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#41 愛宕地蔵

 愛宕のほうへ赴き、道中で小さなお堂に賽銭を投げた。小銭は銀行に預けるのに小銭がかかるので、すべてお堂に投げることにしている。気晴らしにちょうどいい。

 ところでこの小さなお堂は愛宕地蔵を飾っており、苔むした参道を愛宕橋の手前に投げている。愛宕橋を通りすがった者なら必ず目にするであろう参道だが、
私の友人は誰一人として知らないというのである。あまりに忘れ難い参道だとばかり思っていたのは私だけらしい。

 参道の入り口には格言が毛筆で書かれている。几帳面なことに月替りである。
仏の道を極めた人間の言葉が、雨風に晒されている。自分を生かす力に向かって
歩んでいくことが仏の道だという。

 朝市で鰹を一尾買った。しみったれた鰹だった。八百屋で生姜とねぎを揃え、また長町へ引き返そうとしたところ、私は横丁に小さな映画館を見つけて立ち止まった。昭和の映画のポスターが壁一面に貼ってあるその建物は随分と長いこと人の出入りがないのだと見当がついた。煤けた建物だった。

 私は帰りがけにもう一度愛宕地蔵を探したのであるが、今度は見つからなかった。不思議に思って引き返してみると、お堂はあった。どうやらこのお堂は長町から仙台に向かう時にしか目に入らないらしい。私は朝市でもらった釣り銭を賽銭箱に放り投げた。私は大きく二度拍手したが、それは神社のしきたりであったと思い出し、照れ隠しに敷石をじゃらじゃらを鳴らしてから長町へ帰った。

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