憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の四十四
※其の四十三からの続きです。気軽にお付き合いください。
稽古終了後、私たちは本来の目的である、相馬と四日市の防具を買うため、着替えて売り場へと戻った。とは言っても、龍一さんや龍二郎さんが頭の寸法を測ってくれたり、身長に合う胴着を物色してくれた。
「お前ら、なに顔赤くしてんだよ」
今日は全く良い所のなかった八神が面白くなさそうに言う。「うるせー」だのなんだののやり取りは、即座に龍一さんに注意される。
「余計なお世話かもしれないが、君たちは少し態度や言葉遣いも、高校で学んだほうが良い」
うんうん。本当、もっと言ってください、こいつらには。
「そうなんですよ! いっつも琴音先生に注意されるんです! 美静とありすと、八神さんと藤咲さん」
「あっ!」と思い出したように。
「あと、雪代さんも!」
えっ?光ちゃん、私も?
「闘志や闘争心を前面に出すのは良いが、日常生活まで同じでは駄目だ。素質が潰れる」
さすが日本一剣士の言うことだけあって、説得力と威圧感は物凄い。
「まぁ、若いうちは男でも女でもそんなもんじゃぁ」
「ナーハッハ」というスケベじじいは私が見張っておく。隙あらば女の子に近づくし。
「おそらく、顧問の先生も言ってるんじゃないか? 『なんなの! その言葉使いは! 直しなさい!』ってさ」
いやいや、その通りです。龍二郎さんはまるで見てるかのように言う。
「社会って言うのはね。男女平等が囁かれても、どうしても男は女の人の言葉遣いには敏感に反応するものさ」
そうなんですか。大人じゃないのでよくわかりませんが。だが、琴音先生も剣道を離れると別人のように変わるので、周りからの好感は物凄い。求婚も受けるほどのモテさだ。
「はぁ、よく、わからないね、社会って、男の人って」
日野が落胆な声を出す。
「いやいんや、それで良いんじゃ。蓮夏や左京右京は子供の頃なんて、龍一と龍二郎のお嫁になるって、よー喧嘩しとったわい」
「ブッ」と吐き出すように八神が咽る。
「古都梨は黙って想いを胸に秘めてたじゃろ。本当は自分もそうなりたいってなぁ」
「ナーハッハ」っと言って、日野も顔を赤くする。そして「セ・ク・ハ・ラ」と突っ込む。
「人のこと言えねーじゃねーかよ!」
四日市が更に突っ込むも、「言葉使い」と龍一さんに注意される。
「は、はい……」
ちょっと落ち込む四日市に光が。
「でもでも! 美静って、こんな感じですけど、彼氏いるんですよ! しかも年下の彼氏! 男の子なのに超可愛いんです!」
「へぇ」と龍二郎さんも興味深く関心を寄せる。いやいや、光ちゃん。相馬がいる前で、それ言う?地雷踏んだよ。
「あっ? 誰が私の弟が四日市の彼氏だって?」
相馬の顔がみるみる悪鬼の如く変わる。言わんこっちゃない。
「なんで相馬の交際許可が必要なんだよ! 好いた惚れたも人の自由って言うだろ」
詫びるも悪気もなく、堂々と宣言する四日市。
「ざけんなよ! 四日市! てめぇ、またやられてーのか!」
「言葉遣い!!!」と一段上がる龍一さんの迫力ある声が相馬をも黙らす。
「……は、はい」
そのやり取りもなんとなく面白いのか、周りは少し笑う。
「まぁまぁ。ほら! 寸法は測ったし、胴着も決めた。防具の袋や竹刀はどうする? 2人共」
龍二郎さんが笑顔で上手く仲介してくれて、相馬と四日市はプイッと顔を背けた。
「まったく。光! 心臓に悪い」
少し光に文句言うも。
「大丈夫だよ。あの2人。もう、前ほどの喧嘩はしないよ」
今日の稽古の出来事があってか、いつになく光の笑顔が輝く。
「うん。私はこの竹刀がしっくりくるな!」
四日市がその場で軽く振る。
「相馬さんはこれなんか、どうだい?」
龍二郎さんが少し値の張る竹刀を手渡す。ピッと相馬の素振った音が売り場に響く。
「……はい。私はこれで」
最後に会計の話になるのだが。
「えっ? いや、さすがに、これは値引きしすぎでは……」
四日市も財布からカードを取り出し、少し固まる。
「……私の方は、もう少し値が張ると思いますが」
相馬も価格を見て、躊躇する。
「……いいんじゃ。今日はお前さんたちの良い所をたくさん見せてもらったからのぉ」
スケベじじいがこれ以上ない笑顔で最後の防具調整をしてくれる。
「相馬さん、四日市さん。これは僕たちからの半分、感謝の気持ちやエールでもあるんだ。今日は非常に楽しめた。これで買ってもらいたい。もちろん、兄さんも同じ気持ちさ」
龍二郎さんも笑顔で2人に竹刀を渡す。
「で、でも……」
それでも2人は躊躇する。
「左京右京とも稽古した手前、あんまり贔屓目に言うわけにはいかんが、蓮夏と古都梨は高校でインターハイへ行くのが夢なんじゃ。だが、実力的に個人では、ちと厳しい。でも、あるいは団体戦なら……」
店長が再び真剣な眼差しで私たちに向き合う。
「こんだけのメンバーが総武学園に集まって、それにて千葉県でも有名だった、お前さんたちが加われば、夢ももしかしたら実現できるじゃろて。小さい頃から見てきた可愛い子たちだ。この防具を身につけて、蓮夏と古都梨に力を貸してやって欲しい」
なんとなく響いた『インターハイ』の言葉。今日まで見てきた様々な強豪、名門高校。そして、実力者たち。遥か雲の上に感じる世界を一瞬、私たちは見た気がした。
「……わかりました」
「ありがとうございます……」
2人はお礼を言って頭を下げた。
「蓮夏、古都梨。期待してるぞ」
龍一さんがグッと力強く拳を出したのを、ニコッとしながら、八神と日野も力強く拳を合わせる。
「しっかし、桜宮姉妹本当に強くなってたぜ。うかうかしてたら引き離される一方だ」
夕日も沈んできた帰り道。八神が一日を総括する。
「蓮夏はカッとなる癖、早く直さないとね」
光が並んで一緒に反省する。
「わたしも、頑張らないと。光、また稽古、付き合ってね」
日野が光を挟んで3人は前を歩く。
「古都梨は、もっと気持ちを前面に出しても良いんだよ!」
などなど、いつの間にかこの3人も名前で呼び合うほど、自然な関係になった。
「……八神。日野」
相馬が2人を呼び止める。
「……今日は、ありがとうな」
その一言だけ言って先を行く。
「……私も、ありがとう。助かったよ」
四日市もサラッと一言だけ伝え、前を行く。
「まぁ、いいけどさ」
言われて悪い気はしないか、八神と日野は少し照れる。
「あ、そうだ。雪代も」
前を歩く相馬と四日市が振り返る。
(なになに? 私にも何か言ってくれるの)
2人は少し笑顔の後。
「これで竹刀や防具は揃った」
「私にビンタしたこと」
「私を張り倒したこと」
「私たちを入部させたこと」
「「絶対! 後悔させてやるからな!!」」
桜宮姉妹同様、息の合った台詞は今後の剣道部にとっても、大きな?戦力になりそうだ。
続く
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?