脈打つ骨

絡んだ手から感じる脈に安心する日もあれば、恐ろしく思う日もあった。彼に伝わっているのだろうか、熱い。暖房を使わなくなった頃、わたしの手は冷たかった。彼の手は温かかったのに。
昔好きだった人には左にしかなかった穴が、彼には左にひとつ、右にふたつあって。左にふたつ、右にひとつ開いているわたしが左側に立って一緒に歩き出したとき、私たちは無敵になれた気がしていた。
特別な感情のない穴ばかりだった。彼は左がいいんじゃない、と言ってくれたのに、わたしは右がいいんだとお願いした。「すごく熱くて脈打ってるけど、骨にも血って流れてるのかな。」その時にもう、終わっていたのかもしれなかった。

捨てられるのが怖い、と何度も言う彼に苛立ったわたしは、「そんな弱さで先に捨てて逃げるんだ」と言った。言ってから気付いた、これはわたしがはじめて、彼を傷付けようと思って放った言葉だった。じんじんと痛くなって、どくどく、と静かに聞こえたそれはとても恐ろしくて。
わたしは言いたかった。あの日のような痛みを纏いながら、思い出しながら、後悔もしながら。
驚きだけで終わるそれとは違う、特別な、初めての痛み。無機質で冷たいと思っていた場所。

響いて仕方がない脈打つ骨に、責任とって欲しかった。

まだ開けたばかりの不安定な脈、あの日の温かい手のような安心を感じたかった。そういえば、血が出たらどうしよう、と焦っていたのを思い出した。軟らかさを、彼は知っていたのだ。そして、私の不安には応えてくれなかった。
血が流れれば、彼の手を染められたなら、熱い脈は伝わったのだろうか。

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