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平山素子×笠井 叡『「フーガの技法」を踊る』バッハのピアノ生演奏でダンス

バッハの「フーガ」14曲をピアノ生演奏で2人のダンサーが1時間強踊る公演。

もともとはより少ない楽曲数で公演時間も短い、舞踏・オイリュトミーの笠井叡さんが平山素子さんに振り付けた作品だったという。当初は曲は録音音源を使用していた。その作品を発展させ、笠井さんも踊りに加わって生演奏としたのが本作。笠井さんの本拠地「天使館」や愛知でも上演されている(横浜公演のピアニストは佐藤浩一さん、愛知公演のピアニストは片山柊さん)。

舞台中央奥にグランドピアノが横向きに設置され、ダンサーたちはその周りで踊る。ソロで踊るときにはもう一人は舞台上の椅子に座ったりしている。予想していたよりも2人の絡みは少なかったが、2人が直接関わる動きもあった。シンプルな衣装は照明によって色を変える。照明は結構どぎつい原色のようなものもあり、個人的には違和感を覚えた。

フーガはその名が表すとおり旋律が変化しながら繰り返し登場し、追いかけ追い詰められる(?)感じ。またこの旋律きたー!という感じでループにはまり、抜け出せない(笑)。最後はちゃんと、ピアノの佐藤さんがペダルを踏んで、2人のダンサーの「締め」のタイミングを確認しながら、音を止め、終演するのだが。

平山さんは50代以上とのことだが、はつらつとした身体と踊り。今年80歳という笠井さんは小柄で細身、枯れ木のような味わいを醸し出していたとも言えるかもしれないが、ふっとためてパッと動くみたいな踊りがユーモラス。2人のかみ合っていないようでミスマッチなようで1つのダンスとして成り立つバランスが面白い。

ポストトークには、出演の3人に愛知公演で演奏を務めた片山さんが加わり、会場の赤レンガ倉庫の担当者と、平山さんが喉を傷めて声が出ないので代弁者も参加し、6人が登壇した。(トークにサングラスをかけて登場した笠井さんが話す様子は、貫禄がありしゃきっとしていて50代の人のよう。80歳に弱々しいしいイメージを持つのは偏見だな・・・)

佐藤さんは、四声が歌っているような曲なのでどこで息継ぎをしたらいいのかわからず呼吸困難になりそうだったと語る。片山さんはそれに対して、弦楽四重奏を想定したような曲ですからと言っていた。片山さんは、バッハの時代は今のモダンピアノがなくチェンバロだったので今の楽器で弾くこと、ペダルなどモダンピアノの機能を使って弾くことには議論もあるという話もしていた。片山さんは、佐藤さんの演奏について、13曲目でペダルを開放していて教会内で弾いているように音が反響していたのが印象的だったと述べた。

笠井さんの話:片山さんの演奏は垂直に音が下りてくる感じ。佐藤さんの演奏は水を張ったプールの中で泳ぐように踊らせてくれる感じ。

平山さんの話:佐藤さんの演奏は人間が感じているものを表現しているようで、踊る2人はそれぞれ異なる役割を持っている感じになった。片山さんの演奏は人間が目指すものを表現しているようで、踊り手は2人で何かを目指して踊っているみたいになった。

最後に数人の観客からの質問にも答えた。上演中に笠井さんが発していた言葉は、聖書外典「ヨハネ行伝(ぎょうでん)」からの一節だったという。イエス・キリストがダンサーだったと解釈したそうで、「わが踊りに加わり、汝自身を見出すべし。踊る汝、わが事悟らん、げに汝のものなればなり、われこうむらんとする人の子の苦しみは。」と言っていたのかな。(検索したら、笠井さんが別の自身の公演について書いた文章にこの言葉があった)

冒頭で、ニジンスキーの『牧神の午後』を思わせる、山羊が直立して体の側面を舞台に向けたみたいな動きをしていたのが気になった(何か意味がありそうで)。全体的に、もっと演奏と2人の踊りがどこかへ向かって盛り上がっていってもいいようにも感じたが、あまり収束し過ぎない方がよいのかもしれない。各自、自由な領域を保ち、まとまり過ぎない方がよいのかも。

公演情報

2023年9月2日(土)17:00 /3日(日)14:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール

演出・振付・ダンス:笠井叡
ダンス:平山素子
ピアノ:佐藤浩一
音楽:J.S. バッハ「フーガの技法」

企画制作:NPO alfalfa
主催:主催|横浜赤レンガ倉庫1号館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、NPO alfalfa、一般社団法人 天使館


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