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アートを通して考える3 ろう者と聴者のためのトークセッション第1回「知覚の境界を超える表現の可能性」

アートを通してろう者や聴者の世界の捉え方などを探るトークセッションを聞いたメモ。(特に気になった点のみ書いている)

イベント情報

アートを通して考える3
ろう者と聴者のためのトークセッション(全2回)

モデレーター :田中みゆき
企画・進行:管野奈津美(美術教諭)、牧原依里(映画作家)

第1回「知覚の境界を超える表現の可能性」
日時:2022年1月15日(土)13:00~15:00
講師:Yoshi(アーティスト)、齋藤典彦(東京芸術大学教授、日本画家)
会場:オンライン(Zoom)
参加費:無料

アーティストのYoshiさんによるお話

※Yoshiさんが録画動画で話した後、田中さん、齋藤さん、牧原さんが加わってのトーク。

アメリカでアートをするために、英語を上達させる必要があったという理由もあり、人工内耳の手術をした。
英語音声は聞き取りづらいので、スマートフォンの音声認識機能を使っている。
日本語音声は7、8割が聞き取れれば、内容をだいたい推測できる。

人工内耳の手術を受けるに当たって、「音を聞く」ことにはそんなに興味がなくて、「対話」がしたかった。
東京藝術大学でも、筆談をするのが面倒だからとしてくれなかったり、ある状況では「聞かなくてよい、見ていればよい」と言われたりすることもあった。相手次第になってしまう。聞こえれば、そういう問題が少しなんとかなると思った。

人工内耳の装着により、空間の感覚が広がった。
聞こえないときは目で見る範囲だけを空間として把握していた。耳が聞こえると、後ろから聞こえる音に気付いて後ろを振り返ってあちこち見て、ということが起こり、把握する空間が変わった。
医師は、空間が360度での把握になると言っていた。

人工内耳で聞こえるようになり、聞こえないときは、身長の高い人は低い声、低い人は高い声、と思っていたが、実際はそうでないことを知ったりした。
(赤ん坊の声も、初めて聞くと何なのかわからなかった)

聞こえるようになり空間認識が変わったことが、作品制作で平面の日本画から彫刻やインスタレーションなど立体的なものへ移行していったことに影響している。

※牧原さんによる補足
成長過程で手話を習得したろう者は世界を3Dで認識し、口話を習得したろう者は口の部分を拡大したように認識する傾向がある。
人工内耳を装着して、必ずしも誰もが「世界が広がる」わけではない。

人工内耳の手術の前に、「補聴器を外せばすぐに無音の世界に戻れる」と聞いて、安心したこともあり、手術を受けた。
実際に手術した後は、たとえ無音の状態にしても、もう音を想像できるようになってしまった(エレベーターや駅の改札機を通過するときの音とか)。また、人工内耳を装着していても聴者と同じように聞こえるわけではない。聴者とろう者の世界を行き来するというよりも、中間にいる感覚。

アメリカで自分をユダヤ人とかディスレクシアとか言う人に多く出会って、アートは自分を表現するというよりも、多様性や統一性のバランスを取るものと思った。
人は本当にはわかり合えないが、アートによって歩み寄る努力をすることはできる。
自分のアイデンティティーを出すのではなく、関係性などを提示する作品を制作するようになった。

Q&A

【Q】Yoshiさんが、自身のアイデンティティーを難聴者ではなくろう者としていることには何か理由があるのか?
【A】強いて説明することもできるが、難聴者とろう者の違いも曖昧な部分もある。
アメリカで、自分のことをhard hearingよりもDeafと説明していて、それならろう者なのかなと思った部分もある。

【Q】聴者にもろう者にもなれないつらさをどうしているか?
【A】つらさもあるが、聴者もどんな人もそれぞれ苦しみがあるから、自分のことだけでなく相手のことも考えようと努めている。

【Q】「アートは、多様性と統一性のバランスを取るもの」とのことだが、詳しく説明すると?
【A】今はアートをそう捉えている。(詳しく説明すると長くなるので)

【Q】<齋藤さんへ>「歩み寄り」とおっしゃっていたことについて。
【A】学生としてYoshiさんと身近に接して、いろいろな世界の捉え方をしている方に興味を持った。知る、接する機会を多くすることが大切だと思う。

【Q】これから絵を描こうとしている難聴者へのアドバイス。
【A】自分の主張をするだけでなく、人の話を聞くことが大切。時には自分の思うことを抑えて、ほかの人の言うことを受け入れる。聴者の話は聞かない、というのでは、世界が広がらない。

モデレーターの田中みゆきさんによる総括

Yoshiさんは差異をつなぐ表現を模索して作品制作をしている。
また、ほかの人との関係性の中での生き方をしている。
ただ、今回の話はあくまでもYoshiさんの見方。
アート界にいる側も、多様な背景を持つアーティストにもっと目を向けていきたい。


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