富士山を生態学視点で見てみよう

富士山の楽しみは山頂に登るだけではありません。富士山お中道(5合目あたり)を歩いて自然…

富士山を生態学視点で見てみよう

富士山の楽しみは山頂に登るだけではありません。富士山お中道(5合目あたり)を歩いて自然観察するのも楽しいですよ。

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  • 富士山お中道を歩いて自然観察

    富士山の中腹を巡るお中道は火山荒原や森林を横切りながら歩ける遊歩道です。富士スバルラインの奥庭〜5合目駐車場までのお中道の自然を生態学的な視点で解説します。 週1、2回の更新で、全24回の連載になる予定です。

  • 富士山お中道の生物図鑑

    富士山お中道で見られる植物を中心に連載します。鳥類やコケ・地衣についても少し紹介できればと思います。

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【富士山お中道を歩いて自然観察】 はじめに

富士登山では、荒涼とした登山道の登りが続くが、お中道は豊かな自然にあふれている。 山頂を見上げながら、ゆっくりと観察をして歩くことで、動植物に親しみ、自然の営みを理解することができるだろう。 富士山の植生は現在進行形北アルプスなどでみられる高山植物、ハイマツやライチョウは約2万年前の氷河期にシベリアなどユーラシア大陸北部から南下したものといわれている。氷河期が終わり温暖になった際、低標高の地域から消えて高山帯にだけ取り残され、現在に至っている。 これに対して、現在の富士

    • 【富士山お中道の植物観察日記】 2024年7月20日

      梅雨明け! 登山シーズン突入関東・甲信地方が梅雨明けして数日後の7月20日、スバルライン奥庭駐車場から5合目駐車場までのお中道を歩いてきました。 標高2,300 mにも関わらず、非常に暑い1日となりました。 地味な花、ミヤマフタバラン 歩き出してすぐ、コメツガ・シラビソの森林に入ります。 森に入ってすぐの足元に、地味な花を見つけました。 ミヤマフタバランです。 ミヤマフタバランの花は、地味な茶色っぽい色なので目立ちません。 見つけるポイントは花茎の根元にある付いにな

      • 【富士山お中道の植物観察日記】 2024年7月3日

        梅雨明け間近前回から3週間たって、富士山は雪も融け、緑も濃くなって、すっかり夏山らしくなっていました。 それでも梅雨明け前で、梅雨前線が北陸から東北地方にかかっているので、空模様や、かなたの南アルプスの山並みからも、まだ梅雨の期間である様子が感じられます。 樹木の実もだんだん成熟してきました。 ウスノキは、開葉直後はアントシアンの赤い色が目立っていましたが、すっかり緑色の葉になりました。 葉の光合成系で、強光から守られる仕組みが完成したのです。花が開きましたが、下を向い

        • 【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 梅雨の合間の御殿場登山口

          積雪期の御殿場登山口の様子は、以前に紹介しましたが、雪が融けて植物が生育を始めると、どうなるのでしょう? (2024年2月の様子はこちら↓) 御殿場口側の低い森林限界ふだんご紹介している場所(山梨県側にある富士スバルラインの終点の富士吉田口周辺)の森林限界は標高2,200 m付近です。 しかし、御殿場口周辺の森林限界は1,400 mと低い標高にあります。 航空写真では森林は緑色に、森林になっていない斜面(火山荒原)は赤黒く見えます。 山頂を中心にぐるりと囲っていた森

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        【富士山お中道を歩いて自然観察】 はじめに

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        • 富士山お中道の生物図鑑
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        • 富士山お中道を歩いて自然観察
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          【富士山お中道の植物観察日記】 2024年6月12日

          新緑のお中道梅雨入り前の晴れた日、関東地方も30℃を超える暑さが記録されましたが、富士山お中道付近の正午の気温は13℃ほどの涼しさでした。 夏至間近の強い日差しに、新緑がまぶしく輝いていました。 富士山の雪も融け、山麓は緑も濃くなりました。林の中では初夏をつげるエゾハルゼミが鳴いていました。 大沢駐車場(標高2,020 m)の脇では、4月のスラッシュ雪崩で、数百メートルにわたり樹木がなぎ倒されました。今でも、その威力を見ることができます。 富士山では毎年のように、規模

          【富士山お中道の植物観察日記】 2024年6月12日

          【富士山の見える?山】 三国山のブナ林

          三国山(標高1328 m)は、山梨県、神奈川県、静岡県の三県にまたがる山です。 以前の記事で何度か紹介している明神山からは徒歩40分ほどで行けます。 前回の記事でも紹介しましたが、約300年前の宝永山(富士山の側火山)の噴火は三国山を含む明神山周辺の植生に一部影響を及ぼしています。 (詳しくはこちらの記事をご覧ください↓) 三国山にはブナの極相林があります。 三国山の中腹には、このような根曲がりの太いブナが数本みられます。 このような太いブナは樹齢300年以上あると言

          【富士山の見える?山】 三国山のブナ林

          【富士山の見える山】 明神山周辺の3つの植生

          4月の火入れによって山全体の枯葉が焼かれましたが、その後どうなったでしょうか? 1か月あまりたった5月下旬に行ってきました。 (明神山の過去の記事はこちら↓) 火入れによって焼かれたススキ草原も、新たな葉が元気に伸びて、すっかり緑になっていました。残念ながら富士山は雲の中で見ることはできませんでした。 このように毎春、火入れを行うことで、森林への遷移を止めて、草原が維持されるのです。 火入れの境界からの眺めも、一面緑色になりました。 上の写真のように明神山周辺では、

          【富士山の見える山】 明神山周辺の3つの植生

          【富士山お中道の植物観察日記】 2024年5月2日

          春を待つ富士山4月26日にスバルラインが、今季初めて全線開通しました。越冬した植物の様子を見るために、早速行ってきました。 スバルラインの途中から富士山を眺めると、まだ落葉樹の緑は見られません。一番早いカラマツの枝先は淡い緑色に見えます。 お中道の雪の状況 昨年の12月は記録的な暖かさで、標高2300mのお中道にも雪は見られませんでした。 その後も暖冬傾向が続き、すでに御庭にも全く雪は残っていませんでした(例年、この時期には林床や沢地形の場所ではまだ雪が残っているのです

          【富士山お中道の植物観察日記】 2024年5月2日

          富士山でのスラッシュ雪崩

          富士山でのスラッシュ雪崩発生のニュース、ご覧になりましたか? 上記ニュースと同じ日、富士スバルライン4合目でもスラッシュ雪崩が発生し、現在(2024年4月24日時点)でもスバルラインの一部通行止めが行われています。 スバルライン5合目までの全線開通は、4月26日(予定)だそうです。 植生への影響富士山では毎年のように、規模に関わらずスラッシュ雪崩が起きています。 たびたび起こるスラッシュ雪崩や表層雪崩は、富士山お中道の植生に興味深い影響を及ぼしています。 その様子は

          富士山でのスラッシュ雪崩

          【富士山の見える山】 早春の明神山

          富士山の雪融けも進み、山中湖周辺ではフジザクラが満開です。 明神山にも春が来ました。 前回の記事はこちら↓ ところが、明神山山頂ではススキが焦げて全面黒くなっています。 下から見上げても、ススキの原が黒焦げになっていて、淡いピンクのフジザクラと対照的です。 火入れ と 植生明神山に連なる稜線の西側(山梨県側)では、平野入会組合によって毎年、火入れ(山焼き、野焼きともいわれる)が行われています。 今年(2024年)の明神山では、4月17日に火入れが行われたようです。

          【富士山の見える山】 早春の明神山

          【富士山が見える山】 明神山:標高1290.8 m 編

          今年の冬は暖冬で、富士山麓も積雪はほとんどなく、2月上旬にようやく積もったものの中旬には融けてしまいましたが、数日前に降雪があったので、3月3日に山中湖畔の明神山(鉄砲木の頭)に行ってみました。 明神山の積雪は5~10㎝ほどで、暖かい日が続けば、すぐに融けてしまいそうです。この日は風もなく、暖かな日差しのもと、穏やかな明神山山頂でした。 今回は、この明神山をご紹介します。 明神山はどこにあるか?明神山(標高1290.8 m)は、神奈川県の西丹沢の畔が丸から続く稜線の南端

          【富士山が見える山】 明神山:標高1290.8 m 編

          【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 積雪期の御殿場口登山道

          御殿場口登山道とは? 富士山の静岡県側南東斜面には、1707年の宝永山の噴火の堆積物が広がり、300年以上たってもまだ遷移の初期の状態で植生の回復が遅れています。 他の斜面の森林限界は2200 m~2500 mにあるのに対し、御殿場口では1400 mと低く、ヤマハンノキ、ミズナラなどの落葉広葉樹林からなっています。 積雪期2022年2月末の御殿場口登山道の様子です。早春を感じる柔らかな青空でした。 御殿場口では森林限界が低く、山頂までの標高差2300 mもの広大な雪の斜

          【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 積雪期の御殿場口登山道

          【富士山が見える山】 八ヶ岳、南・北アルプス編

          (富士山の植物についてはこちらをご覧ください↓) 今回は南アルプス、八ヶ岳、北アルプスの富士山が見える山をご紹介します。 このエリアでは標高2,500 m超えの山々が連なり、山々は高山帯を携えています。高山帯では氷河期に南下して来た植物が生き残っており、氷河期以降にできあがった富士山とは異なる動植物を見ることができます。 *山の所在県は、地理院地図の区分に則っています。 八ヶ岳八ヶ岳という名前の山頂自体はなく、いくつかの峰が連なるという意味で「八ヶ岳」と呼ぶそうです。

          【富士山が見える山】 八ヶ岳、南・北アルプス編

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年12月9日

          初冬今年の富士山は雪が少なく、冬富士らしい姿がなかなか見られませんでしたが、12月6日の朝に降雪があって、ようやく白い山体となりました。 12月6日は、スバルラインの道路の積雪のため、途中までしか開通しませんでしたが、12月7日には全線開通したので、12月9日に行ってきました。 ただ、お中道は冬季閉鎖となっていたので、残念ながらお中道の入り口付近と奥庭で観察をしてきました。 登山道にはほとんど積雪はありませんが、日陰では凍結していることもあるので、この時期は軽アイゼンを

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年12月9日

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年11月8日

          晩秋のお中道10月中旬に7合目以上は真っ白になった富士山ですが、11月になって暖かい日が続き、雨も降って、すっかり融けてしまいました。 落葉樹は葉を落とし、黄葉の季節は終わりました。これから冬を迎える植物の様子を見てきました。 ダケカンバ 先月10月はあんなに鮮やかに黄葉していたダケカンバも、すでに葉を落としていました。 ダケカンバが葉を落とすと果穂が目立ってみえます。 枝を揺すると種子がこぼれます。この種子は風で散布されます。 ミヤマハンノキ ミヤマハンノキ

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年11月8日

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年10月16・17日

          黄葉・紅葉の季節秋も深まり、カラマツの黄葉も見頃となりました。ただ、風当たり・日当たりの微妙な違いなのか、まだ緑の葉が多いカラマツもあります。 9月に黄葉が見られたダケカンバも、まだ見頃の場所があります。 今年は暑さが続いたためか、ダケカンバ、ナナカマドなども全体的に色づきが良くないようです。 黄葉!黄葉!黄葉! 御庭バス停から遊歩道を登った辺りでは、ちょうどカラマツが鮮やかな黄金色に輝いていました。 カラマツと同じく、ダケカンバも葉が黄色に変化します。 ダケカンバの

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年10月16・17日