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わたしの珍職業:AV制作会社(応募・面接編)


正直なところ、わたしの職歴は変だ。

もちろん強制的にさせられたわけではなく、自分自身で志望して就いたのだが。

そもそも”わたし”という人間は少し変わっていて、若かりし頃はとにかく怪しい仕事をしたかった。

なぜ?

いや…わからん。

ただデスクに座ってパソコンをカタカタするデスクワークは、まっぴらごめんだったのだ。

親には高い学費を払ってもらい、美容専門学校まで行かせてくれたわけだから、両親からすると美容師免許を活かした仕事をしてくれよ!ってなもの。

ごもっとも。

なのにこのバカ娘ときたら、大阪で有名なヘアサロンに就職が決まったのにも関わらず、研修期間の1か月で辞めてしまったのだ。

当然親にはしばらく続けたということにして…。

母親はわたしがすぐに辞めたってこと、薄々気づいていただろうけどね。

退社してからは週に数回大阪のキャバクラで日銭を稼ぎ、休みの日は飲んだくれ雑な毎日を過ごす日々。

このときすでに1人暮らしをしていたから、わたしの行動を監視する人なんておらずやりたい放題ですよ。

ただわたしを可愛がってくれていた兄貴分的な人からの言葉がずっと引っかかり…。

「Reikoちゃんの発想はユニーク。行動力もあるだろうから、何か面白うそうな事やってくれそうなんだけどね~」

「でもしっかり先を見据え、計画立てていかないとさ」

わたしも頭の片隅ではわかってたんだ。

このままじゃダメだ…定職につかねば!!ってこと。

じゃあ、一体あんたに何ができるんだい?

やりたいことはあるのかい??

自問自答するも答えは出ず。

このころ官能小説にハマり、エロ小説家になりたい!

そんな突拍子もないことを言い、兄貴に笑われたっけ。

無駄に時間だけが過ぎ、専門学校を卒業してから1年経ったある日。

家のパソコンをポチポチしているときに、フワッとある疑問が思い浮かんだ。

アダルトビデオはどうやってつくられているんだろう…?

これまで真っ暗闇の中をあてもなく歩いていたわたしに、一筋の光が見えた瞬間だった。

君のすすむ道はここにあるよ。

AVが商品になるまでどんな過程があるのか?

撮影現場はどうなっているのか??

気になりすぎるけど調べようもない。

うーむ…どうしたものか…。

そうだ!あの会社のウェブサイトに何かヒントがあるかもしれないぞ。


まるで宝箱を開くかのように、ワクワクしながらキーボードをタイプ。

…ソフトオンデマンド

2000年代にテレビ放映されていた、マネーの虎にSOD創立者の高橋がなりさんが出演されていたのを観て社名は知っていたのよ。

クリックすると当然のことながら、美少女たちの卑猥なビデオパッケージがびっしりと画面に映りだされた。

「わぁ、すごい!」

危うくビデオをポチりそうになったところで目に入ったのが

社員募集

これだ!わたしの目指すべきステージは!!!

なんて安易な…。

若く無知だからこそ恐れを知らず、後先考えない行動ができたのだろう。。

当時のわたしはなぜかこれしかない!

そう思っちゃったんだよね。

ビビっときてからは早く、履歴書を買うため一目散にコンビニへ走った。

店舗横に設置されていた証明写真機で撮影をし帰宅。

本人希望欄:AD志望

現場を知るならやっぱADでしょ。

祈るような気持ちで履歴書を投函した。

1週間後、見知らぬ番号から携帯へ着信が入る。

「…もしもし?」

「こんにちはSODクリエイトの〇〇と申します、Reikoさんの携帯でよろしいでしょうか?」

なっなぬー!!!!!

SODってソフトオンデマンドじゃん!!!

ちゃんと履歴書みてくれたんだ(嬉)

「は、はいっっ!Reikoです!!!」

「どうもReikoさん、履歴書を拝見しお電話させていただきました」

「早速本題ですが、まずは面接を行いたいのですが東京のオフィスに来てもらうことは可能ですか?」

ぬわんと!!!

面接してくれるんですか(涙)

断る理由なんてないっしょ!

「もちろんです、ぜひよろしくお願い致します!」

「関西にお住まいで遠いですが、来ていただけるということで安心しました」

「では1週間後の〇〇時はご都合いかがですか?」


こんなやりとりをして面接日が決まった。

この電話の相手が、後にわたしの人生を狂わせることになるとは知る由もなく…。

このときお付き合いしていた彼には、何の相談もせず勝手に事をすすめ、東京行きが確定してから事後報告をした。

というか誰にも知らせずシレ~と面接受けに行ったのである。


3度目の東京。

期待と緊張を胸にワクワクしながら新幹線に乗り込んだ。

先の見えない自分の人生。

今までの自分を捨てたいじゃないけど、リセットして環境を変えたかったのは確か。

東京で働けたらまた違う何者かになれるような気がして、新しいことに挑戦したい気持ちと、生まれ変わりたい自分がいたんだよね。

ぬかるみにハマった沼から抜け出し、新しい人生をスタートさせるんだ。

だから何としてもこの面接を成功させたい!

それがたとえアダルト業界であっても…。

窓越しに広がる富士山を見ながら決意をかためた。

迷路のような広い東京駅の中を、丸の内線のホーム目がけてキョロキョロしながら歩く。

このときスマホなんてないから、案内表示を頼りにするしかなく完全なおのぼりさん状態。

なんとか地下鉄に乗り新中野駅で下車。

出口の階段を登りきると、10階建てくらいのシルバーのビルが目に入った。

SODクリエイト

おお、これがかの有名なソフトオンデマンドか。

普通の建物だし、パッと見ここがアダルトビデオをつくっている会社なんてわからんよな。

口をポカンとあけて下からビルを見上げていると、社員らしき数名が建物から出てきた。

これはSODの社員さんですか!

なんかエロとは無関係ぽい地味な人達やん。

うん、なんかいける気がする。

よし!いきますか。

ガラスの自動ドアから中に入り、受付で面接に来たきたことを伝えると9階に案内された。

チーン。

9の文字が光ったと同時にエレベーターが開く。

目の前に広がるのは、長テーブルが5、6くらい並べられた広い会議室。

「担当の者が来ますので、こちらに座ってお待ちください」

受付さんに促されるまま、パイプ椅子に着席。

面接時に着ていたのは、グレー地にベージュのストライプのポールスミスのジャケットに、ドルガバのベージュパンツ。

リクルートスーツなんてないわたしにとって、精一杯正装のつもり。

10分くらい経った頃だろうか。

「いや~お待たせしましたぁ~」

背後から軽やかな声。

振り返るとこちらに向かってくる男性2名。

1名はコロンとしたタヌキ風おじさん。

片方は色白で180センチくらいありそうな細身体型。

金髪で耳を覆うような長さのくりくりパーマに紫色のサングラス。

黒のレザーパンツにトルネードマートにありそうな、大きなバラがほどこされた昔のホストみたいなド派手兄ちゃん。

「どうも、電話でお話した〇〇です」

チャラ男がにっこり微笑み、あいさつをしてきた。

えっ、わたしが話したのってこの人なの?

若い頃はやんちゃしてました系のコレが!?

生理的に無理なタイプなんですけど…(汗)

顔をひきつらせ、頭をぺこぺこ。

「は、はじめましてReikoです!今日はどうぞよろしくお願いします!!」

「まぁ堅苦しいのはナシで気楽にいきましょ」

「あ、これ僕の名刺ね」

スッと渡された名刺に目をやると、ヘアメイクの文字が。

タヌキのにはプロデューサー。

「僕ねここで専属ヘアメイクをしてるのよ」

「ちょうどアシスタントを探していてさ」

「君、美容専門学校を卒業してるんだってね」

「ヘアメイクとか興味あればそっちでほしいなと思い」

「AD志望みたいだけど、美容とかやる気ない??」

ほえ!?ヘアメイクだと?

思ってもみなかった質問に拍子抜け。

だってさアダルトビデオ制作会社だよ?

エロい質問とかされんじゃね、とか覚悟してたんだけど。

「あ、あの!ヘアメイクって撮影現場に行くんですか?」

「もちろん現場に入るよ」

やべー!これはビデオづくりに携われるチャーンス!

ぶっちゃけメイクは興味ないけど、現場が見れるなら選んでられないわ。

「わたしでもできるような仕事でしたら、ぜひお願いしたいです!!」

「おっけー。タヌキはどう思う?」

「ん~〇〇君がいいならOKじゃない?」

「よし、じゃReikoさん採用ね」

「大阪から引っ越してきてもらわないとだけど、そのあたりは大丈夫?」

軽っっ!こんな簡単に合格でいいわけ!?

でもせっかくの機会は無駄にしたくないもんね。

お口チャック、余計なことは言わない。

グッと唇をかみしめ、ひと呼吸。

「全く問題ないです!いつでも出てきますので!」

「いいね~そしたら入社は来月頭くらいでいいかな」

「今からだと1か月くらいあるから、その間にアパートの契約とか済ませたり準備もできるよね?」

問題ナッシングです!

とは言ってないけど(笑)

こんな感じでさらりと面接は終了し、晴れて東京行きの切符を手にした。

当時21歳。

これからはじまる憧れの大都会生活に胸を躍らせ、ルンルンで帰りの新幹線に乗り込んだ。

東京上京編へとつづく。


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