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「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」森美術館開館20周年記念展

森美術館のコレクションを多数含む企画展。キャッチコピー?副題?は「みんなで学ぼう、アートと世界」。

企画展の入り口に、本展を鑑賞した子どもや学生の感想の言葉と話す映像、これまで同美術館で展示した作品のアーティストの国・地域を示した地図を掲げている。これらは、展覧会のタイトルの「ワールド」(世界中のアート作品を扱う)と「クラスルーム」(一般の人々にアートを広める)のコンセプトを示したものなのだろう。

「科目」ごとにセクションを区切って作品を展示している。タイトルにはないが、「哲学」「音楽」「体育」「総合」もある。

以前の森美術館の企画展で見たが時間がなくすべて見られなかった映像作品があり、今回はすべて見ることができた。次の2作品。

ミヤギフトシ │ Miyagi Futoshi
オーシャン・ビュー・リゾート
2013年
ビデオ、サウンド
19分25秒
所蔵:森美術館(東京)
The Ocean View Resort
2013
Video, sound
19 min. 25 sec.
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

《オーシャン・ビュー・リゾート》は、沖縄出身の男性が久しぶりに故郷に帰って、かつての友人の男性と再会した様子を語るというもの。英語で語り、日本語の字幕を表示(男性はアメリカに何年間か住んでいたことが語られる)。男性の祖父が戦時中にアメリカ軍の捕虜になり、兵士の一人と仲良くなった話も出てくる。映像は沖縄の海を映し、ベートーヴェンの曲が流れる。

藤井 光 │Fujii Hikaru
帝国の教育制度
2016年
ビデオ、サウンド
21分
所蔵:森美術館(東京)
The Educational System of an Empire
2016
Video, sound
21 min.
Collection: Mori Art Museum, Tokyo
森美術館での出展歴:「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」2016年
Past Exhibition at the Mori Art
Museum: Roppongi Crossing 2016 :
My Body, Your Voice, 2016

《帝国の教育制度》は、太平洋戦争時にアメリカ軍が敵国を知るために制作した日本の教育制度について説明した映像と、作家が韓国で若者たちにワークショップを行ったときの映像とを組み合わせた作品。前者の映像では、日本の学校教育が国のために尽くして戦う国民を養成する目的で行われていることが語られる。後者の映像では、若者たちは戦時の残虐な映像を見てそれについて説明し、最後は韓国が日本の植民地支配から解放されたときに韓国の人が喜びの行進をするところを再現する。

森美術館の近くのマクドナルド六本木ヒルズ店で高山明 / Port B「マクドナルドラジオ大学」が開催されているという案内が展示の最後にあったが、行きたかったものの疲れていて行けなかったのが残念だった。

スーザン・ヒラー │ Susan Hiller
ロスト・アンド・ファウンド
2016年
ビデオ、サウンド
30分
Lost and Found
2016
Video, sound
30 min.
Courtesy: Lisson Gallery

《ロスト・アンド・ファウンド》は、世界の消滅危機にある言語を収録した作品。英語字幕版と日本語字幕版を交互に上映している。

米田知子 │ Yoneda Tomoko
フロイトの眼鏡―ユングのテキストを見るⅡ
(「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズより)
1998年
ゼラチン・シルバー・プリント
120×120 cm
所蔵:森美術館(東京)
Freud’s Glasses - Viewing a text by
Jung II (from the series “Between
Visible and Invisible”)
1998
Gelatin silver print
120 x 120 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

ジョイスの眼鏡─シルヴィア・ビーチへの手紙を見る
(「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズより
1998年
ゼラチン・シルバー・プリント
120×120 cm
所蔵:森美術館(東京)
Joyce’s Glasses - Viewing a letter to
his first publisher and patron, Sylvia
Beach (from the series “Between
Visible and Invisible”)
1998
Gelatin silver print
120 x 120 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

マーラーの眼鏡─交響曲(未完成)第10番の楽譜を見る
(「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズより)
1999年
ゼラチン・シルバー・プリント
120×120 cm
所蔵:森美術館(東京)
Mahler ’s Glasses - Viewing his last
Symphony No. 10 (from the series
“Between Visible and Invisible”)
1999
Gelatin silver print
120 x 120 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

谷崎潤一郎の眼鏡─松子夫人への手紙を見る
(「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズより)
1999年
ゼラチン・シルバー・プリント
120×120 cm
所蔵:森美術館(東京)
Tanizaki’s Glasses - Viewing a letter
to Matsuko (from the series “Between
Visible and Invisible”)
1999
Gelatin silver print
120 x 120 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

ル・コルビュジエの眼鏡─「近代住居」の講演原稿を見る
(「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズより)
2003年
ゼラチン・シルバー・プリント
120×120 cm
所蔵:森美術館(東京)
Le Corbusier ’s Glasses - Viewing
his Paris Lecture notes, L’Habitation
Moderne (from the series “Between
Visible and Invisible”)
2003
Gelatin silver print
120 x 120 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo
森美術館での出展歴:「MAMコレクション004:未知の物語を想像する」2017年
Past Exhibition at the Mori Art
Museum: MAM Collection 004 :
Imagining the Unknown Stories, 2017

米田知子の写真作品は、著名な芸術家などの眼鏡を通して、その芸術家に関連するテクスト(文章、文字)を写したもの。そのコンセプトを知らなくても目を引かれる写真である。

ディン・Q・レ │Dinh Q. Lê
光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ
2012年
ドローイング100点(鉛筆、水彩、インク、油彩、紙)、ビデオ、サウンド
サイズ可変、ビデオ:35分
所蔵:森美術館(東京)
Light and Belief: Sketches of Life from
the Vietnam War
2012
100 set of drawings (pencil, water
color, ink, oil on paper), video, sound
Dimensions variable, video: 35 min.
Collection: Mori Art Museum, Tokyo
森美術館での出展歴:「ディン・Q・レ展:明日への記憶」2015年
Past Exhibition at the Mori Art
Museum: Dinh Q. Lê: Memory for
Tomorrow, 2015

《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》は、ベトナム戦争に従軍した画家たちが描いたスケッチと、それについて語った映像から成る作品。

シルパ・グプタ │ Shilpa Gupta
運命と密会の約束―1947年8月14日、ジャワハルラール・ネルー(1889–1964年)による憲法議会演説
2007-2008年
マイク、マイクスタンド、内蔵スピーカー、アンプ
音声:9分、マイク:145×30×30 cm
所蔵:森美術館(東京)
Tryst with Destiny - Speech on the
granting of Indian independence,
August 14 th, 1947 , Jawaharlal Nehru
(1889–1964)
2007–2008
Microphone, microphone stand with
built-in speaker, and amplifier
Audio: 9 min., microphone: 145 x 30 x
30 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo
森美術館での出展歴:「チャロー!インディア:インド美術の新時代」
2008–2009年、「MAMコレクション004:未知の物語を想像する」2017年
Past Exhibitions at the Mori Art
Museum: Chalo! India: A New Era
of Indian Art, 2008 – 2009 ; MAM
Collection 004 : Imagining the
Unknown Stories, 2017

《運命と密会の約束―1947年8月14日、ジャワハルラール・ネルー(1889–1964年)による憲法議会演説》は、インド独立の際にネルー首相が行ったスピーチを作家が吹き込んだ音声をマイクから流す作品。

菊地智子 │ Kikuchi Tomoko
「I and I」シリーズ
所蔵:森美術館(東京)
The series “I and I”
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

「I and I」シリーズの写真作品も以前見たことがある。中国のドラァグクイーンの人々などを撮影したもの。見る人を引き込む力がある。10年以上前の写真だが、被写体となった人々は今どうしているのだろう。

ク・ミンジャ │ Gu Minja
怪物のおなかの中
2015–2023年
ビデオ
38分
作家蔵
Inside the Belly of Monstro
2015–2023
Video
38 min.
Collection of the artist

《怪物のおなかの中》は、作家が食べたものを順番にたくさん映す映像。

アラヤー・ラートチャムルンスック │ Araya Rasdjarmrearnsook
授業
2005年
ビデオ、サウンド
16分25秒
所蔵:森美術館(東京)
The Class
2005
Video, sound
16 min. 25 sec.
Collection: Mori Art Museum, Tokyo
森美術館での出展歴:「IN-BET WEEN: アジア・ビデオアート・ウィークエンド」
2008年
Past Exhibition at the Mori Art
Museum: In-Between: Asian Video
Art Weekend, 2008

《授業》は、遺体安置所(?)で引き取り手のない遺体たちを床に横たえた前で黒板を背に「死」について作家自身が講義をするという映像作品。時に遺体たちに問いかけながら、文学などの話題を出して死を考える。最後に遺体からの質問という体で作家が答えた「どんな死に方をしたいか」の回答は、『星の王子さま』を書いたサン=テグジュペリの最期を指すのだろうか。作家でパイロットで、誰にも発見されずに消えてしまったと言っていたから。

ヤン・ヘギュ │ Yang Haegue
ソニック・ハイブリッド──デュアル・エナジー
2023年
ソニック・ハイブリッド──移り住む、オオタケにならって
粉体塗装したステンレス鋼製フレーム、メッシュとハンドル、ボールベアリング、キャスター、粉体塗装したステンレス鋼製鈴、スプリットリング、ステンレス鋼製風車、人工植物
251×162×161 cm
ソニック・ハイブリッド──冷却反転
粉体塗装したステンレス鋼製フレームとメッシュ、PVDコーティングしたハ
ンドル、キャスター、粉体塗装したステンレス鋼とPVDコーティングしたステンレス鋼製鈴、ステンレス鋼製鈴、スプリットリング、冷却ファン、ソーラーLEDフラッドライト、オーシャンドラム、携帯用ソーラー充電器
228×161×143 cm
所蔵:森美術館(東京)
The Sonic Hybrids – Dual Energy
2023
The Sonic Hybrid – Migrating after Ohtake
Powder-coated stainless steel frame, mesh and handle, ball
bearing, caster, powder-coated stainless steel bell, split ring,
stainless steel pinwheel, and artificial plant
251 x 162 x 161 cm
The Sonic Hybrid – Cooling
Overturning
Powder-coated stainless steel frame and mesh, PVD-coated
handle, caster, powder-coated stainless steel and PVD-coated
stainless steel bell, stainless steel bell, split ring, cooling fan, solar LED floodlight, ocean drum, and portable solar charger
228 x 161 x 143 cm
Collection: Mori Art Museum, Tokyo

《ソニック・ハイブリッド》は、広い空間いっぱいの作品。壁にペインティング、床にはギラギラした立体物。立体物を動かすパフォーマンスのようなことが行われた様子を見られる映像のQRコードがあった。

学校の授業に見立てて作品を展示したこの企画展、どうなのか。学校教育に嫌悪感を覚える身としては複雑な心境になる。作品のセレクションはよいのかもしれないが、説明書きには「わからせよう」という意図を感じる。まさに学校のテストのように、作品の解釈に正解があると言わんばかりだ。


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