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里親を通じた「地域で子育て」を実現したい! 全員本業持ちNPOと児童養護施設が協業して里親支援を行う理由

日本には現在、親からの虐待や経済的困窮など、さまざまな事情により実の親と離れて暮らす子どもが約45,000人存在します。そうした子どもたちを家庭で預かり、育てるための制度が「里親制度」です。

海外と比較して普及率が低いことを受け、現在日本政府が啓発に力を注いでいる里親制度。そうしたなか、2020年8月、東京都世田谷区の里親普及啓発サイト「SETA-OYA」が公開されました。

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Living in Peaceは、サイトを運営している世田谷区の児童養護施設・東京育成園にアドバイザリーとして伴走しています。

今回の記事では、「なぜLiving in Peaceと児童養護施設が手を組んだのか?」「里親制度の魅力と課題とは?」などをテーマに、Living in Peaceメンバーと、東京育成園スタッフが行った鼎談の様子をお届けします。

■里親をもっと「あったかく、あたらしく、あたりまえ」に

まず、東京育成園さんとLiving in Peace(以下、LIP)が一緒に活動をはじめた経緯をお聞かせください。

岩田:私がLIPさんと最初にお会いしたのは、個人的に参加している「いちほの会」とLIPさんが共同で開催した懇親会の席でした。2019年の11月頃です。

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岩田祐一郎さん 社会福祉法人東京育成園スタッフ / いちほの会メンバー

ちょうどその頃、世田谷区が里親支援業務の委託先を募集していて、育成園はエントリーを検討していました。

しかしエントリーするためには、里親のリクルーティング戦略や普及啓発計画などについて、綿密なプロポーザル資料を作成しなければならない。「これはお手上げだぞ」ということで、ちょうど知り合ったばかりだったLIPさんに協力のご相談をさせていただいたという流れです。

永安:LIPは以前から取り組んでいた里親関連事業が落ち着いたタイミングだったんです。だからトントン拍子に話が進みました。

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永安祐大 Living in Peace(本業 戦略コンサルタント)

僕たちLIPは、全員が本業を持ったプロボノ集団です。児童福祉の専門家ではない代わりに、本業で培ったビジネススキルがある。育成園さんが苦手な部分を補う形で、きっとお役に立てると思ったんです。

そこでLIP内に専用のチームを作ろうと考えた際に、僕が真っ先に声をかけたのが、ウェブマーケティングの知識もあり、当時世田谷の小児科クリニックで事務局長をしていた佐藤さんでした。

佐藤:たしか初回の打ち合わせは、日にちを間違えて岩田さんと会えなかったんですよね。結局、LIPのふたりでお茶して帰った気がする。なつかしいね(笑)。

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佐藤徹 Living in Peace(本業 コンサルタント)

2020年8月には、そうした取り組みのひとつである「SETA-OYA」が公開されました。反響はいかがでしょうか?

岩田:おかげさまで、「雰囲気があったかい」「世田谷らしさが伝わる」など、非常にご好評をいただいています。特にインタビュー連載「家族の食卓」の評判が良いようです。

永安:とても嬉しい反応ですね。「里親」って、一般の人からすると正直どこか遠いイメージがあるじゃないですか。

でも実際に関わっていくと、そこには、何気ない出来事で子どもと大人が無邪気に笑い合い、にぎやかな食事のひと時を過ごし、時にぶつかることがあってもお互いを大切に思いやっているような、なんだかあったかい世界が広がっているんです。

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そこで我々の感覚を頼りに、新しいデザインやライティングを通じて情報発信することで、そうした里親のあたたかな魅力を、より多くの人に知ってもらえると考えたんです。

そうやって地域住民に共感の輪を広げることができれば、里親はもっと当たり前の存在になるし、里子にとってはその地域が「大切な居場所」になると思うんですよ。

■子どもの生活環境を変えないために

―そもそも、なぜ児童養護施設である東京育成園さんが里親支援の業務委託にエントリーしようと考えたのでしょうか?

岩田:一番の理由は「子どもたちの生活環境が大きく変わることのない社会」を作りたいという気持ちが大きかったからかもしれません。

たとえば、世田谷区内で保護された子どもを里親さんに預けることになったとしましょう。その際、もし世田谷区内に適切な里親さんがいなければ、子どもは都内別区の里親さんに預けられることになります。

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そうすると、子どもは転校などを余儀なくされてしまいます。ただでさえストレスの多い状況にいる子どもたちに、友達との別れなど、さらなる負荷がかかってしまう。

しかし世田谷区内に里親さんがいれば、子どもの生活環境を大きく変えずに養育することが可能になります。子どもたちのことを考え、区内に里親さんを増やしたいと思ったんです。

佐藤:LIPは「じゃぁ、そのためには何をすればよいのか?」という事業計画を作る部分から協力させていただくことになりました。

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ターゲットとなる人たちをセグメント分けして、ペルソナを作り、それに応じた施策立案を行う。そこにはHPの作成も入っていて、それが「SETA-OYA」の原型になっています。

施策案の中には、これまで区が取り組んでいなかった、新しいタイプの施策も複数入っていました。こうした提案が通ったのは、区としても「新しいことに取り組まなければ」という気持ちがあったからではないかと思います。

岩田:先のインタビュー企画など、我々からは出てこない視点を提供してもらえたのは大きかったですね。これからは、新しい取り組みの必要性が増してくると思うので。

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里親支援業務には大きく分けて4つの柱があります。「普及啓発」「(里親向け)研修」「(里親と里子の)マッチング」「養育支援」の4つです。現在、東京都はこれらを別々の機関に委託していますが、2020年10月からは試験的に包括委託を開始しました。

世田谷区においても、2022年からは同様の取り組みを進めていく方針で検討がはじまっています。私たち(東京育成園)も現在は「普及啓発」「研修」の2つをメインとしていますが、包括化に向けて取り組みを拡大していきたい。そのためには、従来のやり方だけでは対応しきれないと思うんです。

里親支援は包括化の流れにあるんですね。

岩田:そうですね。里親に限らず、児童福祉はもっと包括化や関係機関の連携を進めなければならない思っています。

子どもにまつわる事柄って、要素によって担い手のレイヤーがバラバラになっているんですよ。たとえば児童相談所は都道府県の管轄だけれども、児童館や学校は市区町村だし、子どもの生活は地域からはじまっている。そこに分断がある。

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実際に里親さん向けの支援って、里親が基本的に児童相談所管轄であるため、都道府県レイヤーのサービスがほとんどなんですよね。そのため、実際に生活している地域の中で使えるサービスは、里親さんが自分で探すしかない。里親制度と地域の連携がうまくいっていないんです。

佐藤:小児科で働いていた頃から、僕も同じ課題感を持っていました。連携や情報共有が、まだまだ足りていない。

特に里親制度って、「委託したら完了」ではないですよね。むしろ委託後、仮に問題が生じた際に「フォローできるかどうか」が重要だと思っています。そのためには、実際に里親子が暮らす地域との連携が不可欠です。

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そのための取り組みのひとつとして、今後は「SETA-OYA」の中に「世田谷区版 里親支援マップ」などのコンテンツを追加していきたいと考えています。

育成園を中心に、地域の信頼できるサポート情報を網羅したマップを作ることで、里親さんが地域の中で安心して養育できる環境を作っていけたらなと思うんです。

■私的空間における公的制度としての「里親」

現状の里親制度には、「何かあったときに、子どもの声が外部に共有されづらい」という指摘もあります。

永安:おっしゃる通り、里親養育にはプライベートな空間で行われる以上、人目が届きにくくなるリスクがあります。

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先ほど佐藤さんがおっしゃった通り、「里親さんへの委託」はゴールではない。里親制度を推し進めるのであれば、訪問支援など、子どもの声を聞き、何かあったときにフォローできる体制が併せて整備されなければならないと思います。

そのためにも、ますます「地域とのつながり」が重要になってくるのではないでしょうか。

佐藤:しかし一方で、子どもに「家庭内の問題を外に言いたくない」という気持ちがあるのであれば、そこもフォローされなければならないと思っています。里親家庭に限らず、「家族の問題をむやみに外に出したくない」という気持ちは、どこの家庭にも少なからずある。

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子どもと里親さんが家族になれば、「家族だからこそ」外に言いたくないことが生じるはずです。どこまで開示を迫ってよいものか、ちょっと疑問は残ります。

岩田:里親制度は、あくまで社会的養護の枠組み内にある公的な制度です。しかし里親さんは、「家庭」という私的な空間の中で、その公的な役割を果たさなければならない。これはとてもバランスが難しいですよね。

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とはいえ、児童福祉法には「子どもの権利」として、子どもの意見表明権が明記されています(※)。社会的にも「子どもアドボカシー」をはじめとし、子どもが自分の意見を述べることの重要性が認識されつつある。まぁ、「されつつある」という状況が本当はおかしいんですが……。

※ 「全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。」(児童福祉法 第一章 第二条)

無理強いをせず、それでいて子どもが何かを伝えたいと思った際に、自然とその声をすくい上げることのできる環境作りが必要なのではないでしょうか。

永安:そうした中で、岩田さんが意識されていることなどはありますか?

岩田:現場レベルだと、私は里親さんを訪問するときには、なるべく子どもと直接会える時間にうかがうように意識しています。

可能であれば里親さんに許可をもらって、子どもと2人で話したりもしますね。「お家で安心して生活できるようお手伝いに来ているから、どんなお話でも聞くよ」とか「お家の人や児童相談所に人とは違った立場でお話を聞けるよ」とか、よく言っています。

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これは決して、「何かあったら子どもを里親から引き離そう」みたいな意図ではありません。子どもは子どもで守りつつ、家族がうまくやっていくためのお手伝いができればなと考えています。

そうした「家族がうまくやっていくためのサポート」は、里親に限らず全ての家庭にとっても必要なのではないかと感じます。

永安:それは育成園さんが最終的に目指しているものでもありますよね。もともと持っている児童養護施設としての機能だけでなく、里親さんの支援機関となり、最終的には地域全ての家族がうまくやっていくための包括的支援機関となる。いわゆる、児童養護施設の多機能化ですね。

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LIPは児童養護施設の支援からスタートしたNPOですが、現在は「すべての子どもに、チャンスを」というビジョンのもと、活動の幅を急速に拡大しています。やれることはまだまだあるはず。ぜひ今後も、一緒にできることを検討していけると嬉しいです。

岩田:こちらこそ、引き続きよろしくお願いいたします!

―ありがとうございました!

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