富士山を生態学視点で見てみよう

富士山の楽しみは山頂に登るだけではありません。富士山お中道(5合目あたり)を歩いて自然…

富士山を生態学視点で見てみよう

富士山の楽しみは山頂に登るだけではありません。富士山お中道(5合目あたり)を歩いて自然観察するのも楽しいですよ。

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  • 富士山お中道を歩いて自然観察

    富士山の中腹を巡るお中道は火山荒原や森林を横切りながら歩ける遊歩道です。富士スバルラインの奥庭〜5合目駐車場までのお中道の自然を生態学的な視点で解説します。 週1、2回の更新で、全24回の連載になる予定です。

  • 富士山お中道の生物図鑑

    富士山お中道で見られる植物を中心に連載します。鳥類やコケ・地衣についても少し紹介できればと思います。

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【富士山お中道を歩いて自然観察】 はじめに

富士登山では、荒涼とした登山道の登りが続くが、お中道は豊かな自然にあふれている。 山頂を見上げながら、ゆっくりと観察をして歩くことで、動植物に親しみ、自然の営みを理解することができるだろう。 富士山の植生は現在進行形北アルプスなどでみられる高山植物、ハイマツやライチョウは約2万年前の氷河期にシベリアなどユーラシア大陸北部から南下したものといわれている。氷河期が終わり温暖になった際、低標高の地域から消えて高山帯にだけ取り残され、現在に至っている。 これに対して、現在の富士

    • 富士山でのスラッシュ雪崩

      富士山でのスラッシュ雪崩発生のニュース、ご覧になりましたか? 上記ニュースと同じ日、富士スバルライン4合目でもスラッシュ雪崩が発生し、現在(2024年4月24日時点)でもスバルラインの一部通行止めが行われています。 スバルライン5合目までの全線開通は、4月26日(予定)だそうです。 植生への影響富士山では毎年のように、規模に関わらずスラッシュ雪崩が起きています。 たびたび起こるスラッシュ雪崩や表層雪崩は、富士山お中道の植生に興味深い影響を及ぼしています。 その様子は

      • 【富士山の見える山】 早春の明神山

        富士山の雪融けも進み、山中湖周辺ではフジザクラが満開です。 明神山にも春が来ました。 前回の記事はこちら↓ ところが、明神山山頂ではススキが焦げて全面黒くなっています。 下から見上げても、ススキの原が黒焦げになっていて、淡いピンクのフジザクラと対照的です。 火入れ と 植生明神山に連なる稜線の西側(山梨県側)では、平野入会組合によって毎年、火入れ(山焼き、野焼きともいわれる)が行われています。 今年(2024年)の明神山では、4月17日に火入れが行われたようです。

        • 【富士山が見える山】 明神山:標高1290.8 m 編

          今年の冬は暖冬で、富士山麓も積雪はほとんどなく、2月上旬にようやく積もったものの中旬には融けてしまいましたが、数日前に降雪があったので、3月3日に山中湖畔の明神山(鉄砲木の頭)に行ってみました。 明神山の積雪は5~10㎝ほどで、暖かい日が続けば、すぐに融けてしまいそうです。この日は風もなく、暖かな日差しのもと、穏やかな明神山山頂でした。 今回は、この明神山をご紹介します。 明神山はどこにあるか?明神山(標高1290.8 m)は、神奈川県の西丹沢の畔が丸から続く稜線の南端

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        【富士山お中道を歩いて自然観察】 はじめに

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        • 富士山お中道を歩いて自然観察
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        • 富士山お中道の生物図鑑
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          【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 積雪期の御殿場口登山道

          御殿場口登山道とは? 富士山の静岡県側南東斜面には、1707年の宝永山の噴火の堆積物が広がり、300年以上たってもまだ遷移の初期の状態で植生の回復が遅れています。 他の斜面の森林限界は2200 m~2500 mにあるのに対し、御殿場口では1400 mと低く、ヤマハンノキ、ミズナラなどの落葉広葉樹林からなっています。 積雪期2022年2月末の御殿場口登山道の様子です。早春を感じる柔らかな青空でした。 御殿場口では森林限界が低く、山頂までの標高差2300 mもの広大な雪の斜

          【富士山お中道の植物観察日記・番外編】 積雪期の御殿場口登山道

          【富士山が見える山】 八ヶ岳、南・北アルプス編

          (富士山の植物についてはこちらをご覧ください↓) 今回は南アルプス、八ヶ岳、北アルプスの富士山が見える山をご紹介します。 このエリアでは標高2,500 m超えの山々が連なり、山々は高山帯を携えています。高山帯では氷河期に南下して来た植物が生き残っており、氷河期以降にできあがった富士山とは異なる動植物を見ることができます。 *山の所在県は、地理院地図の区分に則っています。 八ヶ岳八ヶ岳という名前の山頂自体はなく、いくつかの峰が連なるという意味で「八ヶ岳」と呼ぶそうです。

          【富士山が見える山】 八ヶ岳、南・北アルプス編

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年12月9日

          初冬今年の富士山は雪が少なく、冬富士らしい姿がなかなか見られませんでしたが、12月6日の朝に降雪があって、ようやく白い山体となりました。 12月6日は、スバルラインの道路の積雪のため、途中までしか開通しませんでしたが、12月7日には全線開通したので、12月9日に行ってきました。 ただ、お中道は冬季閉鎖となっていたので、残念ながらお中道の入り口付近と奥庭で観察をしてきました。 登山道にはほとんど積雪はありませんが、日陰では凍結していることもあるので、この時期は軽アイゼンを

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年12月9日

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年11月8日

          晩秋のお中道10月中旬に7合目以上は真っ白になった富士山ですが、11月になって暖かい日が続き、雨も降って、すっかり融けてしまいました。 落葉樹は葉を落とし、黄葉の季節は終わりました。これから冬を迎える植物の様子を見てきました。 ダケカンバ 先月10月はあんなに鮮やかに黄葉していたダケカンバも、すでに葉を落としていました。 ダケカンバが葉を落とすと果穂が目立ってみえます。 枝を揺すると種子がこぼれます。この種子は風で散布されます。 ミヤマハンノキ ミヤマハンノキ

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年11月8日

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年10月16・17日

          黄葉・紅葉の季節秋も深まり、カラマツの黄葉も見頃となりました。ただ、風当たり・日当たりの微妙な違いなのか、まだ緑の葉が多いカラマツもあります。 9月に黄葉が見られたダケカンバも、まだ見頃の場所があります。 今年は暑さが続いたためか、ダケカンバ、ナナカマドなども全体的に色づきが良くないようです。 黄葉!黄葉!黄葉! 御庭バス停から遊歩道を登った辺りでは、ちょうどカラマツが鮮やかな黄金色に輝いていました。 カラマツと同じく、ダケカンバも葉が黄色に変化します。 ダケカンバの

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年10月16・17日

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年9月27日

          夏から秋へ大勢の登山者でにぎわった登山シーズンも終わり、本格的な秋を迎えようとしているお中道を歩いてきました。 今年の記録的な暑さは、標高2200mを超えるお中道にも及んで、この日も半袖の山歩きでした。 高温と少雨でキノコも少なく、みつけたものも干からびていました。 カラマツやダケカンバの黄葉は? イタドリには変化が始まっていました。 いろいろな果実が見られる季節となりました。 スバルライン沿いのフジアザミはちょうど見頃でした。 夏の花はほぼ終わり、紅葉・黄

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年9月27日

          【富士山お中道の生物図鑑】 シラビソ

          見られる場所・・・亜高山帯下部で森林をつくる シラビソシラビソは、亜高山帯の極相林を形成する常緑針葉樹です。 樹高は20 m ほどになります。 4合目付近まで下ると直径30 cm以上の大木が大森林を作っていますが、お中道を歩くと途中若いシラビソ林を横切ることになります。 (なぜ横切ることになるかは、遷移過程にある富士山と地形に理由があります。詳しくはこちらをご覧ください↓) シラビソの稚樹は耐陰性が高く、暗い林床でギャップ更新の機会を待っています。 薄暗い環境で耐え

          【富士山お中道の生物図鑑】 シラビソ

          【富士山お中道の生物図鑑】 ミヤマオトコヨモギ

          見られる場所・・・火山荒原 お中道での花の時期・・・7月〜9月 ミヤマオトコヨモギミヤマオトコヨモギは、亜高山帯〜高山帯の砂礫地に生える多年草です。 5合目から富士登山を始めるとほぼずっとスコリアという火山荒原を登りますが、ミヤマオトコヨモギは林の中では見られず、火山荒原でしか見かけません。 小花が沢山集まって1つの球状の頭花(下を向く)をつくります。花は薄い黄色で、7〜9月に見られます。 花のついた茎は10〜35 cmほど伸び、茎は赤っぽい色をしています。 山頂を

          【富士山お中道の生物図鑑】 ミヤマオトコヨモギ

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年7月5日

          山開きを迎えた富士山富士山吉田口登山道は7月1日に山開きでしたが、まだ梅雨空が続いていて、夏空はもう少し先です。 新緑の季節から1か月が過ぎ、落葉樹の緑は濃く、花をつけていた木々では果実(堅果、球果など)が充実してきました。 ハクサンシャクナゲが咲き始めました お中道では、梅雨明けの頃から8月初めにかけてハクサンシャクナゲの花の見頃を迎えます。今年は当たり年のようで、花芽を多くつけていて、楽しめそうです。 落葉樹のようす 先月はまだ新芽が出たばかりで葉の色も薄い緑色だ

          【富士山お中道の植物観察日記】 2023年7月5日

          【富士山お中道の生物図鑑】 コケモモ

          見られる場所・・・カラマツ林やダケカンバ林などの落葉樹の林床 お中道での花の時期・・・7月〜9月 コケモモコケモモは、亜高山帯〜高山帯に生える常緑低木です。 足元に絨毯状に広がっているので、草?と勘違いしがちですが、れっきとした樹木です。 樹高は5〜10 cmほどで、とても背の低い木です。地上に出ている1本1本は地下茎で繋がっていて、地面いっぱいに群生します。 富士山では、カラマツ林やダケカンバ林などの落葉性樹木の明るい林床で多く見られます。 表層雪崩についてはこちら

          【富士山お中道の生物図鑑】 コケモモ

          【富士山お中道の生物図鑑】 シロバナノヘビイチゴ

          見られる場所・・・草地、林縁 お中道での花の時期・・・5月〜7月 シロバナノヘビイチゴシロバナノヘビイチゴは、低山帯〜高山帯の乾いた草地や林縁に生える多年草です。 富士山では、お中道遊歩道によって森が切り開かれた場所や、林の縁など、光の差し込む所で見かけます。 葉は3枚で一つの葉です(3小葉と言います)。白い花びらは5枚で、日本で自生するオランダイチゴ属のもう一種であるノウゴウイチゴと花びらの枚数で見分けがつきます(ノウゴウイチゴは白い花びらが7〜8枚です)。 シロバ

          【富士山お中道の生物図鑑】 シロバナノヘビイチゴ

          【富士山お中道の生物図鑑】 カラマツ

          見られる場所・・・亜高山帯上部で森林をつくる お中道での黄葉の時期・・・10月 カラマツカラマツは亜高山帯に生える針葉樹で、森林を形成します。 私たちが目にするカラマツ林の多くは植林で作られたものですが、お中道周辺には貴重な天然林が広がります(それも広大に)! カラマツは日本で自生する唯一の落葉性の針葉樹で、春には薄い緑の優しい色の若葉、秋には黄金色と言ってもいいくらい圧倒的な黄葉を楽しむことができます。 針葉が芽生え始めるのは例年5月下旬です。 夏(7月〜8月)は

          【富士山お中道の生物図鑑】 カラマツ