絡んだ手から感じる脈に安心する日もあれば、恐ろしく思う日もあった。彼に伝わっているのだろうか、熱い。暖房を使わなくなった頃、わたしの手は冷たかった。彼の手は温か…
春の匂いがした。そのときにはもう遅かった。 出会う頃には散っている桜と、そんな中で突然降り出す雪を、私はまだ受け入れられない。 別れの際に美しい思い出を魅せつける…
あなたの為に、つまりわたしたちふたりのものだった言葉を、わたしの知らない弱った誰かにあげちゃうなんてひどい。優しさと冷たさが混ざる、ふたつは意外と離れていない場…
わたしの優しさを消費しないでいてくれる彼がとても好きだった。夜の海は光って、全てを呑み込んでしまうけど、暗い部屋で繋いでくれた彼の手の方が大きく思えた。わたしの…
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2023年4月6日 23:25
絡んだ手から感じる脈に安心する日もあれば、恐ろしく思う日もあった。彼に伝わっているのだろうか、熱い。暖房を使わなくなった頃、わたしの手は冷たかった。彼の手は温かかったのに。昔好きだった人には左にしかなかった穴が、彼には左にひとつ、右にふたつあって。左にふたつ、右にひとつ開いているわたしが左側に立って一緒に歩き出したとき、私たちは無敵になれた気がしていた。特別な感情のない穴ばかりだった。彼は左が
2023年3月17日 16:42
春の匂いがした。そのときにはもう遅かった。出会う頃には散っている桜と、そんな中で突然降り出す雪を、私はまだ受け入れられない。別れの際に美しい思い出を魅せつける柔らかい色、透明で温かい涙を、一ヶ月後には忘れてしまう。「秒速5センチメートルなんだって」と言いふらしていたあの春、目だけを奪われて感じられなかった優しい香り。気付いたのは散り切ったあと。私が挫折して同級生を見上げたとき、アスファルトに
2023年1月28日 18:40
あなたの為に、つまりわたしたちふたりのものだった言葉を、わたしの知らない弱った誰かにあげちゃうなんてひどい。優しさと冷たさが混ざる、ふたつは意外と離れていない場所にある。そんなの誰のことも溶かせない。伝えた言葉はあなただけのものじゃない、ひどい。薄暗い場所に隠しておいて、必要であれば灯りをつけて。大事にしてほしかったのに
2023年1月16日 17:39
わたしの優しさを消費しないでいてくれる彼がとても好きだった。夜の海は光って、全てを呑み込んでしまうけど、暗い部屋で繋いでくれた彼の手の方が大きく思えた。わたしのものだと思っていた月を放っておいて、彼の輪郭を覚える道具にした。そんな、思い出せば小さくキラキラとしているかたちはどこか寂しげで、溢れた海は何よりもつめたかった。