【読書感想文】人類はなぜ肉食をやめられないのか
著:マルタ・ザラスカ
非常にデリケートな問題
正直、投稿をするか非常に悩みました。この読書感想文を書き終えてから丸々4日程。
まず、この本を読もうとした理由を率直にお伝えしますと「単純に疑問に思ったから」でした。1週間ほど前に娘と共に図書館へ行った際に、気になる背表紙があるから読んでみよう、そんな軽い気持ちで選んだのです。
読んでいくうちに「これは難しいテーマに踏み込んでしまった」と少し後悔致しました。難しく、しかし人間として重要視しなければならない問題だと感じましたので、あえて投稿させて頂きます。
この投稿は恐らく、色んな考えの方が見るかと思います。あくまでも、この感想文は一個人が本作を読み、感じた事として「こんな考え方もあるんだな」と読み流してもらえればと思います。もしも自分と異なる考え方だと感じても、どうか見なかったことにして読み流して下さいます様、宜しくお願い致します。
単純な疑問
まず上にも書きました「単純に疑問に思った」事について。
私は、昔から不思議に思っていたことがあります。この世界には草食動物と肉食動物が存在していますが、
大きな牛や象は草や果実を食べ、一口も肉を食べずとも大きな体と長い寿命を維持していること。
パンダの様に元々肉食でありながら、笹を食べて生きている動物がいること。
私たち人間は(進化論に基づくと)元が猿であれば肉を食べずとも木の実や草等でも生きられる筈なのではないかということ。
今回図書館でふと見つけた本に、これらの謎を解くようなヒントが書かれているのではないかと思い、読んでみることにした次第であります。
出だしは肉の謎について
本作は筆者の母が肉食を断とうとするところから始まります。しかし、2週間後には禁煙に挫折したかのように「肉が好きだから肉を食べる」と再び食べる姿があったと。このことから筆者は
「肉断ちは難しく、肉には手放せない何かがある」と感じたそうで、
「本書はなぜ人類が肉が好きなのか探求し、肉の摂取がどう悪いか影響を語るのではなく、ただ単純にこの部分を突き詰め提示していく」とありました。
健康にも地球にも動物にも良くない肉食の習慣。私達は知っていても尚、肉の虜になり食べ続ける。言わば人類と肉の恋愛物語。
読んでいてワクワクするような気持ちになりました。
肉の必要性
続いて15億年前の海まで遡り、如何にして人類が進化の過程で肉食に変化していったのか、そして歴史的に見る肉の必要性を紐解いていきます。ここでは昔の環境に対して肉が効率の良い栄養摂取源だった事や、人類が道具を使い始めた事によって体が如何にして肉食に適していったか、そして文化的に肉が特別であり、徐々に神格化されていった事が解りました。
更に、どうして人間が肉を欲するのか、栄養学的な側面が関係しているのか、はたまた味覚的な嗜好によるものなのかが詳しく述べられていました。
本作4章までの中に、今まで知らなかった栄養や味覚の話がぎゅっと凝縮されわかりやすく載っておりました。非常に為になり、新しい知識を増やせたことがとても嬉しかったです。
肉に限らず、自分の体が食べ物を欲するメカニズムや、人による味覚の感じ方の違いなどがよくわかり、中には最近流行りのダイエット方法の一つとして、低炭水化物・低脂質を基調とし、タンパク質を多くとるものがありますが、それに通づる「ウサギ飢餓」という話も載っていたりと、非常に勉強になる内容でした。
また、ここまではとてもお腹が空いてくる内容でもありました。肉の何が私達を虜にしているのか。脂肪?食感?はたまた旨味?焼いた肉と生肉で魅力を感じるのに差があるのは何故なのか。
この章までに出てくる肉の表現がとても美味しそうで、ついじんわりと焼かれたステーキを想像してよだれが溢れそうになりました。
更に、肉への欲求を誤魔化す為に、舌を騙す方法は無いかと筆者が考えた方法として、
肉の脂肪の代わりにアボカドやナッツ・チーズ、焼きたての肉の代わりとして焼きたてのパンや焼いた野菜、肉の旨味成分は豆腐ステーキはどうかと。
それらもとても美味しそうで、「これだけ聞くとなんちゃってベジタリアン始められそう」なんて思ったりもしました。
残酷な現実
ペンシルバニア州立大学食肉研究所についての話です。
この章の章題は「肉をおいしくする方法」
今までは栄養学や歴史に基づきつつ、肉が人間を虜にしている事実について述べられていましたが、この章からは肉を獲得する裏で行われている残酷な現実を突きつけられました。第5章は、見なければならないが、目を逸らしたくなる気持ちにさせられます。スーパーに並ぶ肉を思い出しながら読むと、私は息が苦しくなりました。
肉は本来これほど安く流通することは不可能。しかし、どうして野菜よりも安く売られているのか。
もう肉食欲は止められないのか
前の章から恐ろしくなって参りましたが、読み進めました。
第6章では人の恐ろしさがありありと綴られております。正直、半分は陰謀論めいた話でもあると思ってしまいましたが、他人による人生の搾取や、利権がらみの話、
中でも、「私達が肉を喜んで食べているのは肉が上手に売られているからだ」という文言が印象的でした。
消費者の味蕾による欲求よりも、食肉業界のコマーシャルが肉食の程度を大きくしているという話は怖かったです。
人は食べたもので出来ている?
ここで再びどうして人は肉を欲する様になったのか、食肉の歴史的背景へと話題が戻ります。
肉を手にする事と権力の関係、強さの象徴としての獲物の肉の存在、肉を食べると肉食獣のように強くなるという文化の広がりについて述べられていました。まさか、肉の話で男女平等問題について触れられるとは思いませんでしたが、権力の話から関連してそういった話も少しだけ載っています。
筆者の主観
本作の冒頭に「本書はなぜ人類が肉が好きなのか探求し、肉の摂取がどう悪いか影響を語るのではなく、ただ単純にこの部分を突き詰め提示していく」とあった為、恐らく筆者は中立的立場から客観的にこの本を執筆したのだろうかと思っておりましたが、章が進むごとに少しずつ肉食の悪影響が前面に出てきており、最終的には割と偏りのある内容だったように思ってしまいました。
もしかすると、筆者は元々は中立的立場にあったかと思われますが、執筆にあたって資料を集め、研究を進めていく内に、食肉による悪影響を多く知っていったのかもしれません。
薬のような本だったな、と思いました。正直、しばらく肉は口にし難いです。
次に読むとしたら
なかなか難しい作品でありましたが、今後このテーマで読むとしたら、今作の筆者と同意見の方も勿論のこと、あえて反対意見の方の話や、完全に中立的な意見の方の話も合わせて読んでみたいです。
例えば、食肉業界で生計を立てている方も世界にはいらっしゃいますし、猟師として自然と共に生きる方、宗教上口に出来ない方もいらっしゃいます。
正直、本作一冊を読んだだけでは私の思いもまとまりませんでしたので、あらゆる方の話を更に読んでみたいと思いました。
本作は当たり前にある食肉の考え方に疑問を呈してくれたと思います。
とはいえ、私は今後一切口にしないかと言われれば、出来ません。
私一人が食肉を辞めたところで、スーパーには今日も悲しい過程で“収穫”された肉は並びます。
更に、豚や牛だけでなく、植物にも魚にも同じく命は宿っています。私達は食肉を辞めたとしても、結局他の命を食べなければ生きていけません。
現時点で自分に何が出来るかと考えたら、拘らず欲張らず必要な分を、今まで以上に感謝して大切に食べる事だと思いました。
「いただきます、ごちそうさま」
命を食べる事に敬意を払いながら、生きていけたらと思います。
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