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『秘密の森の、その向こう』映画レビュー   『燃ゆる女の肖像』とは一味違う美しい、3世代にわたる女たちの話。


『燃ゆる女の肖像』で知られるセリーヌ・シアマ監督の中編作品『秘密の森の、その向こう』をレビューします。静かで暖かく、どこか懐かしくて寂しい、とても美しい映画でした。

あらすじ

8歳のネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。
大好きなおばあちゃんが亡くなったので、
母が少女時代を過ごしたこの家を、片付けることになったのだ。
だが、何を見ても思い出に胸をしめつけられる母は、
何も言わずに一人でどこかへ出て行ってしまう。
残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。
母の名前「マリオン」を名乗る彼女の家に招かれると、
そこは“おばあちゃんの家”だった――。

本作品HPより

そうなんです。娘と幼少期の母が出会うといういわばタイムリープものなんですよね。と言ってもそのファンタジー要素は芝居や演出からは極限まで排除されており、不思議とネリーも動じることなくその状況を受け入れる。その二人の不思議な出会いは劇的なものとしてではなく自然に観る側も受け入れることができるのではないでしょうか。


本作ポスター


セリーヌ・シアマ監督は15歳の頃からジブリ作品に触れ、これまでの作品作りの中でも大きくインスピレーションを受けたと話しており、本作においては特に『となりのトトロ』での自然との関わり方や自分を取り巻く状況や世界観をどう信じ込ませるかという点で影響を受けたそう。若き日の母と出会うという点では『思い出のマーニー』も彷彿とされられますね。
何かを見据える真っ直ぐなネリーの目に終始引き込まれ、我々大人が思っている何倍も、もしくは忘れてしまったように、子どもの思考は自由で未熟なんかではなくて、大人の寂しさや嘘も見抜いていることを気付かされました。「 現代を生きる子どもたちを祝福したい。彼らのポテンシャルを描きたいと言う思いがあった」と監督は話しており、そのメッセージはきっと我々大人にも向けられたものでもあって、あの頃不安だったものや眩しく見えたもの、その時感じた世界の広さや狭さを、あの時に見えた大人たち忘れないでほしいというメッセージにも感じました。

個人的感想

個人的に最後娘のネリーが現在の姿の母親に対して、「マリオン」と呼びかけるシーンですごく涙が出て来たんです。ネリーがすごく大人に見えたし、大人になったマリオンも母親の表情でありながらも少女のように見えた。ネリーにとっては大人の事情とやらを想像し理解するしかない、ただ寂しさに耐えるしかなかった数日間を経て、母親と「対等な友」として再会できる事や、自分の世界の全てである母親にも弱さがあると理解できたことの喜びや安堵。マリオンにとっては、かつてのかけがえの無い友との再会であり、自分が愛情を込めて育てた娘にいつの間にか救われ、そして弱さを見せることを許されたかのような解放感。二人の中に共通してあった「孤独」が時代を超えた二人の交流の中で溶け合い、お互いの心を許し合う本当に美しい瞬間でした。母と娘、姉妹、友情、全てを超越したネリーとマリオンの関係性に感動したのか羨ましく眩しく見えたのか謎の号泣をしてしまいました。


本当に美しく静かな映画で本当に素晴らしかったんですが、私にとっては言語化して噛み砕くのが非常に難しい映画でもあり、今回はこの辺で。



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