子どもたちに「遊具」を!コロナ緊急支援を通して考える児童養護施設への効果的支援のありかた(前編)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が広まるなか、社会におけるさまざまな場所で多様な困りごとが発生しています。
そしてそれは、わたしたち認定NPO法人Living in Peace(以下、LIP)が支援をおこなっている児童養護施設(親と暮らすことのできない子どもたちが生活する、児童福祉施設)も例外ではありません。
そうした困りごとにともない、Living in Peaceは5月、国内2個所の児童養護施設を対象とした「遊具」の寄贈支援を実施しました!
コロナの流行にともない、児童養護施設にはどのような困りごとが発生しているのか? なぜ『遊具』の支援なのか? 今回の緊急支援実働部隊として動いた、Living in Peaceのキャリアセッションチームメンバーに聞きました。
執筆:徳永香織(Living in Peace)
◆休校期間に児童養護施設で起きていたこと
―休校措置が全国的に実施されてから、家庭内における親子双方のストレスに関する問題が、メディアを通して指摘されるようになりました。一方で、児童養護施設における問題を取り上げる報道は多くありませんでした。施設はどのような状況にあったのでしょうか?
前提として、児童養護施設で暮らす子どもの半数以上は虐待経験があります。それが原因で自己肯定感が低かったり、精神発達上の遅れやアンバランス、愛着障害、トラウマなどを抱えていたりすることが少なくありません。
それらをケアするためには、できるだけ安定した養育環境を提供する必要があります。これは、児童養護施設の大切な役割のひとつです。しかしコロナの影響で、そういった安定した状況が崩れるという問題が発生していました。
3月1日から全国的に適用された休校措置と外出自粛に加え、集団生活に伴う施設内の感染防止策が重なり、子ども同士で「お互いに過干渉状態になる」「テレビの取り合いを発端に喧嘩が生じ、関係性が悪くなる」といったようなトラブルが増えてしまっていたのです。
また集団生活における一部のこうした状況は、周りの子どもにとっても当然居心地のよいものではありません。ストレスがストレスを呼ぶような悪循環が生まれていましたんです。
―なるほど。施設職員さんの状態はどうなっていましたか?
実は、施設の職員さん側にも深刻な影響が生じていました。
ただでさえ休校措置の影響で一日中子どもの対応に追われているうえ、前述のような子どものトラブル対応も重なります。さらに、集団生活における徹底した感染対策を行わなければならない負荷が重なり、業務の絶対量が増大していました。
また、子どもをもつ職員さんは、同じく休校措置の影響で家庭に待機しなければならず、勤務時間を制限せざるをえない。現場の疲弊がピ―クに達している状態でした。
こうして、子どもに大きなストレスがかかり、施設職員の疲弊がピ―クに達することによって、児童養護施設の大切な役割である安定した養育環境を提供することが難しい状況になっていたのです。
―さまざまな面から、施設の環境が悪化していたということですね。
そうです。今回の支援先は、Living in Peaceが以前からおこなっているキャリアプログラム(おしごとリップ)に参加してくれている施設でした。
このプログラムは年間を通して実施しているため、普段からプログラム内容の相談や子どもの状況共有などを密におこなっていました。施設側の自立支援コーディネーターの方と、良好な関係を築けていたことが、迅速な支援につながったのだと感じています。
◆子どもにとっての「遊具」の価値
―そうした課題を受けて、なぜ「遊具の提供」という支援だったのでしょうか?
LIPからの最初の提案は、オンライン学習コンテンツを提供するなど、オンラインを使った支援が中心でした。これに対して、施設側からは「遊具がもらえると助かる」と言われたんです。
施設の方にヒアリングをするなかでわかってきたのですが、そもそも施設には、オンラインコンテンツを楽しめるだけの十分な環境が用意されていなかった。
施設ではPCはあっても部屋に一台。携帯を持っていない子も少なくありません。また、部屋にあるPCにはアプリをインスト―ルしてはいけないル―ルがあったり、Wi-Fi環境も十分でないため、携帯で代替することもできないという状況だったんです。
しかし、だからといって施設から「遊具」というリクエストがあったときに、LIPメンバ―の全員がその意義を理解できたかといえば、そんなことはありませんでした(笑)。
遊具が、なぜ子どもたちの環境改善につながるのかわからなかったんです。「単なる一時的な暇つぶしで終わってしまうのでは?」という懸念もありました。
―たしかに、「遊具の提供」と一言で括ってしまうと、一過性の支援のようなイメ―ジを持ってしまいますね。
そうなんです。ただ、お話を詳しく伺うなかで遊具の重要性が徐々に分かってきました。
先にも述べた通り、施設内ではストレスを原因とした子ども同士のトラブルが多発していた。たしかに、イライラしている状況でオンライン教材を提供しても、落ち着いて勉強することは難しいですよね。
施設にはストレス緩和の選択肢、遊びの幅が少なかった。気分転換や、トラブルからの逃げ場になり得る場所が足りていなかったんです。
子どもたちの成長や学習意欲を促すには落ち着いた環境が不可欠であり、だからこそ安定した養育環境を整えるために遊具が強力な手段になる。
遊具は、けっして一時的なガス抜きではなく、長い目で養育環境によい影響を与えることができるんです。
◆現場の外からは見えないこと
―遊具の支援が決まった後、具体的にはどのように遊具を選定したのですか?
遊具の選定についても、議論や気づきがありました。
LIP側からは、単に遊具を選定して贈るだけではなく、子どもたち自身が今の状況をどう改善したいか、そのために何が必要かを考えてもらうプロセスを挟めないか、という提案をしました。
もともと、私たちが実施しているキャリアプログラムは、コミュニケ―ションや協調性、自制心などの非認知能力を高めることを目的の一つとしていることもあり、子どもたち同士で話し合い、何かを決めるといった機会にしてほしいという狙いがあったんです。
こうした提案の背景には、全員が施設内で終日過ごさなければならない環境は、一般家庭よりも子ども同士のコミュニケ―ションが成立しやすい環境であり、このコロナ危機を逆手にとって、高校生が小中学生を巻き込みながら、コミュニケ―ション力や協調性の育成ができるのではないかという想定がありました。
しかし実際には、施設における集団生活が、必ずしも子どもたち同士の関係性向上やコミュニケ―ションスキルの向上に繋がるわけではない、というのが職員さんから聞いた実情でした。
施設では、縦割りで決まった部屋で、小~高校生と最大12歳違う子ども達が共同生活をしています。当然ですが、育った(家庭)環境も異なるため、年齢や価値観の違う子ども達だけで話し合いをしたり、ましてや欲しいものを1つに絞りこむことは難しい。確かに、それだけ年齢が違えば欲しいものがバラバラになってしまうのも当然です。
もちろん理想は、年齢の高い子がお兄さん・お姉さん役になって下の年齢の子たちと関われることでした。ただ、それができるほど上の年齢の子供たちの心が育っていない(もちろんできる子どももいる)。
この話からは、子ども達が育った環境から受けた心の傷の根深さ、また職員さんの仕事の重さを改めて感じさせられました。
―その場に関わっていない人間には見えていないことの多さと重さに気付かされますね。
そうなんです。一方で、異年齢の子どもたち同士のコミュニケ―ション形成のきっかけを作りたい、子どもたちが望むものを提供してもらいたい、という想いは施設の職員さんも強く持っておられました。
そこで、子どもたちだけで決めるのではなく、職員さんにうまく子どもたちを巻き込んでもらい、子どもたちの声を拾っていただくことにしました。こうして、ようやく遊具選定の方向性が決まったのです。
後編はコチラ!
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