見出し画像

ツァイ・ミンリャン『蘭若寺の住人』シアターコモンズ'21:台湾の巨匠監督による初のVR映画

マレーシア出身で台湾で活躍する映画監督、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)による初のVR映画『蘭若寺(らんにゃじ)の住人』。同監督の映画に欠かせない俳優リー・カンションが主演だ。

会場でヘッドセットを装着し、椅子に座って鑑賞する。360度どこを向いても映像に囲まれている。

森の中の廃墟で暮らしているリー・カンションは療養中らしい。たばこを吸い、食事をし、草を刈り、風呂に入り、横たわる。炊事をしてくれるやや高齢の女性や、じっと様子をうかがう若い女性がいる。後者は幽霊のようだ。

鑑賞者はリー・カンションと一緒に料理が出来るのを待ち、風呂に浸かり、風呂の中を泳ぐ魚を眺める。幽霊の女性と一緒に何かを待つ。

最初の方で、世話をしてくれているらしい女性が道を歩いていく場面がある。後ろを向いてみると、若い女性が上から眺めている姿が目に入った。後から思えば、あれは幽霊の女性だったのか。鑑賞者が後ろを見渡さなければ気付かない姿である。

下を見ると、自分が座っている場所よりも下に地面があるように見えて怖かったり、自分のサイズより映像の中の人物や物が巨大に見えたりと、違和感や怖さもあった。

蘭若寺の住人2

映画の世界観は、これまでに見たことのあるツァイ・ミンリャン作品とほぼ同じだった。せりふはないけれど、これまでの映画でも極端にせりふの少ないものがある。

部屋に吹き込む激しい雨音は、通常の映画よりもこのVR映画の方が生々しく感じられた。

ヘッドセットは締め付けを緩めにするとずり落ちてきて邪魔で気が散るし、締め付けると頭が痛い。仕方ないので、やや緩めにし、鑑賞中に何度もヘッドセットの眼鏡の部分を手で下から支えることになった。結構わずらわしい。

約50分の作品だが、このヘッドセットで2時間とか見続けるのは苦行になりそうだ。酔いもするだろうし。そのあたりは技術の進歩を望む。

最後に歌が流れていたと思うが、そういう全体のテイストはやはり好きな監督だ。

あの閉じ込められている感覚は、よくよく考えると怖い。技術が「リアル」になり過ぎて、本当にバーチャルの世界へ入り込めるようになったら、どうなってしまうのだろう、と恐怖も感じる。

作品クレジット

出演|リー・カンション、チェン・シァンチー、イン・シン、ルー・イーチン

監督|ツァイ・ミンリャン
脚本|ツァイ・ミンリャン、クロード・ワン
エグゼクティブ・プロデューサー|シェール・ワン、リウ・スーミン
プロデューサー|クロード・ワン
共同プロデューサー|クリスティン・チャン

撮影監督|ソン・ウェンチョン
技術統括|ジャック・ホアン
照明|イアン・クー
美術|カオ・ジュンホン、リー・ティエンチュエ、ツァイ・ミンリャン
衣装|ワン・チアフイ
音響|デニス・ツァオ
録音|リー・ユーチー、リー・ポーヤオ
プロダクションマネージャー|ヤヤ・イエ
ポストプロダクションコーディネーター|トミー・チャン
編集|ジャック・ホアン
国際マーケティング|リン・ファンシュー、シャオ・ペイウェン、マオ・リーツー

提供|HTC VIVE

協力|JAUNT CHINA STUDIO
製作総指揮|リウ・スーミン、ジェイムス・フォン
製作|HOMEGREEN FILMS
共同製作|HTC VIVE ORIGINALS, JAUNT CHINA STUDIO , G.C. ENTERTAINMENT
助成|BUREAU OF AUDIOVISUAL AND MUSIC INDUSTRY DEVELOPMENT, MOC
海外販売|HTC VIVE ORIGINALS

東京上映
翻訳協力|樋口裕子
会場協力|ANB Tokyo(一般財団法人東京アートアクセラレーション)
特別協力|HTC NIPPON株式会社


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?