憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十六
※其の十五からの続きです。気軽にお付き合い下さい。
「本気でやれ!!!」
全国大会東京都予選で女子団体は今回もベスト16で終えた。1学期の期末試験が7月に控えているので3年生の先輩方は進路の関係上、一旦剣道部を離れた。8月にある秋季大会や玉竜旗など、夏休みも大会は満載だが、完全に引退するかは7月までに決めるとのことだった。
「やっているよ!!」
武蔵女子学院に徹底的な実力差を見せつけられた総武学園女子は夏の大会に向けて再始動。先日の大会に先鋒で出場した藤咲は特別稽古を自らに課し、今日も今日とて私に挑んでくる。
「メーーーン!!!」
藤咲に1本取られて地稽古もここまで。隣り合わせに座って面を取る。
「まだだ! まだお前は本来の力には程遠い!! 一体何がお前の力をそこまで抑えているんだ!!!」
その質問には答えなかったが、鋭い藤咲にはいつかは見透かされてしまうだろう。剣道に対する気持ちが完全に冷めてしまった者にしかわからない、この気持ちは。
「おい! 藤咲! なに面取ってやがる! あたしの相手はないのか!」
八神が突っかかってくる。
「ちょっと待て。水分補給だ! 八神の相手などいくらでもしてやる」
とは言え、先日の都大会から1年生の距離はちょっとだけ近づいた。都大会で見た名門、強豪、強敵たち。上を目指していくならこれらは関係なく、倒さなければ勝ち進むことはできない。私たちも少しは大人になった。
「いいか~! 剣道はいきなりは上手くならない。毎日の素振りが基本。地道なトレーニング。なにより一つ一つの小さな行い! それがやがて積み重なって、強くなっていく!」
練習終わりには大徳先生から剣道以外のこともたくさん教わる。
「……雪代。……打った後の残心がブレる。体の使い方が……」
男子顧問の嵐先生からも時々指導を受ける。
「雪代! 練習終わって家に帰って、漢字の勉強もちゃんとしてるわね?」
琴音先生からは勉強のこともケアされる。
(大変だけど、ありがたいんだろうな。こういうのって)
1日1日の時間が早く感じる。そんな中でも得られる充実感。とりわけ剣道の練習では特に最近、面白いことがあって。
「次! 『突き』技練習! 危ない技だから、気なんか抜かないように!!」
中学までは禁止されていた『突き』技。名前の通り相手の喉を目掛けて突くので危険な技だ。高校では突きも1本として成り立つ。私は新しい技を覚えるのは好きだ。
「いいっ! 突きは少しでも迷いがあったり、心に邪心があると外れるからね! 外れた後は隙だらけになるから、注意して放つこと!」
琴音先生がいつも手本を見せてくれる。そして百発百中で外すことがない。
「凄いよね! 琴音先生、いつも声張り上げながら突き技の手本見せてくれて、しかも外れることないし」
光が面越しで憧れの眼差しを送る。
「ツキィーー!! !」
八神の突きが外れて竹刀が私の喉を霞める。
「くっそ! どうも突きは上手くいかねぇ」
(痛いっつーの、もぅ)
突き練習は外れると、喉は真っ赤な痣だらけになる。
「ツキィィィー ー!! !」
藤咲の突きが外れて、またしても私の喉を竹刀が霞める。
(下手くそ! 八神も藤咲も力入れすぎだっつの。痛いなぁ)
そんなことを言うとまた喧嘩になるので、黙っておく。私も外すことはあるので、お互い様だ。
「八神と藤咲は力任せに突かない! 体全身で!!」
再び琴音先生が突き技を放つ。元立ちの今里先輩がドンッ!と後ろによたつく。おもわず周りもオォー!と声をあげる。
「オォー! じゃないの!! みんなにも覚えて使ってもらいたいし、突き技は使えないといつまでも都大会はベスト16止まりよ!!」
(綺麗だな、琴音先生の突き技)
本当にこの先生には憧れる。先生として、人として、なにより剣道の姿勢に対して。隣で光がキャッキャッと声を上げる。
(……真っすぐ、姿勢、無で、体全体、放つ)
単語を頭で繰り返し、私も突き技の練習を繰り返す。
(一、二、真っすぐ、喉、突く……)
日野の突き垂れに竹刀が綺麗に突き刺さる。日野が軽く吹っ飛ぶ。
「ゴホッ! ゲホッ!」
なにも考えずに自然に突き技を放てたのか、日野がむせる。
「悪い日野、大丈夫か?」
外れてはいないはずだが、日野が呼吸を整える。
「……ゲホッ。やっぱり、凄い。……雪代は、とんでもないね」
なにを意図したかわからないが、今の一撃はたしかに手ごたえのある突き技だった。
(これは、マスターすれば使えるかも)
突き技にも種類があり、諸手突き(竹刀を両手で握ったまま突く)と片手突き(左手1本で突く)がある。突き垂れは的が狭いので難しい。少し周りを見るが、1年生はやはり慣れないせいか外れることが多い。でも、この時、私だけは妙な自信が心に芽生えていた。
続く
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