#14 マネをされないためには?
独自性を出した(差別化をした)商品を発売したのに、その後に競合に真似をされたという事はよくあります。
これは見方を変えると、その独自性は、競合に真似されるくらい価値があったという事です。
しかし、模倣困難な独自性を出せれば、それに越したことはありません。
そのやり方は、以下のような方法があります。
①戦略軸の事業に大きく投資する
#13で書いたソニーの例もそうですが、日立も事業ポートフォリオを大きく組み替えて、「エネルギー・交通システム」「金融・社会クラウドサービス」「産業・都市・ヘルスケア」分野の事業に戦略軸を置いています。
スイス重電大手のABBから世界一の規模の送配電事業やグローバルロジックの買収では、いずれも1兆円を超える買収金額ですが、戦略軸の事業にフィットした経営資源を手に入れて、事業を成長軌道に乗せています。
アマゾンは、1995年の創立当初から6年間は赤字続きでしたが、それでも巨大物流センターと情報システムに大きな投資を続けて、安く供給できる仕組みを作り上げました。当時はまだECビジネスは黎明期にあり、その成長に懐疑的だった人も多かった時代で、赤字続きのアマゾンはステークホルダーたちに散々叩かれました。
その当時の多くの競合も投資に耐えられずに撤退しましたが、アマゾンは我慢強く、果敢に投資を続けて、今日の繁栄の基礎を作り上げたわけです。
それにしても、自身のビジョンと戦略を信じて、投資を続けたジェフ・ベゾスの高い熱量にはリスペクトです。
このように、金に物を言わせて、他社が真似できないようにする(大きな投資を躊躇させる)方法です。
もちろん、M&Aの投資をしたら、自社の事業とシナジーを出す「かけ算」効果は狙うべきです。
②特許取得で他社にマネさせない
特許を取得して、模倣困難な独自性を出す方法があります。
プリズムバイオラボ社は、病気の原因にピンポイントで働きかけ、正常な細胞に影響を与えにくい薬の中核部分を特許で押さえたそうです。その結果、エーザイを始め、ロシュやイーライ・リリーという世界有数の製薬会社とライセンス契約を結んだそうです。
僕も知らなかったのですが、カミソリって特許のかたまりで、世界でもカミソリを作れる会社は、貝印を始め数社しかないそうです。
③他社がマネできない品質の高さ
自社で積み上げた技術やノウハウで作り上げた「品質の良さ」で、模倣困難な独自性を出している企業は多いです。
耐食性が高く高品質な日本製の油井管は、石油業界からの指名買いも多く、代替品もないそうです。そうなると、競合との価格競争にも巻き込まれずに、自社に有利なビジネス展開が可能ですね。
日立の鉄道が、鉄道発祥の地である英国で採用されたのは、大雪でも運休せずに走行できるなどの「日本品質」への信頼が大きかったからだそうです。
花王の乳幼児用紙おむつ「メリーズ」は、高い日本品質を売りに、かつて中国で大人気の転売業者が「爆買い」する定番商品で、売上高が1000億円を超えるブランドに成長したそうです。
④独自の取り組みや企業文化の醸成
企業内で積み上げた技術やノウハウから成る様々な取り組みや仕組み作りは、その企業の「強み」となります。
これは、時間をかけて形成されるものなので、競合がその要素を特定して模倣するのは難しくなります。
トヨタの生産性向上の取り組みであるカイゼンは有名ですね。
品質向上やコスト削減に大きく貢献しています。
EVやハイブリッド車のキーパーツである電池も、単に他社から調達するのではなく、自在にカイゼンを浸透させられる自前の工場で競合に勝つという経営判断をしたそうです。
また、カイゼンの取り組みとしては、自社だけでなく取引先にもトヨタの担当者が入り込んで指導して、「コスト構造を変える一種の産業革命」とまで言わしめたそうです。
ちなみに僕はトヨタ車を3台を乗り継いできて、何十万キロと走りましたが、一度も故障した事がありませんでした。トヨタ車の品質の良さは、さすがですね。
(ちなみに、他社製の車では、何度か故障を経験しました(^_^;))
この1銭単位のカイゼンの記事は11年前の2013年のものですが、特に今の時代は、不当な減額取引はご法度です。
もちろん、仕入れ先会社とコストダウンのための知恵を出し合い、協力し合ってコスト低減活動をして、その成果を山分けしましょうというのは理解できますが、そうでない一方的な減額要請は問題ですね。
二次下請け、三次下請けになるほど、原価アップによる納入価格への転嫁をしづらいという構造的な問題もあるようです。
しかし、「売り手と買い手の満足は当然のことで、さらに社会に貢献できてこそよい商売といえる」という近江商人の「三方よし」の考え方は、忘れないようにしたいものです。
⑤ブランド価値を上げる
ブランド価値で独自性を出している企業は多いです。
そもそも、ブランド価値とは何か?というと、
多くの人が、そのブランドの製品やサービスについて
・よく知っている(ブランド認知)
・あるイメージを持っている(ブランド連想)
・機能、性能、品質やデザインなどの価値を知っている、信用している(知覚品質)
・愛着を持っている、ファンである(ブランド・ロイヤルティ)
という事になります。
他には、特許や商標、取引先との強固な関係性などもブランド価値となっています。
なぜ、多くの企業は、ブランドを構築しようとするのでしょうか?
それは、
・多くの顧客がそのブランドをよく知っていて、信用しているから、価格に見合う価値があると思う
・ブランドの存在が、顧客の自己表現の役割をする
(承認欲求が満たされる)
などの理由により、顧客が買おうとする気持ちの背中を押してくれるからです。
そして、「(4)自社独自の仕組み作りや独自の企業文化の醸成」同様に、時間をかけて形成されるものなので、競合が模倣するのは難しいからです。
2023年の企業ブランド価値の調査結果では、アップルが11年連続トップだそうです。
テレビCMに使われた「Think different(世の中で支配的となっている物の見方や考え方を変えてみないか)」や、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式でスピーチした時の「Stay Hungry, Stay Foolish」は、多くの人が知っているメッセージでしょう。
今、聞いても、新たな気づきを与えてくれる素晴らしいメッセージだと思います。
アップルは、世界中の人々が知っている(ブランド認知)、デザインがいい・誰でも簡単に使える(知覚品質)、すべてがシンプルでカッコイイ(ブランド連想)、ファンが多い(ブランド・ロイヤルティ)を満たしている誰もが認めるナンバー1のブランドでしょう。
僕はアップルのプロダクト・デザインはどれも好きですが、最も衝撃的で忘れられないのは初代iMac(1998年)です。
それまで、パソコンと言えば素っ気ないホワイト・ボックスが多かったですが、あのスケルトンで丸みを帯びた三角の色とりどりのデザインにはシビレました。
「こんなパソコンがオフィスに並んでいるのを想像するだけで、ワクワクするぞ」と、当時は思ったものです。
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