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新型コロナウイルス感染症 今わかっていること〜最新の医学論文 (JAMA 2月28日号)を読み解く〜

最新の医学論文から (JAMA 2月28日号より)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に対する最新医学情報です。今回はJAMAの論文がわかりやすかったので、一部抜粋してまとめました。フリーの論文(オープンアクセス)ですので、誰でもダウンロードや閲覧ができます。
状況は刻一刻と変わりますので、最新の情報を手に入れるようにして下さい。

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冒頭部分

2020年2月27日現在:
SARS-CoV-2 ウイルス感染症(COVID-19)の患者数は82000件超、死亡者数は2800人(95%以上は中国の患者)。
49ヶ国で感染者が報告されています。
Diamond Princess号の感染蔓延は甚大で、700人以上の感染者。
現在までに400以上の論文が医学雑誌データベースに登録されています。

ウイルスについて

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を引き起こすウイルスはSARS-CoV-2という名称です。
この名前からわかるように、かつて流行したSARSと同じ系列で、同じコロナウイルス感染症でも、MERSとは異なります。
ウイルス学的には、コウモリ由来のSARS様コロナウイルスに似ており、コウモリが今回の新型コロナウイルスのおおもとである可能性が高いです。
コウモリから直接人に感染するようになった可能性もありますが、コウモリからセンザンコウに感染するようになり、その後人に感染するようになった可能性もありますが、この辺りはまだはっきりしていません。
*中国の研究施設で研究目的で開発されたこのウイルスが流出した、という話もありますが、本論文では触れられていません。

SARS-CoV-2ウイルスはSタンパクというトゲのようなタンパクを使ってヒトの細胞にくっつきます。どの細胞でもいいわけではなく、ACE2という酵素の表面にくっつくのですが、このACE2は、肺の一番奥の肺胞にある細胞(II型肺胞上皮細胞)に多くあります。
また、未確認のデータですが、アジア人の男性の肺胞にACE2が多く発現しているというデータがあります。これが現在、アジア人男性に多く重症肺炎が見られる理由なのかもしれません。
ただ、中国人男性の喫煙率が高いため、肺炎の発症が単純に喫煙による影響を受けている可能性もあり(喫煙は一般的に肺炎のリスクを高めます)、はっきりとACE2とこの感染症の因果関係が証明されたわけではありません。

疫学(集団データからわかる統計的分析)

潜伏期間は1〜14日間、中央値は5〜6日ですが、最長で24日間という報告もあります。WHO(世界保健機構)やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は14日間というのを検疫の一つの基準にしていますが、今後の感染の拡大状況によっては、延長する可能性も考えられます。
基本的に飛沫感染で、ツバ、唾液、痰(初期症状として痰は少ないといわれています)などの気道分泌物を介して感染しますが、血液や便にも認められますので、他の感染経路もありえるかもしれません。
医療従事者の感染は非常に大きな問題で、JAMAの別の論文では、医療行為を行った医療従事者の138件中41%の感染率と言われています。
感染力について、1人の感染者が何人感染させるか示す「基本再生産数(R0またはRノート)」は今のところ2〜3といわれており、インフルエンザと同程度と考えられます。もっとも、無症状感染者がどのくらいいるのかがわからない現状では、あくまで推定です。

臨床症状

中国武漢のデータでは、入院が必要になった年齢の中央値は50台、男性がやや多く、25%が集中治療を要し、10%が人工呼吸管理を要しました。もちろん、若い層や子どもではもっと軽症で済むデータもあります。

主な症状として:
発熱 83〜98%
痰のない咳 76〜82%
倦怠感・筋肉の痛み 11〜44%
その他の症状として頭痛、のどの痛み、腹痛、下痢など。

血液検査:
リンパ球減少 70%
PT延長 58%(出血しやすい)
LDH上昇 40%(組織の破壊)

画像所見:
両肺にモヤモヤした影(斑状陰影)
CTだとうっすらとした影(すりガラス陰影)

致命率(CFR: Case-Fatality Rate)

CFRは当初、高齢者を中心に8〜15%といわれましたが、武漢外での報告では1〜2%との報告もあり、まちまちです。もちろん、軽症を拾いきれていない現状では、母数がわからないので、全体で何人感染していて、そのうちの何人が重症化したり致命的になるのかを断定するのは難しいでしょう。
*かつてのSARSの死亡率は10%、MERSの死亡率は30〜40%でした。

検査

誰を検査対象にするのか?
WHOやCDCの推奨は以下の通りです。日本の厚生労働省も概ね同様の方針です。

中国、特に武漢への渡航歴
SARS-CoV-2感染が14日以内に診断された人、または疑いのある人で発熱または呼吸器症状(咳、息切れ)がある人と濃厚接触した場合

もっとも、現在は韓国、日本、イタリアでも拡がっており、上記に当てはまる濃厚接触がはっきりしない感染確定者もいるため、この定義自体は早晩、見直されるでしょう。

ここからは私見です:
検査キットは各国使用しているものが違います。検査方法は概ねPCR法ですが、ターゲットにしているウイルス中のタンパクが異なります。nature誌に載っていますが、現在もいろいろ開発途中です。

とても大事なのが、その検査キットの検出感度です。PCRなら何でもいいわけではありません。感度が低い検査だと、仮に感染していても検査で陰性と出る可能性があります。なので、きちんと検出できるキットを作り、普及させることが重要です。検査ができることも大事ですが、「検査が正しい情報を与えてくれるのか」も同様に大事なのです。また、きちんとした検体を採取することも大事です。
「ウイルスのいそうな場所から十分量のウイルスを採取し、正確な検査で判定する」というのが基本中の基本なのですが、テレビの報道を見る限り、こういう点はあまり取り上げられていないので、情報の解釈には十分に気をつけましょう。

治療

基本は症状に適宜対応する、「対症療法」です。
ステロイドは推奨されません。
レムデシビル(エボラ出血熱用に開発された抗ウイルス薬)の効果を期待するデータがあり、現在臨床試験が進んでいますが、まだ結論は出ていません。
ロピナビル/リトナビル(カレトラ)はMERSウイルス(MERS-CoV)に対して、動物では効果がありましたが、ヒトに対して効果があるのかはわかりません。
ファビピラビル(アビガン)は新型インフルエンザ対策として国に備蓄されている抗インフルエンザ薬で、日本では一般に出回っていませんが、こちらも中国で臨床試験が行われており、結果が待たれます。
現状では、100以上の臨床試験が実施されているところです。

予防

新型コロナウイルスはエンベロープウイルスといわれるタイプで、アルコールなどで感染力を失うことが知られています。
基本は手洗い(20秒以上、明らかな汚れがついていなければアルコールによる手指消毒)です。

今のところワクチンはありません。NIH(アメリカ国立衛生研究所)が11以上のワクチン候補薬を開発中で、特に開発期間が短く、安全性が高いと考えられている、「mRNAワクチン」の第1相臨床試験の登録をまさに開始しようというところです。

注:mRNAワクチン
従来のワクチンはウイルスを弱毒化、あるいは無毒化して作られていました。今回注目されているmRNAワクチンは、ウイルスの持つタンパクの1つである、メッセンジャーRNA(mRNA)を対象にしたワクチンで、ウイルスを無毒化して培養するといった手間がなく、ウイルスのmRNAが形を変えた場合でも、対応しやすいのが特徴です。

まとめ(私見)

データは流動的なものですし、事実の一面しか表していません。
今後の世界的な疫学調査の報告が集まると、だんだんと全体像がわかってくると思います。
基本的な予防策として手洗いを徹底するのが重要です。マスクはきちんと使えるのであれば、もちろん使っていいと思いますが、過信しないことが重要です。正しい知識を持てば、必要以上に怖がる必要はありません。

ただし、有効な予防法や、効果がはっきりとした治療薬がまだないという事実は受け止める必要があります。治療薬については臨床試験が走っていますがまだ終了しておらず、ワクチンも臨床試験がようやく始まるところです。臨床試験はそれなりに時間がかかりますので、まだすぐに(日や週の単位で)何かが変わるわけではないでしょう。

仮に感染力が高くても、致命率が高く、潜伏期間が短いほど、感染症は広まりにくく、すぐに収束します。今回のコロナウイルスは感染力がそれなり、致命率も高いがかつてのSARSやMERSほどではなく、潜伏期間が長いので、やはりどうしてもじわじわと世界に蔓延していく可能性が高いと思います。

特に、統計上、感染リスクの高い医療従事者は「インフルエンザと感染力が同等でも、患者数が少ないから感染するリスクが低い」と看過することはできないでしょう。

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