憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の六
※其の五からの続きです。気軽にお付き合い下さい。
練習終わりに必ず駅近くのコンビニへと寄る。同じ電車で帰る私と光と宗介。ここで夕飯前に軽く腹ごしらえをしてからの帰宅。家の夕飯もしっかり食べる。運動部の高校生ともなれば、男だろうが女だろうがお腹が空くのだ。
「宗君、男子剣道部の雰囲気はどう?」
総武学園高校は共学で、剣道部は男女同じ道場を使っている。しかし、練習は別々で行っているので休憩中に男女お互いにチラホラと稽古を見るレベルだ。
「んっ。まぁ、1年女子ほど俺らはピリピリしてないけど、やっぱ女子と比べると人数も少ないし、正直俺らは女子剣道部のオマケって感じだな」
「そんなことないよ」と光は言うが、男子剣道部員は1年生3人、2年生3人、3年生2人の計8名に対して、女子は3年生が4人、2年生6人、そして1年生が5人と15名いるので、どうしても稽古中は女子の掛け声や気合が勝る。
「でも先輩たちも、同じ1年の滝本や前田も良い奴で良かったよ。ただ、やっぱり試合での結果がなぁ……」
総武学園の男子剣道部はそこまで実績がない。都大会でも勝ち進んで3、4回戦ぐらいまでで、ベスト64とか32レベルだ。総監督の大徳千十郎先生も、なんとかベスト16まで男女アベックで結果が出せるようにといつも口にしている。
「ほらっ! 宗君が男子の剣道部の歴史を変えるんでしょ。いつも言っているじゃない」
光が宗介を励ます。実際、宗介は素質もあり、大徳先生や琴音先生からも一目置かれている。高校入学して即レギュラーで先鋒として先発出場。勝ちも収めており、男子部員では久しぶりに良いのが入部してきたと喜ばれている。
「もうすぐインターハイ予選だもんな。今年は支部大会で男女とも勝ち上がって本選出場決めたから、また明日から気合入れないとな」
宗介が飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てて、3人で駅へと向かう。
「なぁ、それよりお前たち女子はどうなんだよ? 先輩たちとは上手くやっているようだけど、1年女子は目合せば険悪、喧嘩だろ? そんなんでこの先、大丈夫かよ」
「う~ん」と光が返答に困る。私だって困る。
「4月に入部してもうすぐ2ヶ月経つけど、日野さんはともかく、八神さんや藤咲さんとは微妙かも……」
まぁ、あの2人と上手くやるというのも難しい。
「っても原因は月島より雪代、お前じゃね? あいつらのお前に対する闘志とか闘争心って横目で見ててもスゲーもんがあるぞ」
親の仇のように向かってくるからな。あいつらは。
「でも! それは中学までの話であって、高校は同じチームメイトなんだし、そもそも雪代さんがまさか総武学園剣道部に入部するなんて……」
光が言いずらそうにするので、宗介が後に続く。
「まぁな。男の俺でも雪代の中学時代の成績は知っているし、総武学園じゃなくて他の名門高校、強豪高校の剣道部に所属しているのが普通だ。そりゃ、目指してた宿敵が急に目の前に現れれば、面白くもないし、ぶっ倒したくもなるだろ」
その通りだ。小学校、中学校で何度も対戦した相手。いきなり仲良くなれるほど甘くないし、私もどう接すれば良いかわからない。
「別に無理して仲良くならなくても良いけど、チームワークぐらいは良くしとかないとこの先、団体戦とか絶対キツイぜ」
チームワークが試される団体戦。私はこれで何度も嫌になった。
「ま、まぁ! 雪代さん。まだ始まったばかりだし、何かあったら私に言ってよ! でも、そうは言っても私もあの2人とまともに会話したことないけど」
「アハハ」と笑う光。
「ありがとう、光。とりあえず問題だけは起こさないようにするよ」
「切れたりするなよ」と宗介からは忠告される。剣道部に入部した以上、部活仲間は一番長い付き合いになる。この先、私たちは本当に上手くやっていけるのか。きっと部員全員が思っていそうだ。
「まだ入部して2か月なのに、こんだけ練習して練習してなんだから、目標や結果は出さないと、なんの為にやってるのかわからなくなるよな」
宗介がピーナッツを宙に飛ばして口の中に入れる。
「……でも、私は雪代さんと同じチームメイトになれて嬉しいよ。だって、私たちの代の憧れの人、目標とされていた人だもの。でも、実際話してみると抜けてる所もあってなんか可愛いんだよね! 雪代さんって」
光ちゃん。褒めてくれるの嬉しいけど、私そんなに抜けてるの?
「……はぁ。……いろんな人に言われてさ。……疲れたんだよね」
私は小さな声で言ったので聞こえなかったようだ。
「とにかく! インターハイ予選も近いし、今はそっちに集中しようぜ! まぁ、おそらく1年で試合に出るのは俺ぐらいだと思うけど!」
そろそろレギュラー決めの部内戦も始まる。だが正直、私は試合に出たくない。
(怒られて、詰められて、はみ出し者にされるのは、もう嫌だな)
どうにも過去のトラウマは、当分消えそうもないようだ。
続く
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