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「箱庭弁当ーさ迷える愛・破」劇団態変:人間の身体と動きを発見し直す

YPAM2021招聘公演「さ迷える愛・序破急」三部作の一作、「箱庭弁当」(上演時間70分)を鑑賞した。この三部作は、2016年に相模原の障害者施設で起こった事件からつくられている。

劇団態変は、主宰の金滿里さんが1983年に大阪を拠点に創設した、フィジカルシアターのパフォーマンスグループ。金さんはポリオの身体障害者であり、劇団態変のパフォーマーは全員、脳性まひや腕の一部や脚がないなどの身体障害者だ。レオタードを着て、その体だからこその表現を追求している。

関東での公演もたびたび行われているが、今回やっと初めて見る機会を得た。

KAAT神奈川芸術劇場で上演され、インターネットで同時配信もされた。生の舞台もライブ配信もチケット料金は同一。劇場に行くと時間も交通費もかかるが、生で見たかったので劇場で鑑賞した。

金・土・日で一夜ずつ、三部作が上演され、私が見た「箱庭弁当」は第二作だ。生演奏も行われ、演奏者は下手側の舞台下にいた。

冒頭、不鮮明な公園の映像が舞台上のスクリーンに映し出され、ごみ箱がクローズアップされる。そこに男性がやって来て、コンビニ弁当のような弁当を捨てる。

その後、パフォーマーたちがレオタード姿で登場し、舞台上を動く。

さらにその後のシーンでは、舞台後方も使い、広い空間が現れる。赤いレオタードの女性パフォーマーがかばんを下げて、旅に出たようだ。小型の路面電車(?)が舞台を横切り、さまざまな人物たちと出会う。

最後は大きなシートを舞台中央に広げ、みんなでピクニック。お弁当を配って、それをほおばる。

はって動くパフォーマーもいれば、立って動くパフォーマーもいるし、四肢のないパフォーマーもいる。動き方はそれぞれ違い、見る方も「動く」という行為に集中し、「動くとはどういうことか」を考えることになる。

同じ動きをするパフォーマーはいない。同じ距離を移動するのに費やすエネルギーもすべて異なる。四肢が自由に動く場合も、同じような動きと認識しているだけで、実は一人一人違う動きをしているはずだ。

同じ身体のパフォーマーもいない。しかしこれも、障害の有無にかかわらず、同じ身体など一つもないはずなのだ。そんな当たり前のことに改めて気付く。

どの身体が「正常」で、どの身体が「障害のある」とされるのかも、実は絶対的なものではないのではないか。現代日本では、四肢がそろっていて、まひがない人が「多数派」で、社会の仕組みも道具もそれを「標準」としてつくられている。多数派にとって都合がよい社会になっているから、「障害者」は「障害者にされてしまっている」ともいえる。

劇団態変のパフォーマンスを見ていると、よくいわれるこうしたことが、頭での理解ではなく、身体的な実感として迫ってくる。

予測できない動きを注視することになる緊張感のあるシーンと、音楽に乗って楽しそうに踊るシーンの両方があった。本当に楽しそうに動くので、見ている方としても楽しくなってくる。

お弁当を食べるラストシーンで覚えた高揚感はなんだろう。

作品によって作風も変わってくるのか、ほかの作品も見てみたい。

作品情報

YPAM2021招聘公演「さ迷える愛・序破急」三部作

日時:2021年12月17日(金)19:00「翠晶の城 ーさ迷える愛・序」
       12月18日(土)19:00「箱庭弁当 ーさ迷える愛・破」
       12月19日(日)18:00「心と地 ーさ迷える愛・急」

会場:KAAT神奈川芸術劇場

チケット:来場・配信ともに3500円

作・演出・芸術監督:金滿里

出演:金滿里、熱田弘幸、池田勇人、井尻和美、小泉ゆうすけ、下村雅哉、田岡香織、向井望、山崎ゆき、渡辺あやの、一般公募エキストラ

演奏:12/17、19 中島直樹(CB)
12/18 ゆりかごから墓場までトリオ(瀬戸信行Cl、熊坂路得子Acc、宮坂洋生CB)

音:かつふじたまこ


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