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『漫画:バクちゃん(増村十七 著)』★LIPカルチャー部

認定NPO法人Living in Peace(以下、LIP)難民プロジェクトです。気づけばあっという間に2月ですね。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 本日、ご紹介するのは『バクちゃん(増村十七 著)』です。

 移民としてバクの星からきた主人公バクちゃんの、地球(東京)での暮らしを描く漫画。カルチャー誌・フリースタイルのマンガランキング特集「THE BEST MANGA 2021 このマンガを読め!」でも紹介された今ひそかに話題となっている作品です。

 作者の増村十七先生がカナダで永住権を取得しようとしていたときの経験を元にしただけあって、難民・移民が移住先の環境で生きていく姿を繊細に描いています。
 
 今回の「LIPカルチャー部 presents ★難民問題が学べる今月イチオシの作品」では日本の難民問題と併せて『バクちゃん』をご紹介いたします。

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夢を求めて地球にきたバクちゃん

 バクの星では食べられる夢は全部なくなって、みんなずーっとお腹が減っている。「地球は夢いっぱいでイイところ、安全だし、仕事もある。」そう思っていたバクちゃんは、地球に移住してきます。

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夢を食べるバクちゃん、夢を食べないとずっとお腹がすいた感じだと言う。
出典:『バクちゃん』(1) 増村十七/KADOKAWA 19ページより

  けれど、地球での生活はそう簡単なものではなさそうです。矢継ぎ早に質問ばかりする乱暴な入国審査の人たち、経験したことのない総武線の満員電車、頼りにしていた叔父さんも3か月のブラジル出張に出てしまっていて・・・、入国早々野宿の危機のバクちゃん。日本で暮らすただそれだけなのに、何やら波乱の予感がします・・・。


 バクちゃんのように生まれた土地から移住するのは、現実世界でも珍しいことではありません。紛争に巻き込まれ、財産も家も何もかも捨て身一つで祖国を脱出した人。テレビの街頭インタビューで政府に批判的な発言をしたことをきっかけでいきなり憲兵に拘束され、全身に生々しい傷が残るほどの激しい拷問を受けた人。そうした理由で祖国を逃れざるを得ない人たちが2019年末時点で7,950万人います(地球上の97人に1人)

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 数字で見る難民情勢(2019年) - UNHCR 日本(www.unhcr.org

 さらに難民の数は、年々増えています。そしてこの4割が18歳未満です。

難民問題についてまとめた記事になります。こちらも是非お読み下さい!

 実は日本にも、バクちゃんのように故郷を追われ、難民・移民として移住してきた方は大勢います。命からがら母国から逃れてきたにも関わらず、矢継ぎ早に質問してくる入国審査、マナーにうるさく乗客も多い電車、そして言語すら伝わらない・・・、不安でいっぱいな入国したばかりの難民・移民は、そのような対応にどんな気持ちがするのでしょうか。

 満員電車で身動きの取れないバクちゃんは幸いにも名古屋から上京したばかりの女の子「ハナ」に助けてもらえます。二人は意気投合し、バクちゃんはハナの下宿先に泊めてもらえることになりました。

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雨の中、下宿先に向かうバクちゃんとハナ。
出典:『バクちゃん』(1) 増村十七/KADOKAWA  44ページより  

 バクちゃんとハナのように、その国で暮らす人間が身分・国籍もかかわらず支え合いながら共に暮らしていく。些細な行動のひとつひとつが世の中を良い方向に変えていくきっかけになるのかもしれません。


自分を自分と証明できない難民・移民たち

 移民として地球に来たバクちゃんの目標は、永住権を取得すること。早速ハナと一緒に永住権取得に向けて手続きに向かいます。しかし、この世界ではバクちゃんをバクちゃんと証明できるものがほとんどありません。結局、銀行口座の作成も携帯電話の契約もできず、住民登録もできませんでした。銀行や契約だけでなく、人とのつながりも少ないこの世界でバクちゃんは生きていかなければなりません。


 日本では難民が難民であることを証明するのはとても難しいのが実情です。下図のように、日本の2019年難民認定率は難民申請数に対して0.4%、これは先進国の中で最下位となる数字です。残念ながら世界的に見ても、日本は難民・移民を認めない国として有名です。

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(出典:https://www.refugee.or.jp/jar/report/2018/02/13-0002.shtml)

 では、なぜこれほどまでに難民認定率は低水準なのでしょうか。

 日本で難民認定を行う出入国在留管理庁は、「難民の認定は,申請者から提出された資料に基づいて行われます。したがって,申請者は,難民であることの証拠又は関係者の証言により自ら立証することが求められます。」と定めています。これは要するに、「難民本人が自力で自らの難民性を立証してください」ということです。これは、難民申請者にとって無理難題だと言わざるを得ません。

 そもそも難民が命からがら逃げてくる最中に、自分が難民であることを証明する資料を集めるなんて極めて困難です。もし資料を集め出国しようとすれば、出国手続の際にその資料が警察や政府機関に見つかり、危険な目に合うかもしれません。難民性を証明できなければ、命の保証はどこにもない母国に強制送還されてしまうケースもあります。また、日本で暮らすにしても、社会と繋がりも持てないまま、自分のことを誰も知らない世界で暮らしていかなければならないのです。


私たちに何ができるか

 バクちゃんは周囲の優しい人たちと支え合いながら、地球での生活に少しずつ馴染んでいきます。しかし、読み進めていくほど、地球で力強く生きる移民たちの寂しさ、もどかしさを感じざるを得ませんでした。

 バクちゃんは区役所で清掃員のサリーさんと出会います。サリーさんの星は戦争で亡くなってしまい、それから27年間、地球で子どもを育てながら暮らしていました。どんなに故郷に帰りたくてももう帰れません。逃げてきた国で暮らしていくこと以外に選択肢なんてないのです。

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「27年いて、地球は好き?」と聞かれ、答えるサリーさん。
出典:『バクちゃん』(1) 増村十七/KADOKAWA  131ページより

 まだまだ難民認定率の少ない日本ですが、バクちゃんとハナのように、難民・移民と出会った一人一人が手を差し伸べ、生活していくことがこの複雑な問題の解決の糸口になると信じております。

 皆さんもバクちゃんを通じて、日本の難民問題について知って頂けると嬉しく思います。

 ※ちなみに、第21回 文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 新人賞を受賞したオリジナル版(英語)もまだ読むことができるのでぜひ下記よりチェックください!

(執筆:小林)

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