帰ってこないで。選手の移籍についてJ2地方クラブのサポーターが思うこと
選手の他クラブへの移籍は何度、何年経験しても慣れません。
地元紙の報道が出るたび、公式発表がなされるたび、寂しさと辛さが混じった何とも言えない気持ちになります。
特に資金力に乏しい地方クラブは、オフシーズンに入ると草刈り場となります。
ヴァンフォーレ甲府も2018年オフには15人、2019年オフには12人、2020年オフには16人と、3年連続でメンバーの半数近くが退団しました(契約満了選手を含む)。
2021シーズン終了後の退団選手は8人と例年よりは少ないですが、それでも甲府から毎年のように主力選手を引き抜くクラブに今オフも主力を引き抜かれるなど、例年と変わらず辛い思いを味わいました。
サッカー選手も生活が懸かっているわけですから、より高い年俸を出してくれるクラブに行くのは当然のことです。
ただ引き抜かれる側としては、胸の内は複雑です。
頭ではわかっていても、今まで応援していた選手が移籍するという事実にいざ直面すると、どうしてもショックを受けてしまいます。
しかも地方クラブはビッグクラブより退団する選手数が圧倒的に多い場合もあるため、そのぶん辛い思いを味わうことも必然的に多くなります。
私はサポーターになって8回目のオフシーズンを経験しました。
ある程度メンタルは鍛えられましたが、移籍のお知らせはいまだに辛いです。
それでも甲府を去る選手に向けて、私なりの送り出し方はだんだん形づくられてきました。
また甲府から主力選手を引き抜くクラブに対しての思いも固まってきたように思います。
いち地方クラブサポーターである私の、オフシーズンの気持ちのありようを明かします。
「お金がない」はスポンサーの思いを無視していないか
サッカー選手が現役引退後にどのような仕事ができるかは不透明です。
セカンドキャリアが保証されているような選手はごくわずかでしょうし、十分な実績を挙げられないまま若いうちに引退する選手も少なくありません。
できるだけ年俸の高いクラブに行くことは、ごく自然で当然なことです。
だからこそ選手が引き抜かれるたび、私はこう思ってしまいます。
「甲府にもっとお金があれば、選手を引き留められたかもしれないのに」
甲府に限らず、どの地方クラブでもこう思うサポーターは少なくないはずです。
どれほど地方クラブが資金をかき集めても、サポーターがいくらグッズや年間チケットなどの購入で貢献しても、ビッグクラブが提示した年俸には太刀打ちできないこともあります。
サポーターとしてはどうすることもできず、無力感にさいなまれ「もっとお金があればいいのに」「貧乏が憎い」などと思ってしまうのです。
ただ、クラブに出資してくれるスポンサー企業の存在も忘れてはなりません。
普段「はくばく様!」と言って、甲府のスポンサーである株式会社はくばくの商品を購入している私が「もっとお金があればいいのに貧乏だ」などと言うのは、なんだか矛盾しています。
はくばくに限らず、山梨中央銀行やクスリのサンロード、株式会社コイケなど、数え切れないほどのスポンサー企業によって、ヴァンフォーレ甲府は成り立っています。
母体となる企業がない地方クラブにとって、スポンサー企業は大切な存在です。
ピッチ脇に立っているスポンサー看板や、スタジアム内のいたるところに張られているスポンサーバナー(横断幕)を、私は設営ボランティアとして設置し、その数の多さやありがたさはわかっているつもりでした。
しかしオフシーズンに「貧乏が憎い」などと言うたび、甲府のために決して少なくない金額を出資してくれているスポンサー企業の思いを、私は尊重できていなかったのです。
高い年俸を求めて、選手が甲府を去っていくことは当たり前のことです。
それでも残ってくれる選手、新たに来てくれる選手がいるのは、スポンサー企業の出資があるからこそです。
そもそもJ1のビッグクラブであっても、クラブ側が太刀打ちできないほどの高年俸で選手を海外クラブに引き抜かれることもあります。
甲府より資金力の少ないクラブのサポーターにとっては、甲府もビッグクラブと同じように資金力があるクラブだと思っているかもしれません。
スポンサー企業の思いを尊重し、視野を広く持てば「もっとお金があれば」とは言えなくなります。
ヴァンフレッチェ、ヴァンニータ、ヴァンガ。しかしヴァンディージャ
サンフレッチェ広島、大分トリニータ、京都サンガF.C.。
この3クラブに共通していることは何でしょうか?
甲府サポーターならピンとくるはずです。
3クラブの共通項。
それは「今まで甲府から選手を4人以上引き抜いているクラブ」です。
山梨県の地元紙『山梨日日新聞』で、甲府の選手の広島、大分、京都への移籍が報道されるたびに、正直「またか……」などと思ってしまいます。
広島には大卒3年目の活きのいい選手ばかり引き抜かれていますし、大分には2年連続で2人ずつ引き抜かれています。京都には今オフを含め3年連続で主力選手を引き抜かれました。
「甲府は広島、大分、京都の養成所じゃない」
そう言いたくなってしまいます。
さらに引き抜いた選手が移籍先で活躍せず、別のクラブに移籍してしまうと、引き抜いたクラブに対し「甲府に返して」「使わないなら引き抜かないで」と思ってしまいます。
しかしそのような憂き目にあっているのは甲府だけなのでしょうか。
甲府も他のクラブに対し、同じことをしているのではないでしょうか。
そして甲府サポーターの私には、引き抜かれた選手に対しても、引き抜いた選手に対しても、ある共通した強い願いがあります。
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サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…
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