『敵は、本能寺にあり!』 第十二話『天魔が来たりて……』
勝家を信長のもとへ走らせるよう手筈を整えた可成は、交通の要所である坂本の街道を封鎖。浅井・朝倉の進軍を妨害する策に出た。
しかし、続々と届く悲報に愕然とする――。
「坂本に進軍して来た浅井・朝倉の兵は、およそ三万かと」
「止まらぬか……。このまま奴等が摂津へ向かえば、信長様が挟み撃ちに遭う。…………。
否、――しかし、『戦に勝るかどうかと、兵力は必ずしも比例せぬ』……これは信長様のお言葉じゃ――!
皆、山を下りて戦おうではないか!!」
可成は僅か千兵の手勢で宇佐山城を下り、敵軍と相見える決意をした。
そんな無謀とも思える圧倒的な兵力差さえも埋めてしまえる程、彼は戦術に優れている。
此度も見事に勝利をおさめたと、皆が胸を撫で下ろしたのも束の間――。
比叡山から迫り来る消魂しい足音と咆哮に、坂本の街は揺れる。
「比叡山延暦寺の僧兵か――!」
近江にも本願寺 顕如の魔の手が伸びていたのだ。
延暦寺の僧兵が敵方に加わると、防いだはずの侵攻が進む。
「ここで行かせれば、信長様の御背中! 我らが任せられた城を、生命に代えても守り通す――!」
可成の檄が飛び、城兵は大軍を押し返した。
「行かせてなるものか――!!」
果敢に挑む可成だったが、僧兵の刃に掛かる。
「――ウグッ!! まだだ……。儂はまだ、死ぬわけにはいかぬ……!」
可成は斬られても斬られても尚、十文字槍を精妙に振り回し戦い続けた。夥しい血に塗れた魑魅の気迫に、対峙した敵は怯む。
歩けているのが不思議な程の深手を負いながらも満身の残力を奮い、刺突を繰り返しては幾人もの兵を倒していく“非凡なる槍の名手”――。
「ガハッ、――グッ、ゴボッ……」
命を燃やし阿修羅の如く猛然と立ち向かうも、ついには大量に吐血。血溜まりの上に膝を突き倒れた。
猛将 可成の討死――。
勢いづいた敵軍は宇佐山城の攻城に取り掛かるが、“城主の死を無駄にはしない”と熱り立つ城兵は、僅かに残った戦力で以て抵抗を続けた。
「可成様の城を、我らの命果てるまで守り抜くぞ――!」
「必ず援軍は来る! 勝家様を信じるのじゃ!」
主君の死に涙を滲ませながらも、互いに鼓舞し合い一歩も譲らない。
逸り怒れる敵軍は大津に放火し、山科までをも焼き払うのだった。
◇
勝家の報せが摂津に届き、大津の事変を知った信長は、すぐに摂津から全軍撤退させ、宇佐山城へと向かう。
「外道の所業じゃ!! 三好も浅井・朝倉も、本願寺と通じておったか――! ――待っておれ可成! 今、行く!!」
信長が救援に現れるまで城兵は踏ん張り、ついには落城を免れた。
信長軍到着に追いつめられた浅井・朝倉は、僧兵と共に比叡山へ逃げ込む。彼らは延暦寺支援のもと、比叡山にて籠城を始めた。
城兵が守り切った“可成の城”で、信長は無言の城主と対面――。
「可成! 何故死んだ――。儂はまだ天下人にはなっておらぬぞ……! 此の“尾張の大うつけ”が、天下人になるまで、付いてくるんじゃなかったか……? うぅっ……、畜生――! 儂が甘かった所為じゃ!! あの時裏切り者の長政を、許さなければ……。畜生! 畜生、畜生、畜生、畜生――――!!」
信長は可成が横たわる城の床に、何度も何度も頭を打ち付ける。
「信長様、おやめください!」
止めに入る家臣を振り解き、額から血が噴き散ろうとも狂ったように叩き付け、恥も外聞も捨て泣き喚き続けた。
「畜生、畜生、畜生、畜生! 畜生――!!
くぅぅ゛……、畜生ぉ…………。
儂は……もう二度と、甘い顔はせぬ――。
地獄の果てまでも、奴等の首を刈りに行く……」
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
まだまだ未熟な私ですが、これからも精進します🍀サポート頂けると嬉しいです🦋宜しくお願いします🌈