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春の匂いがした。そのときにはもう遅かった。
出会う頃には散っている桜と、そんな中で突然降り出す雪を、私はまだ受け入れられない。
別れの際に美しい思い出を魅せつける柔らかい色、透明で温かい涙を、一ヶ月後には忘れてしまう。
「秒速5センチメートルなんだって」と言いふらしていたあの春、目だけを奪われて感じられなかった優しい香り。気付いたのは散り切ったあと。私が挫折して同級生を見上げたとき、アスファルトに溶けていた残り香だった。

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