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【富士山お中道の植物観察日記】 2024年5月2日

春を待つ富士山

4月26日にスバルラインが、今季初めて全線開通しました。越冬した植物の様子を見るために、早速行ってきました。

スバルラインの途中から富士山を眺めると、まだ落葉樹の緑は見られません。一番早いカラマツの枝先は淡い緑色に見えます。

スバルラインの標高1500 m付近からの富士山

お中道の雪の状況

昨年の12月は記録的な暖かさで、標高2300mのお中道にも雪は見られませんでした。
その後も暖冬傾向が続き、すでに御庭にも全く雪は残っていませんでした(例年、この時期には林床や沢地形の場所ではまだ雪が残っているのですが、今年はどこにも雪が残っていません)。

2024年5月2日の御庭

それでも1月~3月までは、積雪に覆われていたと思われます。

下の写真は、御庭の冬の様子です(2013年1月撮影)。

2013年1月11日の御庭

この時期、辺り一面は雪で覆われています。
しかし石や背の低い樹木が露出しているところも多く、雪は浅く積もっているだけです。

太平洋側気候の富士山では雪は少なく、特に森林限界を超えた地帯では、積雪もわずかです。そのため、積雪の保温効果は見込めず、冬季は土壌凍結が続きます。

厳しい冬を乗り越えた植物たち

以前の記事で冬でも葉をつけたままの常緑樹がどのように冬を越すのかをご紹介しました。

春先の今の時期は、厳しい冬を乗り越えた植物の ”勇姿” を目の当たりにすることができます。

ハクサンシャクナゲ

今年(2024年)は早くに雪が融けて、土壌凍結は融けていて、早くも林床の葉は開いて水平に戻っていました。

林床のハクサンシャクナゲ(2024年5月2日)

《注》 例年のこの時期は、雪が残っていて土壌凍結も続いていて、葉を丸めて越冬するハクサンシャクナゲはまだ越冬時の形態をしています。

例年のハクサンシャクナゲ(2009年4月30日)
葉が丸まっている


一方、日向の葉は、まだ丸まっていて下を向いています。日向では、まだ冬季の乾燥から回復していないようです。

日向のハクサンシャクナゲ(2024年5月2日)

森林限界を越えた場所のハクサンシャクナゲでは、葉の中軸が褐変していたり、葉の全体が枯れてしまったものも見られました。

森林限界を越えた場所のハクサンシャクナゲ(2024年5月2日)

森林限界を越えると、雪が風に飛ばされてしまうので、植物を乾燥や低温(加えて強光)から保護できないのです。

このような繰り返しで、枝全体が枯れてしまうものもあります。

コケモモ

地表を這うコケモモは、積雪に守られて冬を越せるはずですが、雪がない期間が長いと枯れてしまいます。
無事越冬できたコケモモの葉は青々していますが、枯れたコケモモは葉が黒ずんでいました。

コケモモ(2024年5月2日)


カラマツとシラビソ

積雪の保護を期待できない高木はどうでしょうか?

落葉樹のカラマツは、常緑樹のシラビソよりストレスに強く、風上に生えています。

カラマツと、カラマツを風よけにするシラビソ
冬の季節風は写真左から右に吹く

カラマツに保護されていても、シラビソは、冬の間に風上側の葉が茶色く枯れてしまいます。
これが繰り返されて、シラビソの旗型樹形ができるのです。

上の写真のシラビソを拡大
風上側の枝の葉が茶色く枯れている。冬の季節風は写真左から右に吹く

(旗型樹形については、以前の記事をご参照ください↓)

さて、富士山のお中道の落葉樹で最も生育開始の早いカラマツは、葉が顔を出し、雌花・雄花も開く準備ができていました。

カラマツの雌花(2024年5月2日)
カラマツの雄花(2024年5月2日)


ヒメコマツ

富士山には、ゴヨウマツの仲間で常緑針葉樹のヒメコマツも分布し、カラマツ林やシラビソ林で時折みられます。

このヒメコマツはストレスに弱く、森林限界を越えて生育できません。
たまに森林限界で発芽して稚樹が生育できても、写真のように冬の間に枝先が枯れてしまうので、成長できないのです。

森林限界のヒメコマツ(2024年5月2日)
枝の先端の葉が茶色く枯れている


ダケカンバ

落葉樹のダケカンバの開葉はカラマツと比べて遅く、冬芽が少し動き始めたかな、という程度でした。

ダケカンバ(2024年5月2日)
ダケカンバの冬芽(2024年5月2日)


お中道に本格的な春がきて、木々の新緑が見られるのは、まだ先のようです。


昨年の冬の始まり(12月)のようすはこちら↓



富士山お中道を歩いて自然観察」の連載はこちら↓

「富士山お中道の生物図鑑」の連載はこちら↓
今回の登場人物たちの紹介もあります。


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