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【民俗レポ・仏教】ブッアガイの機会を得た所感

※有料記事ですが、民俗や伝統行事に関しては、無料部分までで充分書かれています。ですので、自分でいうのもヘンですが、民俗や伝統行事に興味のあられる方は、購入されないことをおすすめします。有料の後半部分は自分の感想ですので、そっちも読んでみたいと思ってくださった方は、ご購入くだされば幸甚です。


二〇二一(令和三)年八月二十七日、柊原の伝統習俗で、今はあまりされなくなってしまった、「仏あがい(ぶっあがい)」という行事を執り行った。

仏あがいとは、海難物故者供養の行事。海で亡くなられた方の遺族が八月二十七日の暮れに浜辺に出てきて、砂を盛り上げてその上にロウソクや線香を灯し、海の方を拝む祭事で、ほかの地域では「浜施餓鬼(はませがき)」などと呼ばれる行事に相当するだろう。

私は別に海の事故で亡くなった親族がいるわけではない。ではどうしてこの度、仏あがいを自主的に行ったのかというと、自坊の真宗寺で月に一回行っている仏教学習会があり、七月の学習会の際、お盆をテーマに取り扱ったところ、出席者の方から「柊原には昔、仏あがいという行事があった」と紹介いただいた。
曰く、「もうほとんど見なくなったが、二十年三十年くらい前までは、柊原の海岸線一帯にロウソクの明かりが灯り、それは綺麗な景色だった」という。そうして皆さんが色々と思い出話に花を咲かせるうちに、「仏あがいを復活させよう」というお声があり、公民館の下の浜で仏あがいをやってみる運びとなったのだ。


ところで二十七日は親鸞聖人のお逮夜(たいや/命日前日のお勤め)でもあり、自坊では十三時半から「同朋の会定例会」という月に一回の聞法会(もんぽうかい/仏教の教えを聞く集い)がある日でもある。
同朋の会には学習会とは別に、主に七十代八十代の門徒さんが来られるため、私は仏あがいの情報収集として皆さんにお話をうかがった。提供いただいたお話を列挙するに、

●この行事を、「仏あがり」とか、単に「線香灯し」と呼ぶ人もいる。
●もともとは、お盆の最中である旧暦七月十五日の一週間後ということの日 取りであり、二十二日に行っていたという。(旧暦七月二十二日を新暦換算すると、二〇二一年は八月二十九日である)
●盛る砂の形は多様であり、単にお椀をひっくり返したような形や、漁師の家は舟型、農家の家は四角形を三段重ねてお墓の形を模したものを作り、そのてっぺんにロウソクを挿し、まわりにたくさんの線香を灯す。
●その物故者の亡くなった年だけやるのではなく、毎年毎年やるものである。
●昔の浜辺は真っ暗で、光源にはタイマツを焚いていた。
●新生振興会では木で作った簡易な舟を流していた。
●第六垂水丸沈没事故(※一九四四(昭和十九)年二月六日九時五十分に、乗客七百人以上を乗せて垂水港を出港した垂水汽船第6垂水丸が、転覆・沈没した事件。死者四六四人、行方不明二人、日本で二番目の規模の海難事故という)や太平洋戦争を経てからは、その遭難者や戦死者等を供養する意味合いも兼ねられている。
●海潟地区の仏あがいは前日二十六日、中俣地区の仏あがいは二十七日に行われる。
●新城地区の場合、初盆の家では、庭に畑から持ってきた土を舟型に盛り、有縁の人はそれに線香を挿しに参る「ブッドン」という行事があったが、今はもうほとんど途絶えている。

といったことをお教えいただいた。

当日十八時半、学習会メンバーを中心に、市報の取材班の方から、郷土史会の会長さんまで、二十名ほどの方が集まった。
各々、舟の形やお墓の形、半球の形に砂を盛った。中には桜島や高隈山を模した大作を築いた方もいた。

また、その場で聞いた話では、昔の人は、「砂を盛っとはスジに作れ」と言われていたという。ここでいう「スジ」とは柊原の筋道を伝う、「海への排水路」のこと。どうして排水路沿いに砂を盛るのか、拙見ながら考えてみると、スジはかつて細い川があった跡だったり、暗渠の出口だったりする。川という川のない柊原において、精霊流しではないが、川から海へ御霊を送るイメージがスジに宛がわれているような気もする。

このように地元の皆さんにご指導いただきながら、仏あがいを進行したのだが、従来の仏あがいと違う点としては、その場に僧侶がいたことだと思う。

仏あがいは特定の宗派による行事ではない。そのため祝詞や読経はない。それぞれの家でこじんまりとやるものだと聞いた。

しかし、せっかく真宗寺でおこったご縁なので、真宗式というほどではないが、私は僧衣で参加し、「嘆仏偈」という短い偈文をあげた。行事や文化の純然たる継承という観点では、憚られることであったかもしれない。しかし、私は私のできる最も懇ろな方法で仏あがいを迎えたいと思っていた。


そういった思いの前提には、実は、或る新聞記事を読んだことがきっかけとしてあった。

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