みる。しかし、力が入らないのかその場で蹲る。

「……おい。誰かハサミ持ってないか? こいつの髪の毛。ちょん切ってやる」

たしか相馬そうまとか言ったな。自分は手を汚さず、仲間に指示だけする。汚い奴だ。

「カッターならあるよ! 相馬!」

チャキチャキとカッターから刃を出し、四日市の髪の毛を引っ張る。

「わかっているよなぁ? 四日市。私がお前を嫌って憎んでいること。あの時・・・の苦しみ。お前も味わえよ!」

「卑怯者め」最後の言葉を発するが動けないほど痛めつけられて、もう抵抗できない様子だ。取り巻きもニヤニヤ笑うばかりで、四日市も観念したのか目を瞑る。

「うぅ……。うぅぅ……」

うめき声を発して髪が切られようとした時。

「待てーー!!! コラッ!!!!!」

八神が大声を発してその場を飛び出した。

(バカ!)

しかし、同時に私は後悔もしていた。自分にはこういうことができるだろうかと。

「4対1で寄ってたかっていじめか。高校生にもなって恥ずかしくねーのか!! てめーら!!!」

八神の声を皮切りに藤咲も出ていく。

「神聖な道場前でなにをしている!」

こうなると隠れる意味はもうない。私も光も日野も出ていく。

「あん? なんだお前ら? せっかく放課後、誰も見てないところでやってたのによ」

相馬が一旦カッターを終い、こちらを伺う。見られちゃマズい所はしっかり隠す。本当に慣れていて卑怯な奴らだ。

「そっちの2人は昨日屋上で見たな。オイ、私の腕叩いたの忘れてんじゃねぇよな」

取り巻きの1人が恨み言のように言う。

「そっ、そっちが急に絡んできて、雪代ゆきしろさんに掴みかかろうとしたんでしょ!」

光が正当性を言うが、こいつらにそんなことは通じない。

「今は練習前の掃除の時間だ。そこをどけ! お前たちと遊んでいる暇などない!」

藤咲が強引に道場の前に行くが、逆に囲まれる。

「なんだ貴様ら! こんなことして良いと思っているのか? 校則違反だぞ」

校則違反の言葉に笑う連中たち。

「お前ら剣道部だよな。みんな良い子ちゃん。まるでお手本の優等生ってか?」

相馬とやらが言うが、藤咲は無視して道場の鍵を開けようとする。藤咲の態度に我慢ならなくなったか取り巻きの1人が藤咲の制服を掴みだした。

「なんだ! 剣道部は忙しいんだ。お前らと遊んでいる暇などないと言っているだろう!」

そのまま胸ぐらを掴んで藤咲を端まで追いやる。

「や、やめてよ! 暴力や喧嘩はダメだよ! 私たちがなにしたって言うの!」

光が叫ぶと残りの3人で今度は光を取り囲む。

「お前、可愛いなぁ~。そういえば四日市こいつも可愛いとか、よく言われていたなぁ」

蹲った四日市を指さして言う。

「ムカつくぜ! オイ! 名前なんて言うんだよ!」

相馬が光に対して凄む。

「つ、月島光。やめてって言っているでしょ!」

藤咲は掴まれ続けるのが我慢できなくなったか、護身術の基本のような動きで振りほどく。光がこれ以上詰められるのを、さすがに私も見ていられない。

「やめてよ。光はなにもしてないでしょ。腕を叩いたのは私だ」

光を下げて私が前へと出る。

「そうだったなぁ。お前こそ誰だよ。あぁ?」

雪代響子ゆきしろきょうこと名乗り出る。

「雪代、響子……」

相馬の顔が一瞬曇る。四日市と相馬。こいつらの関係には深い因縁があるようだ。完全にこの騒動に巻き込まれてしまった剣道部わたしたちは、もう掃除のことなど頭になかった。


                 続く




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